挿話 アレアの嫌がらせ
こつこつ書き上げた紙束をトントンと揃え、私はふぅと息をついた。
手書き辛いわー、それが一番しんどかったわー。
あれから。
私達はセルバには戻らず、領都へも向かわず、近くの町で準備を整えるとカルレオン領を出た。
どこへ行くにもちょっとした旅になってしまうこの世界で、道中の合間に私は小説を書いた。
――若き美青年トレジャーハンター・へーベルテックは旅の途中、野営地を求めてとある廃村跡へ訪れる。
周囲を調べると、なんと未調査の洞窟を発見。
職業柄、更に深く調べようとしたその時! 襲い掛かる暴漢達!
そこは盗賊団のアジトと化していたのだった!
洞窟内を舞台にへーベルテックと盗賊達の一進一退の攻防、だが多勢に無勢、あえなく捕まるへーベルテック。
世を憚るゴロツキ共の群れに捕まった美青年がどうなるか。
当然、総当たり戦の乱取りが始まる。全裸で。
熱い汗やその他液体が飛び散る筋肉の祭典である。ヒュウ。
お祭りシーンは勿論ドシュッパンパンパンの銃撃戦スタイルだ。いちいち詳細に書いてられるか。こんなもんはIQ3でしょうもないほどいいんだよ。
ゴロツキのくせに無駄に高い語彙力で煽り散らかすオッサン共と、無様な悲鳴を上げるへーベルテック君の夜のお祭りは朝まで続く。
盗賊共が満足して眠っている隙にへーベルテックはなんとか脱出に成功。体力あるなあ。
そして逃げ出したヘーベルテックの背後で偶然にも洞窟の出入口が崩落し、盗賊共は洞窟内に閉じ込められたのであった。
へーベルテックの旅は続く! 完!
お祭りシーンが主体の話だから終わりなんて適当にフェードアウトだ。
私はこれを読み物新聞にしてセレステ商会系列で売ってもらった。
いつぞやのドミティラさんの店で売ってたあのしょうもない、字が印刷された包み紙と同じやつだ。
「本」を出すにはなにかと敷居が高いが「新聞(ペラ一枚のチラシでもこっちに含まれる)」は結構自由で、カスな怪文書ビラからクオリティペーパーまで千差万別である。
私はそのカス枠で出した。限界まで価格は下げて、定番の新聞屋や小売店の店先のみならず、乗合馬車の待合室だの酒場だの夜のお店だの、とにかく広めるのが目的だから見境なしにあらゆる場所に撒いたったわ。
無料配布でもよかったぐらいだけど私の所持金では無理。印刷費を借り入れたぐらいだし。そりゃ言えばグラディもベルレも資金出してくれたと思うけど、それは違うじゃない? 私の嫌がらせなんだし。
何より微々たる額でも可能な限りお金の事はちゃんとしたい。それでなくても万事おんぶにだっこで生活丸抱えしてもらってるんだから。
お気遣いいただいて初版はセレステ商会が買い切りしてくれたんだけど、意外と売れたらしい。
高尚さのカケラもないブッ込みテキストが受けたっぽい。ジャパン仕込みの直球セリフ集だもんな。最高に余計な文化を投入したかも。あの世で皇帝にブン殴られそう。この世界にあの世があるのかどうか知らんけど。
借り入れた印刷費は無事返済し、以降の売上は貯金になる。口座に自動的に振り込まれるから次に残高を確認する時がたーのしみー。次の印刷費になるといいなあ。
そう、口座を作ったのだ! なんとオリエンスギルドで作ったよ。その話はまたいずれ。
へーベルテック君の職業だけど、旅の神官という設定は没になった。
グラディに相談した時、一団を形成するほどの盗賊なら辺境を旅する神官からはまず逃げると言われ、冒険者に変更した。
辺境域の神官は犯罪者にとっては最大警戒対象なのだ。もし弱そうに見えても何かの罠かと思うのが普通だって。
というか辺境をうろちょろしている神官は九割方丘の神官、つまりグラディの同類。命乞いが間に合わない。
それはそれでじゃあ冒険者はチョロいんかい、ってなるけど、身の丈に合わない冒険をしてしくじった奴の話は枚挙に暇がないそうなのでヨシとのこと。あー、ありそう。
この調子で時間があれば第二弾、第三弾と書いてやるつもりでいる。
みてろよヒューベルテュス、判る人には判るという、この高度で陰湿な誹謗中傷を。
外見についてはヒューを念頭にしっかり描写しておいたからな。どっかで「あなたへーベルテックに似てるわね」と言われてほしい。
ちなみに著者名または発行所をどうするのか聞かれてそりゃ当然フレンチ書院でしょ、と思ったけど、もし私以外の転生者がいて気づかれてもなんか嫌だなと思って紆余曲折した結果、「アインサニア書院」になった。
アインサニアとは昔南方にあった国で、皇帝のお妃が初代国王だった七つの王国のうちの一つだ。
だが古代のドラゴン戦で主戦場となり、ほぼ滅亡したそうな。
多少名残のような都市や遺跡が残っているそうだけど、他にも戦場になって吹っ飛んだ地域と合わせて今では砂漠になってたり、小国が群雄割拠していたりするらしい。
いくら亡国といっても帝国直下の伝統国なのに、こんな悪行に名を使っていいの? と思ったけどグラディもベルレもOKって言うから、そんじゃいいのかなあ、と。
なんでも今は無い国ということで、フリー素材みたいな扱いで自由に使われているらしい。
しょうもないカスペーパー出したい時は発行所として使っていいよ、とセレステ商会には言ってあるので、カスのラインナップが充実するといいな。世の怪文書系新聞もこういうマインドで発行されてるんだろうか。
◇ ◇ ◇
――その後、夜の裸祭り話が局地的に流行り、何人かの作家がセレステ商会に持ち込んできたので全部アインサニア書院名義で出したそうだ。
被害担当艦へーベルテックはいわばシェアワールド化して、いろんな人がいろんなシチュのお祭りを書いている。いいことだ。
私があの世で皇帝にブン殴られる確率はだいぶ上がったが。
Q 「お祭り」ってなんですか?
A ジャパンでは成人になったら読めるジャンルのことです。




