80話
俺達は応接室に通されると
「初めまして。カルロス・ビサックと申します。こちらは息子のショーン・ビサック。儂の片腕として働いている」
「ショーンです。よろしく」
優男はショーンと言うらしい。
「ハリーです。こっちはバートン。よろしく」
「バートンです」
答えたのはハリー。
俺は名乗った後大人しく様子を見る事にした。
お互い挨拶と握手を交わしソファに座る。
お茶を出してもらい、人払いがされた後
「ショーンさん。俺が女装だといつ分かったので?」
ハリーが尋ねると
「今朝通りであなたを見かけた時すぐに。随分前ですが、セラ氏と一緒にいた時にお見かけしていたのです」
ニコニコとしながらショーンは言いだした
「随分前に見かけただけの、俺の女装をすぐ見破ったと?」
ハリーは警戒しながら質問する
「あぁ、そうですよね。僕、魔力的なのかわからないのですが、一度見たら大抵覚えているのですよ。人の特徴」
とんでもない事を言い出した。
一度見ただけで?
「俺の特徴?」
「ええ。ハリー殿の場合女性らしくしていてても、歩き方がハリー殿なんですよ。で、最終的にハリー殿の雰囲気って言うか、何かが出ているのでハリー殿だと」
ちょっと何を言っているのか分からない。
ふふふんと自慢気にしている父親含め、もしかしたらビサック商会も商会長も名ばかりで大した人物ではないのかもしれない。
もう帰ろうかとハリーに目をやると
「俺の何かが出ているとかは置いといて、歩き方って何?」
やけに好戦的な言い方をしている
「あぁ、お気を悪くされたのなら申し訳ない。右足の…つま先小指辺りに古傷でもあるのかな?と思いまして」
「っ!!」
ハリーの表情が変わった。
「へぇ…で?俺を通してセラさん、最終的に殿下にお会いしてその後どうするおつもりで?」
「その様に凄まないで下さい。倅は少々変わった魔力の持ち主なので。我々は別に陛下や殿下を害そう等と思ってはいない。むしろ、何と言うか、助言を差し上げたいと」
慌ててカルロス氏が口を挟んできた
「助言?」
「ええ。元老院にではなく、陛下、もしくは殿下に」
「…今ここでそれを伺う事は?」
ハリーは完全に女装した事を忘れ、諜報員の顔で聞いた
「それは出来ません。倅の事を信用して貴方をハリー殿だと思ってはいますが」
チラリと俺を睨んできた
「バートンさんは信用できないと?」
「ええ。我々は仕事柄無闇に人を信用する訳にはいかないのですよ。特に今は」
何故今なんだ?
俺に言わせれば、このカルロス・ビサックも信用に足る人物なのか分からない以上名乗る訳にもいかないし、名乗った所で信じて貰えるかも分からない。
どちらにせよここは一旦引き上げた方がいい。
そう思ってハリーを見ると
「セラさんは昨日王都からは出ています。ご存知で?」
「勿論。大立ち回りでしたな」
「では、俺がこの王都に残ったのは何故だと思います?」
「…今、いや、ずっと理由を考えているが、セラ氏と逸れたとは考え辛い。
裏切りも貴方の様子では無さそうだ。ならば同行するより大事な仕事があったのではと思ってはいる」
探るよう言葉を選びながら答えるカルロス氏に対してハリーはニッコリ笑い
「当たりです。なので今日は一旦引き上げます」
「よろしいので?私に用があったのでは?」
「ええ。ですが、お話しはこれ以上聞けない様ですし仕方ありません」
そう言ってハリーは立ち上がったので、俺もそれに続き立ち上がる。
「本当によろしいので?事態は深刻で急を要する」
「私達も急いでいるのよ?信用してもらえないのなら仕方ないわ。他にもやらなきゃいけない事あるし」
そう言ってハンナに戻ったハリーはさっさと扉に向かう。
するとビサック氏は大きくため息をついた後
「夕刻もう一度お会いしませんか?…会わせたい人物がいるのです」
「私1人じゃ嫌よ。怖いもの…」
唇を尖らせると、今度は息子のショーンが
「父さん、諦めた方がいい。ハリー殿は譲る気は無い様です。バートンさんも一緒にしましょう。何故かあった時はこの店畳んで別の国へ行ってまた一からやり直せばいいですよ」
この3人の駆け引きにもはや俺の入る隙は爪の先程もない。
この父子の心も全く読めないままだしと、黙って成り行きを見ていると
「お店畳まれるのなら良い所ご紹介しますわ。では失礼」
ハリーは扉から出てしまったので俺も続くが、いいのか?
ここで退出してしまっても…ハリーは強気に出ているが、
「お待ち下さい。このままでは埒が明かない。バートン殿も一緒で構わないので今夜にでもある人物に会ってもらいたい!」
カルロス氏が必死に呼び止める。
先に折れてくれたのか?ハリーの粘り勝か?交渉とはこんな風に交わされるのかと感心した。
だが、その会ってもらいたい人物と会うかどうかは別の話だ。無理してここで謎の人物に会う必要はない。
俺達はエル・シッドの事も知りたいし、物流の事は別の商会にでも行って聞けば良いだけの話だ。
「わかりました。お会いしましょう」
おいっ!!
即答したハリーにうっかり魔力を漏らした俺は悪くない。
するとカルロス氏の手元から何かが壊れる音がした。
本当に小さな微かな音だが、途端に
"あぁ良かった。これで彼の方も機嫌を直してくれると良いのだが”
何だ?急にカルロス氏の声が聞こえてきた。
息子の方は何も聞こえてこないが
「それは良かった。では早速今晩にでも席を設けます。ここで待機していても構わないのですが、いかがなさいます?」
表情を全く変える事なくカルロス氏は言った。
しばらく更新出来なくてスミマセンm(_ _)m
ちょっと転職してまして(*´∇`*)
慣れるまでちょっと更新遅くなりますが、頑張りますのでよろしくお願いします!