白髪の鬼3
実際の平安時代の制度等と異なる点がございますが、パラレルワールドだと思ってご容赦下さい。
鬼四が姿を消して五日目の事。ある農村がほぼ丸ごと炎に包まれていた。白樹の分身らしい小鬼が何匹も出てきて、人々を襲っている。
「いやあ、壮観だねえ。でも、村人を炙り出す為に火を放ったけど、思ったより人が少ない。煙を吸い込んで死んでしまったかな?」
白樹が笑いながら言う。
「お前の恨みも晴れただろうし、今度は、都に戻ってもっと大量に人間を狩ろうか。一緒に来てくれるな?」
「……ああ」
鬼四は、真顔で答えると、燃える村をじっと見ていた。
牡丹に勉学を教えた次の日の夜、時子は鬼ヶ原神社に来ていた。
「またここに来ていたのか」
振り向くと、直通がいた。
「……ええ、眠れなくて……」
「紫苑と牡丹が心配していたぞ」
「……心配かけて申し訳ないと思っています」
相変わらず、鬼四の行方はわからない。光明が式神の杠葉を使って探ってくれているが、見つけるのに時間が掛かるようだ。
「……法眼が人を食い殺したとは、お前は思ってないんだな?」
「当然です。あの方は、そんな事はしません」
「……そんなにお前に信頼されているあの鬼が、羨ましいよ」
「直通様の事も信頼していますよ」
人の気も知らないで。
「……でも、私の事を信頼しているのは、友人としてだろう?」
「……え?」
「私は、お前の事を一人の女として愛しいと思っている。お前にも、私の事を友人ではなく男として見て欲しい。できれば、ずっと共に生きていきたい」
沈黙が流れる。しばしの後、時子が口を開いた。
「……あなたと共に生きたら、私は幸せになれるのでしょうね。直通様は、優しい方ですもの。……でも」
時子は天を仰いだ。
「私は、違う形の幸せを手に入れたいと思ってしまうのです」
「……そうか」
直通は、寂しそうに笑った。
「女が一人で夜に歩き回るのは危険だ。帰ろう、屋敷まで送るよ」
「……ごめんなさい、いえ、ありがとうと言うべきでしょうか」
時子は考えた。いつからだろう、あの優しい鬼の事ばかり考えるようになったのは。あの鬼の側にいたいと思うようになったのは。……いや、きっと考えても分からない。今は、ただ会いたい。すぐに、会いたい。
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