94話
名前を付けたら死ぬまで離れられないなんて
「し、知らなかったわ」
「あん時ナディア、誰に相談するでも無くいきなりぷっぷちゃんって名前付けてたもんね。止める時間も無かった」
アイラさんにそう言われ、そう言えばあの時思いつくままにぷっぷちゃんと呼んでいたわね
「んぷぷっ」
いきなり力んだと思ったらぷっぷちゃんは羽を広げパタパタと飛び出した。
「コレがぷっぷの羽か…コウモリか?」
「ちょっとわからないですけど、コウモリっぽいですよね」
殿下が遠い目をしながら聞いてきたので、正直に答える。
殿下が疲れて見えるのは気のせいかしら?
思ったより体力が無いのかもしれないわね。殿下
「ぷっぷに羽は無かったのに急に生えてきたのかい?」
ウィンディアさんが聞いてくる
「生えた、と言うよりいきなり背中がバリっと裂けてそこからバサっと出てきました」
「ふうん」
私達は場所を移し、開けた場所で敷物を広げサンドウィッチを食べながら話し合いをしている。
一見ただのピクニックにしか見えないが立派なぷっぷちゃん会議である
「従魔って基本ある程度大きくなってからなるもんだと思っていたんだけど、どう考えてもアレはまだ子供だ」
真顔でウィンディアさんが言う。
「ちょっと失礼」
そう言ってウィンディアさんは私の手を握った。
こんな色っぽい人に手を握られたらちょっとドキドキしてしまう
「やっぱり何も無いよねぇ。魔力じゃなくても聖なる力とか…何かしらあるかと思っていたんだけど…」
ええ。ありませんとも。
その様な力があったらシャナルで婚約解消なんて事にはなっていない。
「師匠、ならぷっぷちゃんの糧は何?」
リシャールさんの質問にウィンディアさんは顔を顰め
「考えたくないけど、全て、かしらね」
全て?従魔は魔力以外にも糧があるのかしら?
やっぱりミルク的な何かが…
「全てとは何だ?」
殿下がもっともな事を聞くと
「アタシにもよくわからないが、地上には大地、木、草、川、全てに微量の魔力があるあらそれらを糧にしているとしか考えられない。
魔力のある者から勝手に魔力を吸い取るのだからそんな事も出来るのではないか?」
「ぷっぷは他の魔物と違う糧を得ている、と言う事か…」
「多分だけどな」
そこに再び蹄の音が聞こえてきた。やってきたのはハリーさん
「殿下!大至急お戻り下さい!」
「何だ?」
殿下は立ち上がりハリーさんと話をした後、大きく舌打ちをし
「俺は先に戻る。アイラ!」
呼ばれたアイラさんと殿下はしばらく話をした後
「ナディア、アイラの側を離れるな。俺は本部に行く。後の指示もアイラに従え。リシャールも着いて来い」
殿下はそう言ってハリーさんと馬に乗って去ってしまった。
リシャールさんは「師匠〜助けて!」と叫んでいたけれど、殿下にガッチリ抑え込まれ馬に乗せられていた。
ウィンディアさんはヒラヒラと手を振ってお見送りしている。
何かあったのかしら
久しぶりに見る殿下の盗賊の様な目つきの悪さに嫌な予感がジワジワ湧いてくる。
私達は食事もそこそこに片付けをして馬車まで行くと
「ナディア、今日は温泉はもう終わりにして戻るよ。って言っても家には戻れないけど」
やっぱり
「何かあったんですよね?」
「うん。今ハイドン村は責め込まれている。
彷徨っていた大隊と、マデリーン嬢を連れてきた中隊が合流して南門と西門から同時に責められているらしい」
何ですって?
「い、急いで戻らないと!」
「いや、家には戻らない。あそこは南門に近いし、本部にも近い。入り込まれていたら真っ先に戦場になる所だ」
「エ、エアリーは?留守番しているじゃない!そうだ!コニーさんと一緒?コニーさんいれば何とかなる⁈ラッサ大尉は?ラッサ大尉と一緒なら…」
「ナディア!落ち着いて。今私がやらなければいけないのは、アンタを安全な場所に行かせる事なんだ。
今ナディアが敵に捕まる、又は殺害されたら形勢が一気に逆転する。わかるよね?」
両肩に手を置かれ真剣な眼差しで私を見つめるアイラさん
私は心を落ち着ける為大きく深呼吸をした。
そうだ。今私に何かあれば殿下は再び婚約者を失う。
次を探している間にギョロ目辺りが皇太子に祭り上げられ、ここにいる人達は一気に賊軍となり無職になってしまう
「わかったわ。アイラさん。私はどこに行けばいい?」
泣きそうだわ。胸に何かが詰まった様に苦しい。
でもここで私が泣いたら、皆んなに心配と迷惑しかかけない。しっかりしなくては
「うん。とりあえずこの間の砂風呂に入った時に案内してくれた、マリアンナさんと長老のお婆さん覚えている?」
頷くと
「とりあえずそこに行ってくれと言われている。多分殿下と一緒にいたハリーさんが一報入れに行ってるはずだから」
ぽんぽんと頭を撫でられ少し落ち着いてきた
「アタシも着いて行って良いか?多分役にたつ」
ウィンディアさんが言うと
「ウィンディア殿が一緒なら心強い。アタシ1人じゃ限界があるから」
アイラさんが安心した様に言った