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異世界スロー旅~雑草少女の旅するスローライフ~  作者: 鷹山リョースケ
第二章

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挿話 おかしい人

 アレニキみたいなのがいるなんて、辺境ってすごいんだな。

 と俺が言ったら、ロドルフ達に「一緒にするな!」と必死に抗弁された。


「いいかテルセロ、あれはだいぶおかしい」



 ◇ ◇ ◇



 アレアのアニキはおかしな人だ。

 アニキじゃなくてアネキなのでは、と後になって気付いたけど今更なのでもうみんなアニキで通している。

 どうせ本名はあまり口にしないものだ。

 家の中とか、仲間しかいないところならいいけど、誰が聞いているか判らないところではなるべく避ける、と母さんに教えられた。


 昔、人の名前で呪いをかける悪い魔人がいたんだって。

 だからこの辺の人はなんとなく本名を口にするのを避けるんだ。

 ……って話をアレニキにしたらすごく興味持たれた。

 「魔人」にめっちゃ食いつかれて困った。


「魔法を使う悪いやつのことを魔人っていうっス。魔人って種族がいるわけじゃないっス」


 そう言ったらなぜか少しがっかりしてた。

 「人間の魔物版かと思った」って。

 よくそんな恐ろしいことを考えつくなと思う。


 年齢は俺と同じぐらいだと思うけど、もっとずっと上みたいな気がする時もある。

 まさかあんなためらいもなく殴りつけてくると思わなかった。

 殺されるかと思った。

 頭から血が出て心底怖かった。

 洗ったらもう出てなくて、『頭はちょっと切っただけで血がいっぱい出るもんだから』と言われて、そういうものなのかなと思った。


 アレニキは変なことは知ってるのに、普通のことは知らない。


 辺境の更に森の中の一軒家で一人ぼっちでコキ使われてたから、と言ってた。

 辺境はそんなひどいところなのかとロドルフに聞いたら、判らないと言われた。

 アレニキが嘘をついてるとは思わないけど、ロドルフは聞いたことがない、という感じだ。


 セルバだとそういうことがあると役所に誰かが知らせる。

 そうしたらいつの間にかそこの家が空き家になってる。


 そう言ったら、ロドルフが「町は怖い」と言った。

 そうなんだろうか。

 俺はセルバから出たことがないし、セルバの外の人と話をするのもアレニキが初めてだった。

 今はロドルフ達とも話して、色々なことを知った。


 そういうロドルフも自分達の集落から出たことがなくて、セルバに避難してきて初めて他の辺境の人達と話したって言ってた。

 被害が大きかった村の人達はやはりどこかピリピリしてて、近寄りがたいそうだ。


 難民は今は出身村単位でまとまって色々動いてるらしい。

 セルバ側が結構援助してるみたいで、「開拓するのはどこでも同じ」と拡張工事も順調らしい。


 辺境では子供も働いて当然だけど、町ではやっぱり子供が働いていると外聞が悪いとかで、自由にしてるみたい。それで屑拾いに来たのか。アレニキも屑拾いをやってみようとしたことは褒めてた。


 でも親を魔獣にやられて孤児になった子もそれなりにいて、出身村で面倒みてるそうだけど、持て余し気味らしい。

 セルバの住民じゃないからセルバの子供の家に入れるには手続きが色々必要なんだって。


 ロドルフ達が毎日集まって楽しそうに出かけてるから、だったら面倒を見てやれ、と突然そういう子達を押し付けられたそうだ。

 だからなんとなくロドルフが引き連れてる子供が増えてるんだな。


 ちなみにアレニキはまったく気にしていない。

 そもそも頭数なんて数えてないと思う。

 川原で肉焼いた時に「多いな」と言ってたから、多い少ないぐらいは判るみたいだけど。

 名前すら覚えてないと思う。

 かろうじて俺とロドルフは覚えてるみたいだけど。


 ある日「テルセロ……ロドルフ……シリトリかよ。フ……フリアン。あっ、終わったじゃん、クソ、あいつは本当に腹が立つな」と一人でブツブツ呟いてて、俺が「シリトリってなんスか?」と聞いたらちょっと驚いて、それから一応教えてくれた。


 俺達の知ってるのは単語の字でつなげていくんだけど、アレニキは発音でつなげていくやつだった。

 辺境だとそうなんだ、と聞いたらロドルフは違うと言った。

 アレニキは誰に教わったんだろう。


 獲物を自分達で狩ってくるのも驚いた。

 ロドルフ達もアレニキも「ウサギだ」と言って枝肉を持ってきた。

 辺境ではそういうものらしい。

 肉屋なんてないから、とロドルフは言っていた。

 アレニキは「……修業?」と自分のことなのに首を傾げていた。



 徒党は、最初は本当にアレニキが怖かったからで、徒党の頭としてちやほやしておけば殴られないで済むと思ったからだ。

 その作戦が成功したのかどうかは判らないが、別に殴られることもなく、出くわしたら挨拶する程度で平和だった。


 でもアレニキはある日、俺達の瓶拾いの効率が悪いと言って指示を出してきた。

 どの店からどんな瓶が出るのか調べて、重さや量で担当者を決めた。

 自分の担当の店に行ってみて、あれば拾い、なければその日はなし。


 そうやってその日拾った瓶は川原の隠し場所に集める。そしたらアレニキが洗い始めた。ぼーっと見てたら「拭け!」と言われて、慌てて拭いた。


 それから通りの店に入っていって瓶を売った。俺達はおっかなびっくりついて行った。

 俺達はもっと路地奥の、捨て場に持って行ってたから。

 こんなちゃんとした店、俺達みたいな子供が入っていいのかと思ってたら、アレニキが大人みたいにあっさり取引してて、すごいと思った。

 アレニキの子分なら、ということで俺達だけでもその店で買い取ってもらえるようになった。前より買取額が良かった。


 このあたりでもう俺達はちゃんと「アレ党」と名乗ることにした。名称についてはものすっっごく不満そうにされたけど。なんでだろ。


 今までは拾えるまで町をあちこち回ってたのが、一度で済むようになると時間ができた。

 空いた時間で俺達は何故か運動をさせられた。

 アレニキに「体を鍛えろ!」と言われ、川原で体を動かす。

 水切りとかいう石を川に投げる遊びも教えてくれた。

 色々な種類の追いかけっこも。


 川の水は洗濯場の下流だから飲めない。

 近くの井戸まで水を汲みに行くのも交代でやる。

 俺達は家で畑の水やりの時に水桶を運んでたから慣れてるけど、アレニキは下手くそだった。よたよたしてて。

 でもだんだん安定してきて、ついに片手で持った時は吃驚した。すぐ両手で持ち直してたけど。

 アレニキは普通の腕の太さなのに、時々すごい力持ちな時がある。



 そのうちロドルフ達に絡まれる一件があって、アレニキならなんとかしてくれると思ったらとんでもねえ仕打ちをして俺達は戦慄した。

 平和だったから忘れてた。

 そうだ、アレニキはこういう人だった。

 思わず心の中でロドルフに謝った。



 やっぱりなんか違う。

 ごく普通の、俺達と同じ子供に思えるのに突然豹変する。

 暴力にまったくためらいがない。

 かといって普段は乱暴なところなんてない。

 怒鳴ったりしないし、小突いてくることすらない。


 ただ、何か気に入らないことがあるとじっと見てくる。

 あの夕焼けみたいな目で見られると少し怖い。

 ロドルフは「畑を焼く時の火みたいな目」と言った。森を開いて畑にする時に、下草に火をつけて燃やすんだそうだ。その時のごうごうと燃える火みたいでおっかない、と。


 どうしてじっと見るのかってアレニキに聞いたことがある。

 そしたら「そいつの心臓の位置を確認してるんだよ」と言った。

 俺達は怖くなって、以来なるべく怒らせないようにしている。別にむやみに怒ったりはしないんだけど。

 時々変なことで暴れてるけど。



 いつも川原で集まって遊んでるけど、町の中に集まれるところが欲しいねって言ってたら、ロドルフが場所を借りてきた。

 いつぞやにアレニキと一緒に見に行った、病気で亡くなった人の家だ。

 解体してる途中だけど手が回らないから、解体の手伝いをする条件であの家に集まっていいことになった、って。


「なんかアレニキが場所探してるって言ったら、二つ返事で手配してくれて」


 ロドルフは不思議がっていたけど、俺はなんかもうアレニキならそういうこともあるかなって、考えるのを止めた。


 難民の中で居場所のない子供達を昼間集めて、そこでロドルフが面倒見ることになったらしい。

 俺も大回りするとはいえ家から近いから、よく寄ってる。


 ある日アレニキが突然「ここに階段を作れ!」と言って暴れてた。

 そしたら数日後、崖の一部が崩れてた。

 俺ん家のある側から、空き家に行けるようなところだ。

 土中の岩が割れてたりして驚いた。

 アレニキがやったんだろうなとは思ったけど、その方法は判らない。


 「ちょうどいいじゃん!」とアレニキが空き家から毟り取ってきたレンガを置いて階段を作り始めたから、俺達もしょうがなく階段を作った。

 アレニキは途中でどっか行っちゃったから、遊び半分にみんなで数日かけて階段を作った。ちょっと便利になった。



 ◇ ◇ ◇



 アレニキにロドルフ呼んでこいって言われて、嫌な予感がしたから一緒に連れだって行ってみたら、すごい大怪我した人がいて。

 ああ、ついにヤっちゃったのか……って思ったけど、生きてた。

 血がいっぱいついてるのに傷跡はなくて、俺達は首を傾げた。

 傷が一瞬で治るなんてことあるだろうか。

 昔、神官通りに神官がいた時はすぐに治してもらえたって母さんが言ってたけど、俺が小さい頃にはもう死んでたし。


 アレニキは「通りすがりの……ちょっと気安く口に出せない人にお世話になったんだよ!」とかなんとかゴニョゴニョ言ってたけど、誤魔化したいという意図だけは判ったので、俺達は気にしないことにした。

 だってここで色々聞いたってどうせ答えてはくれないし、またあの目でじっと見られたら怖い。



 近所の遊び友達で集まってた俺のところにも仲間に入れて欲しい、という子供が来るようになった。

 瓶拾いの稼ぎは頭割りするようになったから、一人当たりは大したことはない。だから金が目的ならあまり得はないと説明はしている。

 今やもうほとんどただの遊び仲間だし。

 それでもいいやつだけ来てもいいと言うと、まあそういうやつだけ来る。どうせ人数が増えてもアレニキは覚えてないし。たまに「多いな……?」って呟いてるけど、すぐ興味を無くす。

 人数が多い時、アレニキは「テルセロ隊」「ロドルフ隊」と俺達をまとめて呼ぶことがある。新しく混じったやつはそれを聞いて俺やロドルフのことを「隊長」と呼んだりするので面映ゆい。

 照れてる俺達にアレニキは「クロレキシ」って言って去っていった。

 たまに知らない単語を呟いていく。説明はあったりなかったり。



 アレニキは変な人だ。

 見た目は俺達と同じなのに、中身が全然違うような気がする。

 ちょっと怖いけど、何をやらかすのか判らなくて、わくわくする。

 あと強い。子供なのに、多分すごく強い。冒険者連中みたいな雰囲気がある時がある。

 前にロドルフが「もう魔法が使えるのかも」と言っていて、なんか納得した。


 俺達の中にはまだ魔力の器が完成したやつはいない。子供のうちに完成すると器が小さいということだから、まだ完成して欲しくはない。

 でも魔法が使えるようになったら、使い方をアレニキに教えてもらえるかも、と思うと楽しみだなと思う。 



 最初は近所の幼馴染み達だけの集まりが、アレニキが来て、ロドルフ達も増えて、町の他の地区のやつらも混じるようになって、数が増えた。

 性格が合わないやつもいるけど、アレニキが瓶振ってるの見るとみんな黙る。

 あれは水を切ってるだけだと古株の俺達は知ってるけど、言わない。

 集まって色々なことを話していると不安も和らぐ。

 もしこのままみんなで子供の家に入ることになっても、アレニキがいるならまあいいかなって思う。



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