74話
「あの、トカゲちゃんどうかしました?」
振り返った時の3人の顔をどう言えば良いのか…
アイラさんは凶悪な、ラッサ大尉は涙目だしセラさんは無になっていた。
「あ〜、う〜ん。いや、その…座っても?」
ラッサ大尉は言葉を選びながら、何も伝えず椅子に腰掛け突っ伏してしまった。
桶の中でプップちゃんはつぶらな瞳で私を見ながら
「プップップ」
と鳴いている。可愛い
「あのね、ナディア。私から説明するよ」
言葉を失った男2人に代わりアイラさんが説明してくれるらしい。
無になってしまったセラさんを椅子に座らせてから再びアイラさんが口を開いた
「多分、いや、間違いなくコレは魔物だよ」
⁈
「え⁈ちょっと見せて」
最初に反応したのはコニーさんだった。
防御魔法を解き、トカゲの尻尾を摘み持ち上げてしげしげと見た後無言でトカゲを戻した。
「ごめんなさい。言われるまで全然気づかなかったわ」
え?魔物確定なの?
「待って下さい。こんなに可愛いプップちゃんのどこが魔物なんですか?殺してしまうのですか⁈」
「「「プップちゃん?」」」
周りから一斉に聞かれた。
「あの、プップと鳴くから…そんな事より、本当に魔物なのですか?」
するとアイラさんがプップちゃんの尻尾を摘み上げ私達に見せる
「足の裏見て。赤いでしょ?とりあえず防護の魔法かけて出られない様にしとくけど」
すぐに桶に戻し防護の魔法をかけた
「魔物はこんな風に足の裏が真っ赤なんだ。
魔物によっては人型をしているのもいるんだけど、足の裏が真っ赤だからそれで判別するの。四足だった場合は後ろ足」
プップちゃんの後ろ足は確かに真っ赤だったけれど、それだけで魔物なんて。
こんなに可愛いくて害も無さそうなのに。
「あの、それでは殺してしまうのですか?」
せめてどこかに逃してあげたい。
魔物かもしれないけれど、だからと言って人を襲うとも限らない。
「残念な事にそれもちょっと…」
ノソリと顔を上げたラッサ大尉が言った。どうゆう事かしら?
「スミマセン。少し立ち直ってきました」
こめかみを押さえながらラッサ大尉は続ける
「この魔物は多分まだ生まれたばかりだと思います。ですが、この先どの様に成長するか誰にも分かりません。さっさと殺してしまいたい所ですが…」
やっぱり殺されてしまうの?
プップちゃん!
「先程アイラから聞きました。ナディア様、指を噛まれた。間違いないですか?」
「え、ええ。でもちょっとだけです。怪我にもならない位の傷で、決して襲われた訳では…」
「ああ〜っと、襲った襲われたは今は関係無くてですね、その…ナディア様出血されましたか?」
「ええ。でもほんの少しだけです。プップちゃんも気にして舐めてくれたりして。優しい子なんです!」
ガタン
突然セラさんが椅子から転げ落ちた
「セ、セラさん?大丈夫ですの?」
「いえ、ダメです…ダメダメで…す」
そのままセラさんは白目になってしまった。
「セ、セラさん⁈しっかりなさってください!聞こえてます⁈」
駆け寄ってブンブン揺すってもウンともスンとも言わないセラさんを横目にラッサ大尉は
「ナディア様、それです」
「はい?」
「ナディア様の血を舐めた事で、ナディア様とその…プップ殿との間に契約が交わされたのです」
?…契約?
「つまり、プップ殿はナディア様の従魔になったのです」
じゅうまって何かしら?
聞いた事ないわ
「ラッサ大尉、ナディア様ちっとも分かっていらっしゃらないです。もう少し詳しい説明を」
流石だわエアリー
「従魔とは、そうですね。ナディア様に従う魔物ですかね」
「私に従ってどうするのです?例えばトイレはここでするのです。とかボールを取ってきてと言ったり?」
それはただのペットよね?
ドレナバルでは魔物をペットとして飼う人もいると言う事かしら?
「いえペットではないので、違うと思うのですが。私も詳しい訳ではないのです。
ただ、巷で言われているのは主人となった人の魔力を持ってして、操り従わせる事が出来ると言われています」
⁈
私には魔力がないのに⁈どうやって従わせるの?
力ずくかしら?
「あの、従魔?をお持ちの方から話を伺うとかは…」
「魔物を従わせるには膨大な魔力が必要らしいので、我が国にも数人の魔法使いしか…」
困ったわね。どうしたら良いのかしら?
チラリとプップちゃんを見るとつぶらな瞳が目に入った。可愛い。
けれど…
「で、では野生に帰すと言うのは?いくら何でも殺してしまうのは…」
「お勧めできません。従魔は主人のそばに常にいるらしいので、野生には帰せないです。殺した場合、主人であるナディア様に何らかの影響が無いとも限りません」
「契約解除とかは…」
「聞いた事ありません」
…八方塞がりとは正にこの事ね。
こんなに可愛いのにいつか誰かを襲う様になってしまうのかしら?
プップちゃんは桶をよじ登り中から出てきて私の手にじゃれつき始めた。
…あら、先程アイラさんが防護の魔法かけたわよね?
周りを見るとみんな愕然とした顔でプップちゃんを見ていた。
「…ラッサ大尉、従魔に魔法は効かないのか?」
「…私に聞かないで下さい」
「プップ」
その日結局そのままお開きとなり、セラさんは無のままラッサ大尉に引き摺られ帰って行った。
セラさん来なくても良かったのでは?と思ったけれど、貴族令嬢はそんな事口に出したりしない。
ラッサ大尉が帰り際に
「あ〜、とりあえず分からない事だらけですので、プップ殿を置いて行きますが、くれぐれも、くれっぐれもお気をつけて。一応魔法にお詳しいリシャール殿に聞いて明日にでもまた話し合いしましょう」
「はい。よろしくお願いします」
見送った後、再びテーブルに着くとコニーさんが
「お昼も食べ損ねちゃったわね。ちょっと遅くなったけれど夕飯取りに行ってくるわ」
刺繍をしていた午前中にセラさん達が帰ってきたと連絡を受けて、今はもう日が沈んで随分経つ
何だか色々ありすぎて疲れてしまったわ。
その後コニーさんがヒューズ君を伴い夕飯を運んでくれたけれど、食欲もあまり湧かず、少し食べてもう休む事にした。
貴金属入り小袋をベッドとサイドテーブルの間に新たに作られた隙間に入れ目を閉じる。
明日リシャールさんと会えたら、プップちゃんの事の他にセラさんの毛穴の事も聞かなければ。
そう言えば夕飯あまり食べなかったから、少しは体重も減るかもしれない。
等と考えていたらいつの間にか眠ってしまった。
そして私はドレナバルに来て初めて発熱した。
決して仮病ではない!