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笑う女6

実際の平安時代の制度等と異なる点がございますが、パラレルワールドだと思ってご容赦下さい。

「成程……しかし、雅広様を密告したのは、本当に実継様なのでしょうか」

「……どういう事でしょう?」

 光明の言葉に、麗子が訝しげな顔をした。

「優秀な雅広様を出世の邪魔だと思っていた者、麗子様を自分の家に取り込む為に雅広様を排除したい者は、他にもいたのではありませんか?……例えば、成房様とか」


 麗子は目を見開いた。実継が密告したのでなければ、自分が雅広を殺めたようなものだと言うはずがない。……でも、本当にそうだろうか。もし、父親が密告するのを薄々感づいていながら追及しなかったという意味なら。何か追及できない事情があったのだとしたら。


「……それでも、私が雅広様を殺めたようなものなのです」

 いつの間にか、実継が部屋に来ていた。

「私は、父が虚偽の密告をしたのかもしれないと思っていたのに、何もしませんでした。心のどこかで、雅広様がいなくなれば良いと思っていたから。麗子を幸せにするのは、雅広様ではなく私が良いと思っていたから」


 麗子は、茫然として実継を見ていた。実継の事を慕っているわけでは無いが、昔からの付き合いだ。嘘をついていないとわかった。

「……本当に、実継様が密告したのではなかったのですね……」

「今まで黙っていて、すまなかった……」

「私の方こそごめんなさい……でも、私……」


 最後まで言い切る事は出来なかった。麗子は血を吐いて、その場に倒れこんだ。

「麗子!」

 実継が駆け寄る。

「光明様、これは一体……」

 時子が困惑して光明を見る。

「大して鍛錬を積んでもいない方が高度の呪いを掛けようとすると、体に大きな負担が掛かります。麗子様も例外ではないでしょう。杠葉ゆずりは


 蝶が飛んできて、先程も見た少女の姿に変化した。杠葉と呼ばれた式神は麗子の側にぴたりと張り付くと、匂いを嗅ぐような動作をした。そして、光明を見ると、ゆるゆると首を振った。

「……麗子様は、もう手の施しようが……。御本人の前ですが、正直に申し上げます。……今すぐ亡くなってもおかしくない状態です」

「そんな……」

 その場に居た全員が固まった。


「……これで、いいんです」

 麗子が力なく笑って言った。

「……生き永らえても、私は……実継様の気持ちに応える事ができませんし、なにより、雅広様を陥れた者を恨む気持ちが消えなくて……雅広様を失った悲しみが消えなくて、辛いのです……」


「一つだけお聞かせ下さい。ここまで高度な呪詛を行うのには、誰かしらの指南があったはず。あなたに呪詛の方法を教えたのは、どなたですか」

「……名はわかりません。神社でたまたま会った方に事情を話したら、呪詛の方法を教えて下さいました。……何故初めて会った方に話す気になったのかは、自分でもわからないのですが……」

 それを聞いて、光明は苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「……実継様、ごめんなさい。私、やはりあなたを愛する事は出来ない。……どうか、他の方と幸せになって……」

 意識が無くなる直前、麗子は雅広の幻を見た。

「……莫迦な女だ」

 雅広が、悲しげに笑って言う。

「ごめんなさい、でも、私にはあなたが全てだったの……」

「人は死んだら終わりだ。……でも、仏の教えには、輪廻転生というものがあるらしい。もし本当に輪廻転生というものがあるのなら……またお前と一緒になりたい」

「私も、あなたと一緒になりたい……」


 麗子の身体は、もうぴくりとも動かなかった。

「麗子、麗子……」

 実継は、ずっと麗子の身体を抱きしめていた。


 数日後の夜、時子は鬼ヶ原神社を訪れていた。

「どうした、こんな夜中に」

 鬼四が穏やかな声で尋ねた。

「……眠れないのです。麗子様の顔が頭から離れなくて……」

「……そうか……」

「何故ここに来たくなったのか、自分でもわからないのですが」

「……そうか」

「……今更ですが、お邪魔しても?」

「中に入ってもいいが、外で月でも見ないか?」


 二人は、並んで境内にある岩に腰かけた。

「麗子様、子供達に読み書きを教えていらっしゃる時、本当に優しい顔をしていらしたんです。そんなお方が、あんな事になってしまうなんて……」

 時子は、今にも泣きそうな顔をしている。

「……泣きたいなら泣けばいい」

鬼四がそう言うと、時子は鬼四の胸に顔をうずめて、声を上げて泣き始めた。泣き声が、ずっと夜空に響いていた。


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