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異世界スロー旅~雑草少女の旅するスローライフ~  作者: 鷹山リョースケ
第二章

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045 服に開いた大穴は元に戻らない

 これは明確にしておきたいことなんだけど、私は別にテルセロ達を手下にした覚えはない。お友達だって言ってんだろ。

 ロドルフ達もそうだ。お友達だろお前ら。

 勝手に徒党を作ったのはテルセロで、私は名義を使われただけの被害者である。


 大体さあ! やってることはゴミ拾いよ?!

 町の路地裏からゴミ拾って細々と小銭を得ている、そんな哀れな子供達なのよ。

 町ぐるみで温かく見守るもんでしょ。


「お前か。町で調子乗ってるガキってのは」

「ガキ共使って金集めてるんだって?」


 ニヤニヤしながら路地を塞ぐのはイキった三下小僧共だ。

 前の世界でいうと、鋲の付いたレザージャケットとか引っかけちゃって、頭をモヒカンに刈り上げて、面白い絵を肌に描いちゃうお年頃。人はどうして黒歴史を紡ぎ続けるのか。


 こういう方々に絡まれる謂われは全く思いつかないんだけど……。

 私はとりあえず目星を付けた瓶を両手に持った。

 高そうな瓶ではない。殴りやすそうな瓶だ。はあ。


「普通に屑拾いして、売上を分け合ってるだけだけど」

「ロドルフをブン殴って町から追い出したのはお前だろ」


 前半は認めるが後半は違いますけどー?

 大体あいつらしょっちゅう川原に来てみんなでバカ話してるけど。

 こないだ獲物持ち寄ってバーベキューしたわ。テルセロ達の親があんまり家事しなくなってて腹減らしてたから。私もセティ風味以外の飯食いたかったし。

 川原で仲間内でバーベキューってすごいパリピじゃない?! めっちゃお友達してるじゃん。


「ロドルフに聞けよ。めっちゃお友達してるから」


 私は真実を述べたのになんか煽りだと思われたらしくて、三下小僧が無言で顎をしゃくった。場所を変えようってことらしい。

 ついていく義理はミリもないけど「仕事場」である路地で騒動を起こしたくはないし、人目の無い所へ行きたいのはむしろ私の方かも。


 前を歩く小僧についていきながら、後ろの小僧にも警戒する。

 ロドルフの名が出るということは、難民産だろうか。着古してはいるが丈夫そうな生地の服を着ている。ベルトやブーツ等も革のしっかりしたものだ。町っ子のテルセロ達はペラペラの服着てるもんな。それでも刺繍が入れてあったりして、母親の確かな愛情は感じられたんだけど……。


 いかんいかん、思考が逸れた。

 石壁が入りくんだ先は行き止まりで、壁に開いたドアは壊れて落ちていた。私は素早く周辺地形を確認した。

 前を歩く小僧は壊れたドアを踏みつけて中に入っていき、視界から消える。


 バッカじゃないの。なんで素直についていくと思うのよ。


 私は即、背後に迫っていたもう一人の横っ面を振り向きざま瓶で殴りつけた。位置は判ってる。ずっと魔力で探ってたから。コイツが長身だったら無理だったけど、幸いチビだったからいけると思った。


「がっ……あ…ッ!」


 すぐ場所を変える! グラディ教官の声が脳裏に響く。

 顔を押さえて崩れ落ちるチビの背後に素早く回り込む。


「どうした!」


 中に入った奴が飛び出してきた。

 私は手に残った割れた瓶でちょっぴりチビのケツを突いた。


「ぎゃあああ!」


 悲鳴が上がった。うっわ、さすがに人が来るかも。

 チビの悲鳴にもう一人の小僧が一瞬気を取られる。その隙に場所を変える。同じ場所にいない! グラディ教官に叩き込まれたので体が先に動く。ひぃ。


 遮蔽物を使って盾にする! 状況把握!

 相手に飛び道具はあるか、増援はあるか、退路はどこか。


 『とにもかくにも、逃げることを最優先するのですよ。やっつけてやろうなんて思ってはいけません。そういうのはもう少し体が成長した後にとっておきましょうね。今はまだ逃げる時期です』


 脳内教官のレクチャーに脳内でハイ! と元気よく返事をして、私はガラクタの陰に小さく蹲った。

 退路がない。なら、逃げる隙を作る。

 手に魔力を集中して「槍」を作る。


 ――ランス!


 イメージするのは馬上槍だ。勿論手に持つわけじゃない。地面に置いた形で魔力をまとめる。魔力を手袋みたいに手に纏わせるやつの応用版というか発展版だ。

 グリップ部を持ってシャフトを伸ばし、魔力を寄せて寄せて固める。


「ちくしょう! お、おい、大丈夫か、クソ、あのガキどこへ……テメエ!!」


 残り一人と目が合った。

 仲間の手当を優先して逃げ返るかと思ったら向かってきた。頭に血が上るタイプのようだ。

 私はランスに勢いよく魔力を流し込み、護拳から先のシャフト部を――

 「射出」した。


 馬上槍はそういう構造じゃないのは私だって知ってるよ!

 でも馬上槍見た時誰だって思うでしょ。

 「これ護拳から先のあの細長い三角錐の部分、飛ぶんじゃね?」って。

 私は思ったよ!

 そのイメージが予想外に上手に固まって、この超大型弾道ナイフみたいな槍――の、魔法が出来てしまったのだ。


 ちなみにグラディにもベルレにもその部分は飛ばないって言われた。判ってますぅー! うう。

 シェルリはそこ飛ぶのか……って新事実を知ったような顔してたけど、二人に必死に否定されてた。


「ぐおっ……は…? あっ、あ……ああ」


 腹に大穴が空いた小僧は信じられない、という顔をして、腹と私を交互に見て、ぱくぱくと口を開閉する。声が出ない様子だ。

 信じられないという顔は私もそうだ。

 ギャアアアアアやり過ぎた!

 的がでかいからつい胴体狙っちゃった! ダメじゃん! 死んじゃう!

 さすがに初見でブチ殺すほどの相手じゃないと思う!


「ああ……あにきぃ……なんてこった、あっあっ、血が、血が止まらねえ」


 腹に大穴空けて虫の息の仲間を抱きかかえ、泣きじゃくるチビ。やばい、私すごい悪人。こんなところに誰か来たらもう絶対的アウト。


 必死に頭を働かせ、私は二人に素早く駆け寄ってチビの頭をもう片方の瓶で殴りつけた。死にかけの小僧が信じられないという顔をする。

 完全に落ちたチビと死にかけの襟首を引っ掴み、ドアを踏み越えて壁の中に駆け込む。もはや筋力では全然足りないので魔力を伸ばして橇みたいにして引き摺った。


 中はどうやら廃屋らしい。奥の部屋のドアを蹴り開け、中に二人を放り込んでドアを閉めた。

 しばらく耳を澄ませて様子をうかがったが、人の声はしたもののこちらまで入ってくる足音はなかった。声は響いたかもしれないが誰もいないし。地面は泥で汚れていたから幸い血も目立たなかったのかな。

 なんにせよさっさと隠蔽しなければ。


 一応二人ともまだ息があるみたいだけど……これ回復させたらなんて説明したらいいんだ。この町に神官はいないのに。

 とりあえず回復してから考えよう……。

 神様、シェルリ様、ごめんなさいやり過ぎました。後でまたブン殴るかもしれないけど、いったんこの二人を救う御力をお貸しください……。


 腹の傷は塞がっても、服に開いた大穴は元に戻らないし、染み込んだ血は消えないのだ。

 まいったね。はは。はー……。

 二人をなるべく楽な格好で寝かせて、私はロドルフを探しに出た……。



 ◇ ◇ ◇



「アレニキ……」


 ロドルフ達とテルセロ達が床に転がされた二人を見て、目をしょぼしょぼさせながら私を見た。やめろ、そんな目で見るな。

 テルセロを先に見つけたからロドルフ連れてきてくれって頼んだんだけど、結局いつもの連中が集まってしまった。


「死んでねえよ!」


 思わず叫んだ私に、ロドルフは諦めきった顔で頷くと、二人の元にしゃがみ込んで顔の血を布切れで拭いた。仲間達もそれに続く。私はそこら辺で拾った瓶に水を入れたものを渡した。


「ええと、この二人は難民の中での自警団の下っ端というか……自称というか」

「自称かよ」


 テルセロが思わずツッ込んだ。

 ようするに、難民内での自警団のフォロワーだった。正式入団はまだできない年齢だけど手伝いを積極的に行ったりしていたそうだ。

 真面目にロドルフ達を心配してたのか……だったら普通に聞けばよくない?! なんだあのチンピラムーブは。


「でも大怪我? したような跡があるのに……なんともない?」


 ロドルフの仲間の一人が首を傾げている。ソウダヨネー、不思議ダヨネー。

 こいつらも目が覚めたら不思議だよねー。私の暴行を見てるもんなあ。

 はー、どうしよ。


 

 ◇ ◇ ◇



 切羽詰まった私はルフィノ爺ちゃんに丸投げすることにした。

 セレステ商会の方から来ました作戦。

 なんかもー、やっぱりコネがあると頼っちゃうよね……。ベルレにも頼み込んでおこう……わー、迷惑かけてごめんなさい。これからは慎ましく生きていきます。もっと真面目に一人立ちを心掛けていこう。


 私はガキ共を言いくるめて、目が覚めた二人も言いくるめて、ロドルフにちゃんとお友達してることを説明させて、難民キャンプへ一緒に向かった。

 この二人から変な伝わり方するのも嫌だったから、自分で説明しようと思って。


 『大怪我させてごめんなさい。治したのはセレステ商会の人です。聞きたいことがあればセレステへお願いします』


 あとはルフィノ爺ちゃんが誤魔化してくれる、と思う……。


 みんなで連れだって難民キャンプへ着くと、自警団詰め所へ向かった。

 拡張工事は順調のようで、木造だけど長屋っぽいものがもう出来ている。順次ああいう長屋を作って、そこに入居していくんだそうだ。

 思いの外大規模で、セルバの横に第二セルバが出来るような勢いだ。


 自警団詰め所というか難民サイドの役所みたいな建物は、元からこの地区にあった民家だった。テルセロは知らない家だと言った。建物は見えてたから知ってたらしいが。フリアン家と同じで生活動線が違うから交流なかったパターンだろうな。


 子供がゾロゾロとやってきたので少しざわついたが、ロドルフが話をして、難民側のリーダーグループの一人が出て来てくれた。

 その人は私達を見て目を剝いて驚いた。

 私が半殺しにした二人は血は綺麗に拭われていたが、服の大穴がなあ……って、あれ、この人に見覚えがある。どこだっけ。

 つい最近だったと思うけど……あっ、フリアンの家を見に行った時に畑にいた人だわ。なんかこっち見てきた人。うわあ、胡散臭く思ったガキがマジで胡散臭い理由でやってきたよ。ごめんなさい。


 何故かアワアワと戸惑っているその人は、ひとまずロドルフと半殺されの二人と私を個室に招いた。

 そこで私の悪行を訴える二人と、状況を説明するロドルフの話を聞いて、いったん三人を退出させる。


 私だけになったので、早速ルフィノ爺ちゃん丸投げ作戦を発動しようとした――のだけど、それより相手の方が早かった。


「ミ、ミニステル様……!」


 ははーっ、て感じで私の前に膝をついた人の後退しかかった生え際を見ながら、私はだいぶ長い間ポカンとしていた。


 誰?!



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