89話
殿下とラッサ大尉、リシャールさんが部屋を出ると
「ナ、ナディア様、私ちょっと席を外してよろしいでしょうか?」
突然グレタが言った
「かまわないけれど…どうしたの?」
「少々リシャールさんに伺いたい事がございまして。失礼します」
急ぎ足でリシャールさんを追ったグレタ
「…セラさんの毛穴の件かしら?リシャールさんと会えないと言っていたし」
「そうですね。グレタは相当気にしてましたから」
そうよね。
責任を取ってお嫁に行くとまで言っていたくらいですもの。
…ちょっと見に行ってみようかしら?
「エアリー、ちょっとお手洗いに行きたいわ」
「では私の肩にお掴まり下さい」
エアリーの手を借り扉をでると、少しだけ身体が揺れたけれど、会話の内容が聞こえてきて幾分シャッキリできた
「リシャール様、教えて下さい!」
「えー…毛穴の戻し方なんて聞いた事ないよ。」
「そこを何とか…」
「う〜ん…そんな魔法があったらこの国にハゲた人いないと思わない?」
「そうなのですが、セラ様の場合怪我を負った時に、私が傷口と一緒に毛穴も塞いでしまったのです!普通のハゲと一緒にしないで下さい!!」
「そんな事情でセラの頭はハゲたのか…ナディア?」
殿下は最後に呟いた後、私の存在に気づいた。
「お邪魔してごめんなさい。ちょっとお手洗いに…」
盗み聞きをしていたと思われたら心外だわ。
ちょっと見に来ただけですもの。
「ちょっと待ってろ」
そう言って殿下は階段を駆け上がり私を抱き上げた。
「この家ではやはり狭い。部屋に手洗いがないのは不便だろう」
本当に優しさはあるのに、子供抱っこな辺りがやっぱり殿下よね。
残念な人だわと思っていたら
「殿下、差し出がましいようですが、女性をその様に扱うのはどうかと」
流石ラッサ大尉。心得が違うわ
「どこがだ?」
!!
女性への扱いがなっていないと思っていたけれど、まさか知らなかったとは…
その場にいた全員が衝撃を覚えていると
「あ〜ゴメン。ディランにそうゆうの全く教えてこなかったよ。僕もよくわからないから」
なるほど。リシャールさんが教えなければ誰も殿下に教える事ができないものね
「リシャールお前、女性への扱いは知らないのによく父親になれたな」
⁉︎⁉︎父親?誰もが唖然としていると
「さっきもそんな事言ってたけど、一体何の事だよ」
「先程殴りかかったショーンは、お前が父親でエルザランの娘が母親だと言っていたぞ」
とんでもない話にその場にいた誰もが口を挟めずにいると
「え?僕それでさっき殴られたの?」
「それしか考えられんが」
「えぇ〜僕の子供じゃないよ」
「本当に?」
「本当だよ。だいたいディランと大して年変わらないでしょ?そしたら僕は15やそこいらで父親になった事になるじゃないか。その頃の僕はまだ初体験も済ませてないよ」
私達は一体何を聞かされているの?
「ゴホンゴホン…それくらいになさって、殿下は早く連れて行ってあげて下さい」
こんな時ラッサ大尉がいてくれて本当に良かった…
「あ、悪い。で、婦女子はどの様に抱えるのだ?」
「殿下、先ずは一度ナディア様を降ろして、背中と膝の裏をですね…」
すかさずエアリーが横から丁寧に説明をしてくれて、私は晴れてお姫様抱っこなるものをしてもらえたけれど
「「おぉ〜」」
「殿下お上手です」
「殿下、素晴らしい抱き上げ方ですね」
「ディランやればできるじゃないか」
一階から上がる歓声に違和感しか感じない。何かしら?殿下の成長を見届ける会か何かなのかしら?
用を済ませリビングにでるとリシャールさんとグレタの話はまだ続いていて、「お願いします」「無理だから」が繰り広げられていた。
私に気づいた殿下が寄ってきて無言でお姫様抱っこされた。これで今後おかしな抱き上げ方されないわよね?
「ありがとうございます。あの、遅くなりましたが、おかえりなさいませ。ご無事で何よりです」
殿下は少し目を見開いて
「た、ただいま」
この時私は熱のせいで全く気づかなかった。
その場にいた全員が話しを止め私達がポツポツと喋りながら二階へ上がる間耳を澄まして聞いていたなんて。
部屋に入った途端下の階から、エアリーとグレタのキャーと言う悲鳴が聞こえた
「何事でしょう」
「さぁ?」
その後もキャイキャイ騒いでいるし、切羽詰まった感じでもない。
ラッサ大尉を始め、アイラさんもコニーさんもいるから基本心配はいらないと思うけれど
…私の寝る準備はどうしましょう。
仕方ないので自分でガウンを脱いでベッドにと思ったのだけど…殿下がいる。
この場合それをしたら再びふしだらとか言われるのかしら?悩んでいると
「何をしている。さっさとガウンを脱いでベッドに入れ。悪化するぞ」
そう言って私のガウンを剥ぎ取りにきた
「ちょ、ちょっとお待ちくだ…」
「待てるか」
「いえ、あのですね…」
ガチャ
「「あっ」」
「し、失礼しました!ノックはしたのですが、あの、お休みになるご準備をと思って…な、何も見ておりません」
両手で顔を覆って謝ってくれてはいる。けれどエアリーは指の間からガッツリこちらを覗き見ている
「遅い!誰も来ないから俺が脱がす所だ」
「も、申し訳ございません…」
殿下はエアリーが謝り終わる前にさっさと部屋を出て行った。
「遅くなってしまい申し訳ありませんでした」
シュンとしているエアリーを責める君にはなれない
「かまわないわ」
ガウンを脱がし私のネグリジェを整えながら
「お邪魔しては悪いかと思ったのですが、お2人でこのベッドは小さいから別の部屋に案内しようと思って…」
「何バカな事言ってるの!そんなふしだらな事しません…」
再び目が回ってしまいフラついた所で
「スミマセン!ナディア様具合悪いのに」
慌ててベッドに押し込められた。
そうよ。私は病人なのよ。
ドレナバルの人は病人に対する扱いもなってないわ。
でも仕方ないわね、ドレナバルの人達は病気になっても魔力で何とかできるのですもの…
そんな事を考えながら眠りについた