笑う女2
実際の平安時代の制度等と異なる点がございますが、パラレルワールドだと思ってご容赦下さい。
病状等の聞き取りを終え、時子、光明、鬼四、綾子の四人は、綾子が過ごす部屋に集まった。
「それで、兄の病の原因はわかりましたでしょうか、光明様」
早速綾子が切り出した。
「ええ……高度な呪いを掛けられているようですね」
「呪詛……やっぱりあの女……」
綾子が顔を歪めた。綾子は、麗子が実継を呪詛したのだと思っている。理由は、一言で言うと財産。
そもそも麗子は、実継との婚姻が初めてではない。十九の時に最初の夫である大江雅広を亡くし、その後すぐ実継と再婚している。綾子は、麗子が自分の夫の財産を食い潰し、用済みになったら次の夫を探す女だと思っているのだ。
「今の段階では、呪詛したのが誰かはわかりません。明日また詳しく調べてみましょう。……しかし、再婚が早すぎるとはいえ、呪詛したのが麗子様だと断定するのは早計なのでは?」
光明の疑問に、綾子は眉を顰めたまま答えた。
「でも、知人から聞いたのよ。あの女……雅広様の葬儀で、笑っていたって……」
次の日の朝、光明と鬼四は再び実継の屋敷に来ていた。今日は麗子も綾子も不在との事だった。光明は蝶の形の式神を、鬼四は紙を人型にした式神を放ち、呪いの原因を探った。
すると、庭の木に小さな人型の木片が打ち付けられている事がわかった。これが呪いを媒介しているのだろう。木片を取って、鬼四が言う。
「これを浄化すれば病は良くなるのか?俺は浄化できないが……お前は浄化できるか?いや、浄化できますか?……先生」
鬼四は、光明を先生と呼ぶ事にした。形式上助手であるし、なにより、光明の実力が自分より遥かに優れていると気付いてしまったから。
「浄化は出来ますが、ただ浄化するだけでは根本的な解決にはなりません。呪詛した人物が誰か突き止めなくては。……どうやって突き止めるか、わかりますか?」
「この木片は、わざと色んな念を込めて誰が呪詛したのかわからないようにしてあるから……地道に、念を一つずつ式神を使って引き剥がして、関係ない念を浄化していく。そうして残った念の正体を突き止める……?」
「正解です」
光明は、にこりと笑った。
「お前は浄化が出来ないと言っていましたが、浄化の仕方を教えるので、お前も浄化に協力しなさい」
浄化は、慣れていないとかなりの体力を消耗すると聞いている。鬼四の顔が引き攣った。
光明と鬼四が呪いの原因を突き止めているのと同じ位の時刻、時子と直通は寺に来ていた。麗子がたまに寺で子供達に読み書きを教えていると聞いたからだ。綾子は麗子の事を悪女だと思っているようだが、時子は自分自身で麗子の人柄を知りたかった。
「直通様、お忙しいでしょうに付き合って頂いてありがとうございます」
「いや、同行は私が言い出した事だし、良いんだ」
直通が従者を下がらせ、二人だけで寺の中に入って行く。
庭に何人か子供がいたが、次々と講堂に入って行く。時子達はこっそり講堂を覗いた。中には既に麗子がおり、筆を持って子供に何かを教えていた。麗子は子供達に優しい笑顔を向けていた。時子には、麗子の笑顔が演技だとはどうしても思えなかった。じっと麗子を見ていると、いきなり後ろから声を掛けられた。
「おや、どうしました?」
振り返ると、人の良さそうな住職が微笑んでいた。
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