033 セルバに着いた
2章開始です。
あれから。
ちょっと、いやだいぶ寄り道をしたけど私達は無事セルバに到着した。
セルバはクルトゥーラ北部辺境の中では領都に近い中規模都市だ。
領都側から見たら北部辺境への入口みたいなポジション。
入った瞬間「うわっ町だ」と思った。家がいっぱい。
城郭都市……ではないか、辺境方面には城壁があって、領都方面には壁がなく視界が開けている。
至る所に魔物避けのセルコが植えてあった。
ここもセルコ頼みかあ。この先はもう領都でしょ? もうちょっと防衛に予算使った方がいいのでは……あ、でも逆に領都の近くだからすぐ領軍が駆けつけられるとかで後回しになってんのかな。
建物はおおよそ一階相当部分は石造りで、漆喰か何かで壁は塗られている。
その上階や周辺に建て増ししたような部分は木造だった。
町の中心には辺境方面から領都へ続く街道があり、沿道に大きな建物が並ぶ。
主にお高めの宿や店だ。
街道にはいくつかの主要な横道があり、中小規模の店はそこに軒を連ねている。
町長の館がある町長通りや、冒険者ギルドや商人ギルドがあるギルド通り、神殿がある神殿通り、猥雑な店や酒場が集まった酒場通り等々。
ネーミングは直球だ。無駄なひねりはない。
その合間や外周に一般民家があり、更にその外は一面の畑。
何ていうかなあ、地方のバイパス沿いにある大型量販店周辺みたい。
セルバのランドマークは町長の館だ。
公園みたいな前庭があって、町の人が普通に入っていってベンチで飯食ったりしている。
いいのかそれと思ったら、この町長館が町役場を兼ねているので、町長個人が所有する物件ではないのだそうだ。
むしろ町役場に町長が住んでいる。ホワイトハウス方式だね。
イヤだな職場に住むのは……。
◇ ◇ ◇
ルフィノ爺ちゃんとこの商会、セレステ商会の支店に馬車を入れ、プレシオは郊外の牧場にいったん解き放たれた。
別に適当に森に放っても大丈夫だろうけど、猟師が腰抜かすからだって。
魔獣に襲われる心配はされていないプレシオ。
私も心配しない。アイツ強いもん……。
先に到着していた爺ちゃんの案内で、ひとまず支店裏の宿舎に落ち着いた。宿舎といっても大きめの普通の民家だ。
二階にある客室に入り、そこで数日過ごすことになった。
色々用事があるんだって。私も事前に町慣れしたかったのでよかった。
なんせ田舎者なので町のことが判らない。事前に見ておきたい。
一晩ゆっくり休ませてもらって、次の日、私は爺ちゃんにお付き合いいただいて、町中を見物して回った。
ベルレ達もどこかへ出かけてるみたいだったけど、部屋の壁際に並ぶ酒の空瓶が見るたび増えてたので元気そうだ。
夕食は部屋に持って来てもらい、給仕は断って私達だけで食事を取りながら話をした。
「隣のセルベラ領へ行った方が良くないか」
と、ベルレ。
どうもセルバの雰囲気が気に入らないらしい。
今、セルバは辺境での魔獣被害による難民がかなり入ってきている。それは昼間ルフィノ爺ちゃんからも聞いた。
それを受けて町の拡張工事をすることになり、その人足やら商人やらも来て、まあ他所者がごった返していて、トラブルも起きているそうだ。
私が過ごすことになる孤児院周辺は良く言えば町の喧噪から離れた場所、正直に言えば町外れなので夜に出歩いたりしなければ大丈夫ですよ、とは爺ちゃんの弁。
私は普通の町だと思ったんだけどなあ。
別に道行く人々が殺伐としてるとか、物乞いが列をなしてるとかもない。
特別裕福そうでもない普通の家の庭先で、小さな子供が元気に走り回って遊んでいた。
子供が遊んでいられる余裕があって、無駄に走れるだけの体力があるほど飯が食えてるってことだ。いいところじゃないの。
私は毎日ゴミ拾いで体力使い切って、走ろうなんて思いもしなかったぜ。
「今のセルベラはいい子ですものね」
グラディが知った人のように言った。知り合いなんだろか。
夕食は具だくさんスープとパン盛り合わせ。withさりげなく混じるクルパン。
判る、判るよ、栄養豊富だもんね。でもお前を見るとイラッとする心が未だに抑えられない。食べるけど。
他には葉野菜のサラダ、マァル、チーズ盛り合わせなど。
チーズはルフィノ爺ちゃんの心づくしなのだろう。クリーミーなフレッシュチーズがミルク感あって美味しい。たまらん。
スープの具はウサギっぽいクセのない肉と根菜、数種類の豆。味付けは肉と野菜の出汁に少しの塩とシンプル。
でもハードチーズのちょい重いやつをスライスしてパンに乗せ、合わせて食べると丁度いい。
飲み物は私は水。三人はいわずもがな酒瓶をそれぞれ手元に置いている。
「そうですわね……でもアレアのいた村からすると、順当にいけばここセルバですのよねえ」
グラディはそう言ってシェルリを見た。
シェルリはベルレが少し食べてから渡したスープを食べ、グラディが千切って食べたパンの残りを食べている。
いつだったか、私も毒味した方がいいのかなと思って、シェルリのいないところでグラディに聞いてみた。
そうして欲しい時はシェルリから渡してくるので、その時に応じて欲しいと言われた。
どういうこっちゃと思ってたら、ある日、道中の野営地で商隊が売ってた燻製肉の炙りを買った時、シェルリが半分に裂いて渡してきた。
なるほど? とかぶりついて飲み込むと、しばらくしてシェルリも口にした。
あれ美味かったなあ……。
ちなみに何故毒味が必要なのか理由は聞いてない。
何が議題になっているかというと、セルバという町がベルレが思っていたより治安がよくない、という点なのだ。
私にはその辺の機微は判らない。
グラディは私が「想定される順当なルートで人生を再始動したい」という一見よく判らん希望を述べたので、それを尊重するという姿勢。
私もそれが本当に正しいのかどうか判らない。
この三人と面識を得た時点でもう一般通過モブから外れてることは判る。
でもモブルートに歩み寄る努力はしたい。
私の異世界スメルがどうやったら薄れるのか判らないけれど、想定ルートをなぞる方法はそう間違ってはないと思うんだ。
結局その後三人で話し合ったらしく(私は眠くてたまんなかったので先に寝た)、朝にはベルレも納得していた。
それから数日ルフィノ爺ちゃんとこでお世話になり、出発するベルレ達を見送って、私は孤児院へと向うことになった。
しばらく町の暮らしが続きます。




