81話
「我々は一旦外に出ます。夕刻になる頃再びこちらに参ります」
「そうですか。ではお待ちしております」
“出かけてそのまま居なくなるなんて無かろうな?何か魔道具でも取り付けようか”
カルロス氏の声が聞こえた。
「あぁ、よろしかったらこちらをお持ちになって下さい。商人用ギルドカードと言って身分証明のような物です。これがあれば兵士に呼び止められても、提示すれば商人だと思ってもらえます」
木を薄くした四角いソレは何やら模様と数字が描かれている。
ハリーは受け取ると
「そうですか。ではお借りします」
ハンドバッグに仕舞い2人で商会を後にした。
「だぁ〜つっかれた。バートンさん、どう思います?」
「何が?」
とりあえず図書館へ向かおうと歩き出した
「あの父子。もうビサック商会から物流聞くの諦めてエル・シッドだけ調べてハイドン村へ帰りませんか?さっさと逃げたましょう」
ハリーの言う事はもっともだ。
今第一にしなければならないのは無事ハイドン村に帰り着く事。
わかってはいるが、今王都を離れたら次は一体いつ来る事ができるのか…
少なくとも今この王都に何が起こっているのか知るにはカルロス・ビサックの言う、会わせたい人と会って話をするべきな気がする
「いや、俺は会う。何なら身分を明かしても構わないと思っている」
「ちょ、ちょっと!ダメですって。万が一カルロス氏が元老院と繋がっていたらどうするんですか」
「多分だけど、それは大丈夫だ」
「根拠は?」
「…ない」
会わせたい人物の事を彼の方と言っていた。
少なくとも元老院の人間に対して彼の方とは言わないだろう。
多分だけど
「勘弁して下さいよ〜。何か会わない方がいいって俺の勘は言ってますよ」
「俺の勘では大丈夫だと言っている」
「えぇ〜当たるんですか?」
「当然だろう。それより先程受け取っていたカード見せてくれないか?」
「え?あぁ、はい」
ハリーはハンドバッグからカードを取り出しを俺に渡した。
何の変哲もない、商人用ギルドカード、これが魔道具?
手に取ってジロジロ見ていると
「バートンさん壊さないで下さいよ。それ、多分追跡用の魔道具ですから」
「追跡?お前魔道具だとわかって受け取ったのか」
「まぁ何となく。俺達逃げられると思われたんですかね?まぁ実際俺は思ってたけど。最近王都に出回ってる魔道具で結構なお値段ですよ」
「ふぅん。壊したらどうなるんだ?」
「…さぁ?爆発でもするんですかね?」
「…知らないのか。まぁいい。お前が持っててくれ」
言いながらカードを渡す
「あれ?俺、何かあった時の囮ですかね?」
「いや、気にするな。それよりお前…ハリーそのままだがいいのか?」
「え?うぉ!嫌だわ。バートンさんったら、もっと早く教えて下されば良かったのにぃ」
今更可愛い子ぶっても気味悪いだけなのだがハンナの破壊力は凄まじく、行く先々で丁寧な道案内をしてもらえた。
この辺りで一番大きな教会の横にある、西地区主体の図書館は、石造りの比較的大きな建物で誰でも利用出来るらしい。
王宮図書館もあるが、一般市民は中々利用出来ないし、物語本はあまり置いてない。
何より王宮には近寄りたくはないし。
中に入り手分けして探す事にしたが、ハンナは真っ先に司書がいる所に出向き何やら手伝って貰っていた。
俺は俺で児童書が多くある一角や、ちょっと古い図書コーナーをしらみつぶしに探したが何の成果もなく他のコーナーへ移動しようとした時
「兄さん。やっとみつけた」
司書らしき人物を4人程引き連れたハンナがいた。
「あったか?」
「全然。昔はあったらしいのだけど」
「あったのか」
てっきりグレタの妄想なのではと途中から思ってしまった。
「ええ。この司書の方が教えてくれたの」
4人中から1人ズイッと前に出てきた男が
「初めまして。ハンナの兄上殿、私この図書館で司書をしております…」
「いつ頃まであったんだ?」
自己紹介など聞いている場合ではない。
男は少しムッとしながら記録では10年位前まではあったと記されていたと言った。
いつの間にか破棄扱いになったと。
図書館の本は基本的に増えていくが、有害だと認定されると破棄される。
物語本が有害なんて聞いた事もないが、貴族辺りが手を回したか
「誰かその本の内容に詳しい者や破棄になった経緯を知っている者はいないか?」
「でしたら、生き字引みたいな爺さんがいるので」
そんな言葉と共に案内してもらう事になったのだが
「ねぇ、ハンナちゃんは普段どこに住んでるのかな?」
「え〜王宮より南東側に住んでいたのだけど、今は兄とこの西地区に」
「ねぇ、ハンナちゃんはどんな男性が…」
こいつらどこまでついてくる気だ?
6人でゾロゾロ館内を歩いていると、目立って仕方ない。
しかも司書が率先して喋っているし。
図書館の北側、薄暗い通路を抜けた先にその爺さんはいた。