98話
アイラさんは剣を構え、戦闘体制に入っているとポツリと呟いた
「ウィンディア殿?」
木の合間から疲れ切ったウィンディアさんが現れた
「何じゃこの雑木林は!ゼィゼィ…ウチの子が意識不明になってしまった!」
急いで駆け寄るとウィンディアさんは右手に犬の足、左手に鳥の足を持ち引きずって歩いていた
ウィンディアさん本人もかなり疲れていて、若干老けて見えるのは気のせいかしら?
「と、とりあえず従魔達をこちらに」
言いながらアイラさんは鳥を、グレタは犬をウィンディアさんから引き受け、引きずりながら運んだ。
「気持ちが悪い…」
グッタリと木にもたれかかったウィンディアさん
「大丈夫ですか?」
何か飲み物でもあればと思うも、私達は何も持ち合わせていない。
温泉セットと私セットくらいだわ
「今夜はここで一晩過ごした方が良さそうだな。グレタ、薪を集めてきて」
「はい」
集めてきた薪で火を起こし、アイラさんが見張りを、私達はその場で休む事になった。
「あぁ、そうだ」
ヨロヨロとウィンディアさんが立ち上がり、スイっと手を動かすと焚き火から少し離れた所にベッドが現れた
「あの…」
「ナディア、遠慮はいらない。そのベッドで休むといい」
いやいやいや、こんな雑木林の中にベッド出されても…
「今夜は私よりウィンディアさんが休まれた方がよろしいかと」
私が使うより、少〜し老けてしまったウィンディアさんが使った方がよっぽど良い気がする。
野宿なら以前殿下とした事もあるから、ウィンディアさんよりベテランですし
「遠慮はいらん。そのベッドは防護魔法もかけてある」
そう言って焚き火の側で横たわり、目を閉じてしまった
「ナディア様、ここはお言葉に甘えてベッドで横になってください。私はここで横になりますから。ではお休みなさいませ」
グレタがそう言ってベッドの横下に横たわってしまった。
え、私だけがベッドで野宿って、凄く嫌な人っぽくなくて?
たまたま通りかかった村人がこの光景を見たら、自分だけ魔法使いにベッドを出させ寛いでって思われそうでとても嫌だわ
「ね、ねぇグレタ。もし、良かったらなんだけれど、このベッドで一緒に…」
寝てくれない?と聞こうとして気がついた。
グレタってば既に安らかに眠っている。
信じられないわ
野宿なのに…仕方ないので私も目を閉じるも、ヤケに元気なぷっぷちゃんが、枕元で尻尾をフリフリウロつくのでちっとも眠れない。
殿下達はどうなったかしら?母屋に来た人達は敵だったのかしら?確認もせずにとりあえず逃げてしまったけれど、いつまでも逃げ続けるなんて無理だわ
一旦殿下達と合流した方が良いのではないかしら?でも城門を突破されていたら…難しい事を考えたせいか次第に眠気がやってきて、私はようやく眠りについた
「やっと眠ったようだな。してこの後どうするつもりじゃ?アイラ」
ナディアが眠りについた後、ウィンディア、アイラ、グレタの3人はムクリと身体を起こした
「安全に殿下達と合流または今後について話をしたいのですが、アタシ1人ならともかくナディアを連れては無理かなと」
「そうじゃな。アタシが魔法で隠そうにもあちらに魔法使いがいたらバレてしまう。アタシの結界見破る位だから。だからと言ってアイラが離れるのは不安しかない」
「では私が変装してこっそり会いに行くのはどうでしょう?」
グレタが挙手して言うと
「却下だ。何に変装しても戦場になっていたらグレタの安全は保障されない。万が一があればナディアが悲しむ」
アイラにバッサリ却下され
「でもこのまま逃げても、所詮ハイドン村の中ですよ。ナディア様このままじゃまた具合悪くなりそうです」
しょんぼりとグレタが言うと3人共考え込んでしまった。
ガサガサガサ
何かの気配に3人はハッと顔を上げ警戒する
「みなさま…」
マリアンナとお婆さんが赤ん坊を連れ現れ、その場でヘナヘナ座り込んだ
ウギャーウギャー
赤ん坊の泣き声が遠くで聞こえる。
目を開けるとそこは木の生い茂った場所だった
「あら?」
何故こんな所でベッドに?と思った瞬間、全て思い出して飛び起きた
「おぉ、起こしたか」
のんびりしたウィンディアさんの声に
「あのっ、赤ん坊の泣き声が…」
寝起きの働かない頭で周りを見渡すと
「マリアンナさん?」
「スミマセン。起こしてしまって」
辺りはまだ星が瞬いていて夜を告げている
「あやつらやっぱり敵だった様じゃ」
やっぱり!
「他のご家族は…」
「皆んな散り散りになって…ウ、ウウッ」
話をしている途中でマリアンナさんは泣き出してしまった。
急いでベッドから降り、泣いてるマリアンナさんに駆け寄り
「とりあえずあのベッドに。赤ん坊もいるのだし、長老のお婆さんも」
「は、はい」
マリアンナさんは赤ん坊を抱きしめている手が震えている。きっと恐ろしい思いをしたのでしょう。
他の家族も気になるだろうし…それでもマリアンナさんは気丈に事の経緯を話してくれた。
私達が去る時来ていたのは、やはり魔法使いだそうで、私の居場所を尋ねたそうだ。
ウィンディアさんに言われた通りドアを開けず、家の中で息を潜めていたそうだが、突然扉が開き中に入ってこようとした所をウィンディアさんが見かけたらしい。
マリアンナさんが泣きながら語ってくれた
「グスッ…父と夫が玄関で押し問答している間に私達は裏口から…あっ」
「そろそろ寝入っただろう。ワシが抱いとるから」
あら?お婆さんの声が何か変と思った瞬間だった
「ナディア!!」
「ナディア様!!」
気がつくとマリアンナさんは私の背後にいて、首に腕を回し反対の手で刃物を私の喉元に当てた
「マ、マリアンナさん?」
「ゴ、ゴメンなさい。こうするしか…」
マリアンナさんが震えながら謝ってきた。
待って待って待って!震えないで!チクチクチクチクと私の首に刃物が当たっているの!
「ほんにすまないのぅ」
お婆さんは赤ん坊を抱きながら謝っているけれど、謝るのならマリアンナさんを止めて!
もしくはマリアンナさんの震えを止めて!
「ナディアを離せ」
アイラさんは剣を構え、お婆さん達に剣先を向けた
「アイラさん!やめて!お婆さんも赤ん坊も戦えないのよ」
「ナディアだって戦えない」
アイラさんの目は眼光鋭く、いつものアイラさんではない。
どうしましょう!