86話
ピィーー
大きな鳥が俺達の上を旋回している。ピィと指笛を鳴らすと鳥は高度を下げ俺の肩に止まった
「ただいま。門を開ける様伝えてくれ」
鳥に話しかける俺を怪訝な目でショーンは見ていたが、無視しておいた。
しばらくすると中から門が開き中から兵士達が駆け寄ってきた。
「殿下ーー!」
「おかえりなさい!殿下!」
大歓迎で出迎えてくれる中、ショーンは1人
「でん、か?」
愕然とした顔をしていたが、素知らぬ顔で中に引き入れた。
中に入ると数十人の兵士の出迎えがあり
「殿下ー!おめでとうございます」
「殿下もやりますねー」
うん?何かめでたい事なんかあったか?
後ろの方にヤケに顔色の悪いラッサと、様子のおかしい兜を被ったセラが立っていた
なんだろう…この場にいるはずの人物がいない事に物凄く不安を感じた
ハイドン村の中央、石造りの建物の中の一室は異様な空気が漂っていた。
ショーンは最初それを聞いた時、愕然として言葉を失った後徐々に怒りが湧いた様で
「なんで…何で最初に言ってくれなかったんだ!」
「言える訳ないだろ。それに、言ったところでお前は信じたのか?」
「そ、それは…」
いきなり俺がディランで、皇太子だと言ったところで頭がおかしなヤツが来た、程度だろう。
「で、でも!聞いていればマルゴロードに対しても、もっと違う対応ができたかもしれない!そしたら僕だってビサック商会追い出されずに済んだかもしれないじゃないか!」
「それはないな」
「何をバッサリ言い切って!僕が父さんに取り入るのに10年!10年かかったんだぞ。まだ作りたい魔道具だって山程あったのに!」
それであのへりくだった態度か…
「なら、最初追い出された時に頭を下げ父親に頼むんだったな」
「あの人は自分や商会に損害を与えた人間を許さないよ」
「ならなる様にしかならなかったって事じゃないか?魔道具ならここで作れば良い」
「ふ、ふざけんな!ここは一体何なんだ。造りかけの城壁と堀、中はがらんどうで何も無いじゃないか」
「俺は言ったぞ。一度こちらにきたら戻るのは容易ではない、それでも一緒にいたければついてこいと。
ここへついて来る事を選んだのはお前自身だ。
そしてここはこれから色々造られていく所だ。詳しくはハリー、お前から説明してくれ」
「はい」
返事をしたハリーはそのままショーンを連れ部屋を出ようとすると
「そもそも殿下が頭と身体が弱いなんて噂があるからっ!」
納得のいかないショーンは食い下がってきた
「その噂に関しては俺も不本意なんだが?」
むしろ消し去りたいのは間違いなく俺だ!
「じゃあ、大体あんな膨大な魔力があって!頭も身体も平気なのに何故表に出てこないんだ⁈」
「あるからこそ出れなかった、だな。この部屋に来て1時間くらいだろうか。そろそろハリー辺りは一緒にはいられなくなる」
「え?」
キョトンとしたショーンはハリーを見ると
「そうっすね。あと30分くらいなら大丈夫ですけど」
ハリーの答えにショーンは
「魔力酔い?」
「そうゆう事だ。今はある程度抑える事も出来る様になったが、昔はダダ漏れだった」
「…今も抑えているのか?」
「そうだな。誰かと一緒に眠る事も叶わない。1人を除いては」
そう言えばナディアはどうしているだろうとふと思った。出迎えにもいなかった
「とりあえず俺の身分の事もあるし、他にも事情があるからお前を今放り出す訳にはいかない。以上だ」
そう言って2人には出てもらった。入れ替わりにセラとラッサが入ってきた。が、様子が只事ではない。
「何か問題でもあったか?報告し合うよりそっちの方が先なら…」
「大問題発生です」
何だ?
「ナディア様が従魔の契約をなさいました」
「…ラッサ、酔っ払ってるのか?ナディアには魔力が…」
「間違いないようです。噛みつかれ出血した所を舐められた、と本人が言ってました」
「噛みつかれただと⁈」
怪我は?それで出迎えが無かったのか?
「うわーっ!殿下落ち着いて!おっきさはこんなもんで…」
そう言ってラッサは親指と中指でおおよその長さを示した
「何だ小さいのか…。驚かすな。で、何の魔物なんだ」
あぁ驚いた。でも魔物は小さくても魔物だ
「はぁ、それがよくわからなくて…産毛の生えたトカゲの様な感じで、鳴き声はぷっぷと…ナディア様はぷっぷちゃんと名付けてました」
「名付けたのか?何だかわからない魔物に?」
しかし従魔の契約なんて魔力の無いナディアが何故できる?そんな文献過去にあったか?
「おいセラ、今までそんな文献あった…おい、セラ?何かあったのか?」
死んだ魚の目をしたセラは
「イエ、トクニナニモ…」
こんなおかしな様子のセラは久々に見る。こうなると全く使い物にならない。
「おい、ラッサ。何があった?」
「はぁ、王都から帰還する途中大怪我をしまして…」
「何だと?何処を怪我したんだ。頭とか打ったのか?それでこんな虚ろな顔なのか?何故ちゃんと休まない?おい!ラッサ、大至急」
「殿下!殿下落ち着いてください!怪我は大丈夫なのです。一緒にいたグレタが懸命にヒールをかけてくれたので。ただ…」
「ただ何だ?」
一体どうなってるんだ。大怪我なんて聞いてないぞ。
怪我が治っているのにセラのこの状態は何なのだ。
イラっとしてつい怒鳴る様に言ってしまった
「あの、殿下…魔力が…」
くそっ!わかっている。
ダダ漏れしている事くらい
「すまない。ラッサ、大丈夫か?」
深呼吸をし話しかけた
「あぁ、はい。何とか」
顔色を悪くしたラッサが言ったがセラはテーブルに突っ伏してしまった
「セラは本調子ではないのだろう。俺が運ぶからラッサはここで少し待っていてくれ」
そう言ってセラの上半身を起こし、背負おうとした時
ガランガラン
セラの被っていた兜が落ち、セラの髪がサラリと流れた
「これは…一体…」
右耳の後ろから後頭部にかけて髪の毛は無く、光輝いている。
俺は無言でセラに兜を被せ背負って部屋を出た。