95話
マリアンナさんの所へは来る時と一緒でアイラさんは御者台、私はグレタとぷっぷちゃんと馬車へ。
ウィンディアさんは飛んで行くとの事。
相変わらず飛んで行くの意味はわからないけれど、流石魔法使いの師匠だわ。
ウィンディアさんいわく
「アタシも一緒に馬車に乗りたい所だけど、ソコのぷっぷと一緒にいる事をウチの子達嫌がるし、流石に狭い」
との事。
ぷっぷちゃんのどこに嫌がられる要素があるのかわからないけれど、同じ魔物で同じ従魔なのだから仲良くして欲しいと思ってしまう。
バルーシュ型の馬車はビュービュー風が吹き抜け、流石にこれからの季節はもうこの馬車では無理では?と思いながら震えていたら、心優しいぷっぷちゃんが私の首に巻きついてマフラー代わりになってくれた。可愛い
今頃エアリーやコニーさんはどうしているのかしら?
まさか侵入されているなんて事はないわよね?
殿下、ラッサ大尉、ヒューズ君も無事でいるかしら?セラさんは立ち直って指揮を取ってくれているかしら?
色々と考えていると
「ナディア様、大丈夫ですよ。皆さんお強いですから。エアリーだってアイラさん直伝の必殺技を習得しているのです」
心配気にグレタが励ましてくれる。
いけないわ。私が不安気にしていたら周りだって不安になる
「そうなの?」
「ええ。フレデリックさんとテオドール村に向かう時に伝授して頂いたのです」
「それは私にもできそうな技なのかしら?」
「ナディア様が習得する必要は無いですよ!」
「何故?何かあった時できる事があった方が良くないかしら?」
「…そう、ですかね…では、最初に構えからお教えします。最後の一撃は…ナディア様、腕力や握力を鍛えて下さい」
真顔で言うグレタに私も真剣に頷く。
今は自分に出来る事をしよう。
でないと不安な気持ちに押し潰されてしまいそう。
馬車はそのまま東に進む。
道中グレタから必殺技を教えてもらっていたからなのか、色々と考える間もなくマリアンナさん達の住む家に到着した。
必殺技は手首の角度が難しいけれど、何とか習得できた様に思う。
家の前に馬車を停めると、既に玄関先に出ていたマリアンナさんが出迎えてくれた。
「お話は伺いました。狭いですけどどうぞ」
割と大きな家だわと思い中にお邪魔して驚いた。
中にはマリアンナさんのご主人、多分ご両親、長老のお婆さん、そして子供が6人…大家族でしたのね。
この家に私達が居ても良いのかしら?何かあった時このご家族に迷惑をかけてしまうのではないかしら?
スッとアイラさんは前に出て
「私はアイラ・マイルセンと申します。こちらにいらっしゃる皇太子殿下のご婚約者、ナディア様の護衛を申しつかっています。本日こちらにお世話になる様言われておりますが、お部屋を拝見させて頂きたく…」
「マリアンナとやら、この家の奥にあったのは納屋か何かか?」
アイラさんが挨拶をしている時、突然ウィンディアさんが話に割り込んだ。
「えっ!あ、いえ。アレは馬小屋で納屋は更に奥にあります」
「ならば納屋を借り受けたい」
「ウィンディア殿⁉︎」
ウィンディアさんが勝手に話を進めてしまい、誰もが驚いていたら
「アイラ、この家の人達を見てみろ。皆困惑しておるではないか」
確かに大き目とはいえ普通の民家にいきなり大人4人泊めてくれと言われたら困るわよね
「で、でも納屋は狭いし汚くて…とても皇太子様のご婚約者様を案内できません。それでしたら私達が納屋にいきます」
この家の主、多分マリアンナさんの義父に当たるセネスさんが声を上げた
「馬鹿を申すな。小さな子もおるではないか。なぁに心配はいらないよ、こう見えてアタシは魔女だからね」
ニヤリと笑うウィンディアさんに周りは困惑したけれど、結局納屋に案内してもう事になった。
途中アイラさんは馬車を隠してくると言って別行動となった
「あのぅ本当に納屋で?」
セネスさんがこれを聞いてくるのはかれこれ7回目位かしら?
「くどい。立派な納屋ではないか。夜は一応納屋も其方らの家も結界を張るから大人しくしていてくれ」
「結界?ですか?」
「ああ一応な。案内ご苦労。いいな、日が沈んだら家から誰も出ない。誰か来ても扉を開けてはいけないよ」
「は、はい。分かりました。では失礼いたします」
そう言ってセネスさんは帰って行った
「さて、では中に入ろうか」
言いながら扉を開けるウィンディアさん。
私、生まれてこの方納屋で寝泊まりした事はないのだけれど、農機具や農作物を入れておく所よね?
しかも小さくて大人4人寝泊まりできる気もしない。
不安に思っていると
「うん。中々良い納屋だな。ちょっとそこで待っていて」
そう言ってウィンディアさんは目を閉じて何やらブツブツ呟きだした。
魔法?魔法かしら?
納屋がいきなり光って大豪邸になる魔法かしら?
少しワクワクしながら見ていると馬車を置いたアイラさんが帰ってきた。
「何をしているんだ?」
「よくわからないですが、ウィンディアさんが納屋を大豪邸にしてくれているみたいです」
「大豪邸になんかならないよ」
何の変化も起こさなかった納屋にウィンディアさんは言いながらスタスタ入って行く。
「うん。こんなモンだね。入ってきて」
眉間に皺を寄せたアイラさんが先頭に立って入って行く。
その後ろから私、グレタと続き中に入ると
「何て言うか…何も無いですね」
本当に何も無い空間がそこにはあった。