笑う女1
実際の平安時代の制度等と異なる点がございますが、パラレルワールドだと思ってご容赦下さい。
よく晴れたある日、芦原家の時子の部屋に、一人の客人がいた。名を芦原綾子といい、時子と同じ十七歳。少し目つきが鋭いが、可愛らしい顔立ちをしている。時子の父親と綾子の父親は従兄弟同士である。
「本日はどうされました?」
時子が微笑んで綾子に尋ねた。
「……あなたは、腕の良い陰陽師と知り合いだと聞いたわ。紹介してくれないかしら。陰陽師に相談があるの」
聞けば、綾子の兄、実継が病に臥せっているという。評判の陰陽師に診てもらっても原因がわからないらしい。実継は床から起き上がれず、苦しそうに息をしている。そんな姿を綾子は見ていられないようだ。
「……そうでしたか。私の父も病に臥せっていたので、お気持ちはわかります。診てもらえないか聞いてみましょう」
「ありがとう。恩に着るわ」
綾子は、目を伏せて礼を言った。
「それで、何で俺の所に来る?」
鬼ヶ原神社の中で、眉を寄せながら鬼四が尋ねた。神社の中には、鬼四、時子、光明、直通の四人がいた。
話を聞くと、まず、時子が光明に相談を持ち掛けたとの事。鬼四に相談しようかとも思ったが、陰陽道にある程度詳しくても、鬼四を貴族にあまり関わらせるのは危険だ。正体が露見する可能性も考え、時子は一旦鬼四には相談しない事にした。光明が続けて説明する。
「しかし、私もこう見えて忙しい身でね。綾子様の相談に乗るのに手伝いが欲しいと思ったのですよ。それで、お前に目を付けたわけです。私にも陰陽師の知り合いは大勢いますが、お前以外は、はっきり言って実力も人格も大した事ない方ばかりです」
妖艶な笑顔で語っているが、陰陽師の方々は酷い言われようである。
「見るところ、お前は私より腕が劣るが、知識はあるようだし、式神を人型に変えて操るくらいはできるようだ。お前の牙も私なら見られないように細工できるし、私の助手として同行しなさい」
「いや、断る理由は無いけど……助手……まあいいか。行くよ。しかし……何故こいつもいるんだ?」
直通を指さして鬼四が言った。
「私が直通様にお伝えしました。その方が面白そうなので」
「時子と光明が法眼の所に行くと聞いてな。万が一にも時子と法眼が二人きりにならないように見張りに来た」
光明と直通の笑顔が恐い。何はともあれ、鬼四は実継のいる屋敷に同行する事になった。
数日後、時子、光明、鬼四の三人は、実継とその妻の住む屋敷に来ていた。三人を迎え入れたのは、先に屋敷に来ていた綾子だった。
互いに自己紹介を終えると、四人は早速実継のいる部屋に向かった。部屋にいたのは、真面目そうな男性だった。実継は二十二歳との事だが、もっと上の年齢に見える。
「わざわざ来て頂き、ありがとうございます」
実継は、陰陽師達に礼を言った。少し苦しそうな表情をしているものの、陰陽師二人が病状に関する質問をすると、実継は丁寧に答えていった。
しばらくすると、実継の部屋に入ってくる者がいた。実継の妻、麗子である。実継と同じ二十二歳。彼女の姿は印象的だった。少し茶色がかって縮れた髪の毛が垂れ下がっている。美人の条件と言われる髪の毛ではないが、何故か魅力的に見えた。
「あら、もうお客様がいらしていたのね……。失礼致しました。妻の麗子でございます。宜しくお願い致します」
そう言って麗子は少し微笑んだ。二十二歳にしては幼い顔立ちに見える。
「綾子さん、何か私に出来る事はあるかしら」
「いえ、陰陽師の方々の対応は私や侍女で致しますので、あなたはご自分の用事をなさって」
「そうですか、何かありましたら呼んで下さいね」
そう言って麗子は部屋を去っていった。綾子が麗子を見る目には、冷たいものが含まれていた。
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