92話
食後のお茶を飲みながらまったりする、私の大好きな時間。
暖炉前のソファで寛いでいると
「ナディア様、明日は久しぶりに温泉等どうでしょう。この村何種類かある様なのです」
「まぁ!行くわ。行きたいわ」
前回砂に埋められてからどこの温泉にも行っていない。
まぁ熱出したりしていたし。
砂風呂も沢山汗をかいて物凄くスッキリしてとても良かったけれど、できれば湯船につかり手足をダランとさせる温泉に入りたいわ。
何だかんだとちっとも温泉に入っていなかったからとても楽しみ。
ふと肩を見ると目を瞑ったままピクリとも動かないぷっぷちゃん。その背中を優しく撫でながらぷっぷちゃんも温泉に入るかしら?などと考えていたら
「あ、何か傷?があるみたい」
ぷっぷちゃんの背中にようく見ると二本傷らしき跡がついている。
「ええ?アタシには見えないけど」
アイラさんが覗き込みながら言う
「ここですよ、ここ。触った方がわかりやすいけれど、ディラン殿下に今日近寄らせるなと言われたばかりですものね。ご自分は鷲掴みにしていたのに」
あははホントだよねーと皆で笑いあった後部屋に戻りぷっぷちゃんを桶に入れる。
起こさない様そうっとシッポを解きポチャンと入れるとぷっぷちゃんが薄く目を開けた。
「起しちゃったかしら?ゴメンなさいね。ゆっくり休んで」
言いながら頭を撫でると再び目を閉じてぷっぷちゃんは眠った様だった。
それにしても桶が狭そうね。
最初は桶の中で泳げるくらいの広さはあったのに、今は丁度桶くらいの大きさになってしまっている。
桶の淵に顔を乗せ眠るぷっぷちゃん。
やっぱり可愛い。
明日一緒に温泉に連れて行ってみようと思いながら眠りについた。
「おはようございます。ナディア様」
「おはよう。グレタ」
「今日もどんより曇り空ですよ」
窓を開けながらグレタが言う。
この所、と言うより王都を出てからずうっと曇っていたり、雨だったりでカラッと晴れた日が無い様な気さえしてくる。
「この辺りはあまり天気が良くないのかしら?」
「本当ですね。洗濯物がちっとも乾かなくて気持ちも若干沈みますよ」
グレタらしい言い方だわと思いクスリと笑ってしまう
「さぁナディア様、お顔を洗ってお着替えですよ。今日は忙しいですからね」
「温泉に行くだけではないの?」
ワンピースは昨日着た山吹色のが一着あるだけなので、今日は軍服だったりする。
手早く着替え下に降りる時
「ちょっと遠いみたいですよ、温泉。一応ハイドン村の中らしいのですが、バカみたいに大きな村になってしまったので。もういっそのこと村を名乗るのやめた方がいいと思うんですけどねぇ」
確かに。
もう村の規模どころか街も超えている。
まぁ遷都らしいし、殿下曰くここが王都になるんだと言う事なのでしょう。
朝食を頂き出かける支度をしに二階へ上がると何やら鳴き声らしきモノが聞こえてきた
「ぷっぷちゃん?どうかしたの?」
扉を開け桶を覗き込むと
「ぷっぷ〜…」
弱々しく蹲り身体を震わせて鳴くぷっぷちゃん
「どうしたの⁈どこか痛いの?苦しいの?」
駆け寄り抱き上げるも、苦しそうに身体を丸め何かに耐えているみたいだ
「どした⁈ナディア、何か…ぷっぷか?」
真っ先に駆け寄ったアイラさんが言う。
下から全員来てくれたけれど、殿下命令で誰も手を出せずにいると、パリッとぷっぷちゃんから音がした後
「ぷぅ〜!!」
ぷっぷちゃんが力むと背中?が真っ二つに割れてしまった
「ぅぎゃーー!!ぷっぷちゃん!!」
私の両手の中でぷっぷちゃんの裂けた背中から灰色の翼がバサっと音をたて現れた。
「……」
誰も声を上げられずにいると、羽を生やしたぷっぷちゃんが私の腕によじ登り始め肩までくるとフワリと飛び出した。
パタパタパタ…一生懸命羽を動かしふよふよと飛ぶぷっぷちゃん。
可愛い。
けれどあなたは一体何の生き物なのかしら?
身体の色は相変わらず黒く産毛が生えていて短い手足はトカゲやヤモリのよう。
そして灰色の翼はコウモリの羽仕様になっている。
ふよふよと部屋の中を一周し、再び私の肩に戻ってくると、
「ぷっぷ」
まるでどお?と聞いてくるかの様に首を傾げるぷっぷちゃん。
「凄いわね。上手に飛べるのね」
「ナディア!!」
「ナディア様⁈」
皆んなの言いたい事は何となくわかるわ。
いきなり羽が生えて飛んだらそんな事言っている場合じゃないって事よね。
ええ、ええ、ようくわかりますとも。
でもね?可愛いのよ。
あんなつぶらな瞳で見上げられ、どお?なんて顔されたらもう褒めるしかないじゃない。
どうしようもなく可愛いのよ!!
「さぁ、ぷっぷちゃん、一緒に温泉に行きましょう」
「ナディア!連れて行くのか?それより殿下に言った方がいいって!」
慌ててアイラさんが言う
「ナ、ナディア様!アイラさんの言う通りです!羽が生えたんですよ!早く殿下に」
エアリーもそんな風に言ってくるけど…
「今言わなくてもいいんじゃないかしら?」
「「はいぃ⁈」」
「だって殿下に言いに行ったら今日の温泉が流れてしまいそう。どうせ何も出来る事は無い気がするのよね。ぷっぷちゃんに関して」
皆んなが絶句した。
どうせ殿下に言いに行ってもリシャールさんを始めこれは一体?的な話になって、最終的にリシャールさんの師匠がくるまで、私とぷっぷちゃんは待機!くらいの事を言いそうじゃない?
皆んな私の温泉愛を侮っていらっしゃるわ。
「なので温泉に行きます。ぷっぷちゃんも置いて行く訳にはいかないので連れて行きます」
アイラさんとコニーさんがヒソヒソ話をした後コニーさんは1人部屋を出た。
きっと殿下に知らせに行くのね。
他の3人は渋々出かける支度を始めたけれど、行きたくなさそうな雰囲気がアリアリだわ。
一通りの荷物を持ち馬車に乗り込む。御者台にはアイラさん同乗者はグレタ。
エアリーはお留守番らしい。
「ではエアリー、お留守番よろしくね」
「…はい。お気をつけて」
物凄く何か言いた気だけれど見えないフリをした