048 刺していいおっさん
「アレニキがあんな平和な手段で追い返すなんて……」と、しみじみ感動していたロドルフだけど「そんな知性があったなんて……」という副音声が聞こえたのは気のせいかな?!
そんなこともあったので溜まり場にはしばらく通うことにした。
直通路のことも考えたいし。
イシドロ氏に言えばなんか働きかけてやってくれそうな気もするけど、あの人には近づきたくない……。
そうそう、グラディからお返事が来てたんだよね。
ミニステルについて。
『昔の言葉。好ましくない』
好ましくない、というのがあまりグラディらしくなかった。
文字量制限で表現に困ったんだろうけど。
とにかく良いことじゃないなら、やんわり回避ということで。
だからイシドロ氏に頼むのはナシかな。
魔法でどうにか出来ないか検討してみたけど、かといって昼日中にドッカンドッカンやるわけにもいかない。
しばらくあれこれ考えて、土中からランスを撃ってみようかと考えた。
上からブッ込むと目立つから下から破壊しておけば、あら崩れちゃったわ~、で済むかと思って。
やってみて驚いた。
土中にめっちゃスムーズに魔法が通る!
空中にランス作るより土中にランス作る方が楽だった。魔力のまとまりが抜群にいい。形をイメージし辛いのはあるけど、そこは練習次第かなと思う。
魔力を流して探った時も思ったけど、元から魔力が詰まってる場所というのが大きい。
はー、これがウルトラエクセレンス大農業国の大地かー。すごい。「国土に魔法がかけられている」という事象の一端に触れた気がした。
と、いうわけで。
テルセロん家の横にある植え込みの陰でしゃがみ込み、地面に手をあて、土中にランスを作って岩の層に撃ち込んでみた。
ズズウゥ……ンとでもいうような鈍い振動が地面から伝わってくる。
テルセロが慌てて家から飛び出してきた。
私と目が合った。
「……」
……嫌な事件だったね。みたいな顔して無言で戻っていった。
なんだよ! いや、いいけど。いいんだけど!
あいつ自分から私の手下になったくせに、最近、運命に耐えるみたいな諦観が態度から透けて見えるんですけど?!
その後何度か撃ち込んで、そのたびに軽い地響きがあったけど誰も外に出てこなかった。
手応えはそれなりにあったんだけど、結局、崩れはしなかった。
うーん。
◇ ◇ ◇
次の日。
もうちょっと撃ち込んでみようかと思ってテルセロん家方向へ歩いてたら、前からいかついおっさんが歩いてくるのが見えた。
このあたりって畑しかなくて、その上なぜか今はどの家も畑仕事を休んでる状態だから、人通りというものがない。私達がうろちょろしてるぐらい。
なので珍しい。
農夫スタイルでもなく、使い古したマント姿だ。マントの下は厚手の胴着で、腰のベルトに色々アイテムを下げて長剣まで吊っている。いかにも冒険者風だ。
こないだの感じ悪いパーティの仲間?
私が警戒度を上げて見ていると、おっさんはだんだん近付いてきて……そして立ち止まり、おもむろに膝から崩れ落ちた。
何事?!
なんかの発作とか怪我なら助けなくはないが、警戒はする。そういう詐欺や路上強盗の手口は知ってるからね。
でもどっかで見たようなおっさんなんだよな……どこだ……? セレステの支店にいたっけ?
地面に蹲るおっさんの後頭部を見ながら駆け寄り、長剣の間合いを外した距離から「大丈夫ですかー?!」と呼びかけた。
おっさんが呻きながら絞り出すように声を漏らした。
「嬢ちゃん……なんでいるんだよ……」
嬢ちゃん?
……私の脳内メディアフォルダがロールする。
セレステの支店じゃなくてー、その前のあれとかこれとか、野営ん時の商隊のおっさん達じゃなくてー、あー。
あっ。
「刺してもいいおっさん!」
「ダリオだダリオ!」
やべえ、条件反射でナイフ抜いちゃった!
誰もいないからいいけど、誰か見てたらぐうの音も出ないほどの強盗だ。私の方が路上強盗だった!
そそくさとナイフをしまう。ふう。
その間におっさんがよろよろと立ち上がった。
呆れた目で私を見てたが無視する。
「おっさん何してんの」
「そいつぁおっちゃんの台詞だぜ……なんで嬢ちゃんがこんなトコにいるんでい」
「セルバの孤児院に入ったから」
「はあ?! えっ、姫様達はどうした?」
そう問われると、微妙に返答に困るな……。旅行中?
そういえばどうやって再会するんだろ。またセルバに戻ってくるのかな? そのあたりなんも相談しなかった。
このまま別離の可能性もゼロではないけど、それならそれで別にいいし。
冒険者になってめっちゃ追跡するから。旅の目的ができていいや。
「別行動中?」
「俺に聞かれても。てぇか、なんでいるんだよ……勘弁してくれ……」
なぜか勝手に「絶望した!」みたいに嘆いてるのにイラッとした。
なんなんだ。
「私がいようがいまいがおっさんに関係なくない?」
「ばっか大アリに決まってんじゃねーか! あのな、ここに嬢ちゃんがいるな?」
「うん」
「そしておっちゃんがいる。どういうことか判るか?」
判らん。
私が何言ってんだこいつ、みたいな顔をしていたらおっさん――ダリオは天を仰いで嘆いた。
「つまり、この町で嬢ちゃんに何かあったら、おっちゃんのせいになって、姫様に折檻されるってことだ!」
「えー……そうかなあ」
そうかなあ。
別にグラディはそんなこと考えないと思うけどなあ。
折檻するとしたら、単にやりたいからやると思うよ。
私がそう言ってもダリオのおっさんは信じなくて、とりあえず子供の家にいることと、この上の空き家が溜まり場だということは伝えた。
「上?」
「ここらへん、ずっと向こうまで地形で段差になってるじゃん。こっち側からあっちの……ほら、あの家。あの家まで近道欲しくて。崖崩して直通路作りたいんだけど、岩の層があって」
「へぇ」
話しながら二人で歩いて行き、フリアン家の下あたりで足を止める。
ダリオは段差を見回して、私がランスを撃ちまくったあたりに手の平を当てた。
「んー……? 中は結構崩れてんなぁ。どれ」
ダリオはいったん手を退いた。
それから立ち位置を少し変え、腰を落とす。
すぅ、と息を吸う音がして、勢いよく手の平を突き出し、土から露出していた岩を叩いた。
勢いとは裏腹にぺち、と間抜けな音が響く。
だが私は剛速球が真横を通り過ぎたような、ひやっとした感覚に襲われた。
「おっと」
ダリオが素早く飛び退いて、離れた位置にいた私のところまで戻る。
一拍後、重い音と共に土砂が流れ落ちた。小規模な崖崩れだ。
えー!! すごくない?!
「わお!」
私は素直に驚いたよ。おっさん、拳法もできたのか!
いや、魔法なのか?
「やべぇ、逃げろ逃げろ」
ダリオが駆け出す。私はほぼ条件反射で追った。足をロープで縛ってないダリオは……普通に速かった。
テルセロ家の塀の裏手に回り込んで、樹の陰で一息つく。
物陰にすら不自由する畑地帯なのよね。
「もうだいぶ崩れってたからな。嬢ちゃんがやったんか?」
「知らない」
「うんうん、それでいい。何でも喋っちゃあいけねえよ」
ダリオのおっさんのお陰で思いがけずここに階段を作る目途がついた。
ツイてるね!
お礼としてグラディにおっさんにお世話になりましたって手紙送っておくよ、と言ったら「止めてくださいお願いします」と土下座で泣かれた。
えー、なんでよ。本当にお礼の気持なのに……。
そこではた、と思いついた。
一度、冒険者ギルドに見学に行ってみたいと思ってたんだけど、さすがに誰か大人が一緒がいいかなと思って、未だに行けてなかったんだよね。
こんなところに丁度いい大人が!
「嬢ちゃん、ろくでもねぇこと考えてる顔してるぜ」
「冒険者ギルドの見学に一緒に行って欲しいんだけど」
タダってわけにはいかないよね、お金……は小銭しかないし。
「グラディに一回だけ真剣に助命嘆願するから」
「よし乗ったぁ!」
めちゃくちゃ食いつかれた。そこまで?!
気を使ってくれたのかもしれないけど、まあいいや。ありがたくもらっとこ。
◇ ◇ ◇
「おっちゃん、セルバの冒険者ギルドに入ったことねぇんだよな……」
「ここら辺が地元じゃないの?」
「違う違う。たまたま仕事で来てるだけよ」
入ったことはなくても場所はちゃんと知ってるんだな。
そういや元傭兵で今は裏家業の用心棒なんだっけ? うわ、本物のヤクザじゃん。グラディのご威光に守られてる私。ありがとうございます教官。
「ギルドに顔出して大丈夫?」
「どんな想像してんのかはまぁ判るが……おっちゃんそこまで顔売れてねぇし、雇い主はちゃあんと選んでっからよ」
ダイジョーブダイジョーブ、とダリオは手をヒラヒラと振った。
本人が大丈夫って言うならいいか。
私が命乞い代行をするのはグラディ相手だけなので、他は自力でどうぞだよ。




