第4幕 移動教室
第4幕にはBL要素は登場しません。ご理解頂いた上でご覧ください。
9月15日
あれから1週間。時々彼と話すようになった。と言っても、話す、と言っていいか分からないような会話がほとんどだけど。あれから観察したけど彼は他の男子には水本って呼ばれてるし彼が他の男子を下の名前で呼ぶこともない。自分は特別な存在なのだろうか。聞くに聞けない、というか自分から話しかける勇気はないから悩むばかりで時間は過ぎていく。
3限。生物の授業だった。いつものように1人で生物教室へ移動していると後ろから彼が話しかけてきた。
「あのさ、秋は他の奴下の名前で呼ぶこととかあんの?」
「へ?」
想定外の質問に裏返った声が出てしまった。
「いや、世論調査?っていうか、ちょっとそういうデータ集めてて。」
そりゃそうか。特別だから、とかではないよな。少し自惚れたことに恥ずかしくなった。
「俺は、奏多以外の男子を下の名前で呼んだことないよ。」
「へー。女子は?」
「女子も、ない。」
「へー。じゃあ俺が初めてな訳だ。」
俺から目線を外して窓を眺める彼。どういう質問なんだろうこれは。
「あ、あの、これもしかして演劇用の質問?」
「え.......?」
しまった。触れてこなかったのに。あの日見てた俺なんて知らないだろうに、気持ち悪いストーカーだと思われてしまう。
「秋、お前あの演劇覚えてたのか?」
「か、奏多こそ覚えてたの?」
「覚えてたっていうか、俺は演じてる側だし.......。本番のこととか忘れねぇよ。」
「そ、そうだよね、ごめん。」
「だから謝んなって。これ言うの何回目だよ。」
「.......ごめん。」
なんだか俺は失態を繰り返している気がする。いつも落ち着いていて、かつクールな彼にとっては滑稽だろう。またネガティブ思考に戻ってしまう。
「何ぼーっとしてんだよ。遅れるから早く行くぞ、秋。」
そう言って俺の少し前を歩く彼は、あの日見たスポットライトに照らされているように、美しかった。彼と2人で行動するのは初めてで少し緊張したのは内緒だ。




