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異世界スロー旅~雑草少女の旅するスローライフ~  作者: 鷹山リョースケ
第二章

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挿話 アレ教会

 フリアンが国の偉いお役人達に助け出されてセルバに戻った時。

 町は何もかもが変わっていた。


 まずセルバ子供の家だった建物はただの廃墟になっていた。

 真っ黒に焼け落ちていた。

 元より帰らないつもりで出立はしたが、それは絶対的なものではなく、無意識下ではまた帰ることもあるだろうと思っていた、緩やかな気持の整理程度であった。

 それが木っ端微塵に打ち砕かれた。


 焼け落ちたのは子供の家だけではなかった。

 町長館や前庭公園といった町の中心部、貴族街の一部、そして――

 フリアンの家があった郊外一帯が全て黒く焼け焦げていた。



 大火事があったのだという。

 原因は調査中だが、燃えた場所が飛び飛びであることから放火だと噂になっていた。

 難民達は火に気付くのが幸い早く、避難が間に合った。

 火傷をした者はいるが重傷者や死者はいなかった。

 だがせっかく魔獣被害から逃れて、やっと落ち着く場所を得て、再起に向けて希望も見えて来たところでこの大火は衝撃だった。

 畑も収穫前に全て焼けてしまい、また難民に逆戻りで、心が折れても仕方ない。

 町中では町長や一部の町役人が犠牲になったことで、暗殺の噂もあった。

 

 フリアンは完全に行き場を失った。


 どうしたものかと話し合っている国の偉い役人達を、フリアンはまるで他人事のようにぼんやりと眺めていた。

 何も考えられずただ部屋の隅で座っていたフリアンだったが、ジーナに連れ出され外に出た。

 そして町を見て廻り、惨状を知ったのである。



 ◇ ◇ ◇



 かつて家族でささやかながらも幸せに暮らしていた生家。

 思い出がつらくて子供の家に入ってからは避けていた。

 あれから初めて戻った生家は、戦災にあったかのように真っ黒に焼け落ちていた。


「こいつぁ、また……」


 言葉が出ないジーナの横で、フリアンは何故か奇妙な納得を覚えた。

 誰が悪いとか何が悪いとかいう域を超えた、どうにもならない大きな嵐が全てをめちゃくちゃにしていって、自分は運良く生き残った。

 ただ、それだけなのだ。

 きっと、それだけ。


 立ち尽くすフリアンの前では難民の子供達が瓦礫を片付けていた。

 ジーナが近づいていって話かけ、それからフリアンを呼んだ。


「この子がこの家に住んでた子っすよ」


 ジーナは単に子供は子供同士、一緒にしておけばよかろう程度の考えだった。

 特に深い意図はない。


 そして初めてテルセロとロドルフとフリアンは出会った。

 しりとりが終わる! とアレアが評した三人だった。



 結論からいうとフリアンは難民の子供達と合流した。

 フリアンの元生家を拠点にしていたことや、今後も拠点にすること、イシドロの働きかけなどもあった。


 また、郊外の近隣農家も大火に巻き込まれ被災者が出ており、混乱していた。

 その中で親を亡くした子供は子供の家に行くはずが、その子供の家も焼失しているという有様だ。

 そういうわけで難民の孤児も町の孤児も一緒にされた。


 三人は最初こそぎこちなかったが、共通の話題が見つかると打ち解けるのは早かった。

 お互いの体験を語り合い、あっという間に「仲間」になった。

 アレアという嵐に遭った者同士として。



 ◇ ◇ ◇



「ここに教会を建てましょう」


 ある日、イシドロが突然宣言した。

 テルセロとロドルフは首を傾げた。


「なんですか『きょうかい』って」

「まあ、集会所ですね。信徒が集まり、語り合ったり祈ったりする所です」

「はあ……」


 テルセロとロドルフはフリアンを見た。フリアンは頷いた。

 フリアンは先にイシドロから話を聞いて了承していた。

 もっとも、聞いていた話では親のない子供達がいったん身を寄せる場所、というような話だったのだが。


 大火の混乱のどさくさに紛れて、イシドロはここを神殿施設として登録した。

 土地に権利を持てるわけではないが、集う信者達が真っ当に利用する限りは一応、町長でも疎かにはできない。

 ――もっとも、教会の件を知ったリッカドンナが大変満足し、色々と手を回しておいたという裏事情もあった。


 胡散臭い目でイシドロを見ていた三人だったが、イシドロは自信満々だった。


「ミニス……いえ、アレア様をこの教会の守護聖人として祀りましょう!」

「ハァ?!」


 イシドロは三人の肩に強く手を置いた。


「それが一番よいのです」


 なにがよいのか三人は全く判らなかったが、イシドロの目を間近で覗き込んで、何か言うのを止めた。時間の無駄だ。


 まあ集まる子供達は大半がアレ党のメンバーなので、アレニキを拝むのにさして抵抗はない。

 小さい子には悪いことをするとアレニキが殴りに来るぞと言ってるぐらいなので、拝ませておいても大して変わりはない。


「魔除けにはなるんじゃないかな……」


 フリアンの呟きにテルセロとロドルフはゆるやかに同意した。



 イシドロは辺境で聖女に触れ、ミニステルとも面識を得たことで天啓を受けた。


 と、思った。


 いつかミニステル様が正式に神官になった時に、その足跡として自分はここで威光を伝えなくてはならない。

 イシドロとしては大真面目だった。


 かくしてフリアンの家があった場所には「アレ教会」が建ち、その後長くセルバの人々の心の支えとなっていく。

 「アレア教会」にならなかったのはテルセロ達が「アレ党」で馴染んでいたのと、本名を憚る土地柄のせいだった。


 その登録を見たエルベルトは「何だ『アレ』って……?」と疑問に思いはしたが、特に問題はなかったので気に留めなかった。



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