64話
途中からセラ視点になります
「単刀直入に申し上げます。ディランとは…殿下とは王都最終日にはぐれました」
「はぐれた?」
「はい。元老院の方たちとお会いし手紙は渡しました。ディランの存在もバレてはいなかった筈です」
ならその後手紙を読んだ元老院が事を起こした?
その手紙に何が書いてあるの?
するとラッサ大尉が
「さっきの話だと殿下とはぐれたとしか聞いていないが、殿下はお一人で?」
「いや、多分この後ろに立ってるオズワルドの相方ハリーが一緒ではないかと」
「相方?」
「うん。僕の諜報員」
諜報員⁈
スパイよね?
国ではなくセラさんの?
「オズワルドです。セラさんの延いては殿下の諜報員です」
そうか。殿下の、と言う事は王家の諜報員よね
「そのハリーと殿下は間違いなく一緒に?」
「絶対ではないですが、おそらく」
「どうも要領を得ないのですが、元老院との謁見は概ね上手く行ったのですよね?」
「そこら辺は僕から説明するよ…」
セラさんが語り出した
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王宮へ出発する朝、高級宿の裏で少し緊張感の足りない感はあるけれど総勢40名誰一人欠ける事なく宿を発った。
唯一違うと言えば、一般兵士として潜んでいた諜報員のハリーが女装して僕の馬車に乗り込んでいる位で。
「セラさん!あのグレタって侍女マジ凄いですよ。殿下の変装も凄いと思ったけど、見て下さい!この俺!!」
目の前にいる美少女が部下だとは思いたくない。
化粧でここまでになるとは…
世の中の化粧している女性もここまで変わるとなると、今後僕の女性を見る目に支障がでるのは間違いない。
「で、ハリーは女装して何するつもりなのさ」
「俺は…もとい!私は王宮内とできれば城下町の様子を見てこようかと。
王都の端っこと王宮の間近ではまた違った情報が聞けそうですし、何ってたって美少女相手に口が軽くなる人も出て来るでしょう」
確かにそうかも知れないけれど、ハリーはこれでも臨機応変のきくかなり優秀な諜報員だ。
元老院との謁見の場にいないのは少々不安を覚える
「うふふ。大丈夫ですよ。オズワルドもいるし、他にも優秀な方はいらっしゃるから」
僕の不安を読み取ってハリーが天使の様な微笑みで言うけど、その顔で微笑まないで欲しい。
おかしな気持ちになりそうだ。
途中この狭い馬車にディランも乗り込み今後について話し合うが、変装した2人と一緒にいると自分がどこで何をしているのかわからなくなって全く集中出来なかった。
王宮の前門には午前中にたどり着き、そこでハリーは
「では、王宮内の用事を済ませて参りますわ。皆さま、また後で。ご機嫌よう」
花の妖精の様にヒラリと去って行った。
ボーっと見送る兵士達に声をかけたのはもちろんディランで
「そろそろ参りましょう。お待たせする訳にはまいりません」
「「「ハッ!」」」
気を取り直し王宮に入ると今度はマデリーン嬢が
「では、私は父上の所に参ります。皆さま後程、ご機嫌よう」
そう言って侍女、護衛を引き連れ去って行った。
また一緒に戻るつもり満々だ。
30名程の人数になった所で前室に通される。
この先は僕とディラン、オズワルド、他に2名の側近を伴い謁見室に行く事になる。いよいよだ。
「この部屋は陛下の謁見用の前室と記憶していたのですけど、変わったのですかね?」
ヤケに低い声でディランが言った。
「ディ…バートン、口を謹んで」
どこで誰が聞いているのかわかったものではない。
やがて文官の格好をした2人が呼びに来て前室を後にする。
やがて通されたのは陛下との謁見室ではなく、元老院用の謁見室だった。
誰かが聞いていたか?
中に入り失礼にならない様サッと見回す。
目の前には3段程高くなった場所に7つ椅子が並んでいる。
それぞれ椅子に座った元老院の人達の後ろに控えている文官?魔法使い?エルザラン師は見当たらない。
油断は出来ないので頭の中を謁見する時の礼儀作法で一杯にする。
横に立つ文官が
「ディラン殿下のご側近、セラ・パーカー氏前へ」
「ハッ」
手紙を持ち前へ進み右膝をつき右手を胸の前にあて敬礼すると
「面を上げたまえ。セラ殿」
「失礼致します」
顔を上げ
「ディラン殿下の書簡を預かって参りました。お改め下さい」
横にいた文官に書簡を渡し持って行ってもらう。
中央に座るのはバクレール公爵、元老院の筆頭に書簡は渡された。
封を解き読み始めると普段は温厚そうな顔が僅かに歪んだ。
隣りのエルギル卿に書簡を渡すと
「セラ殿はこの内容をご存知か?」
きた
「私はただの使者にございますので内容は存じ上げません」
一つ、家臣として主君に忠誠の義務を尽くさねばならない。
一つ、いかなる状況下においても、自分で同意した誓約に 名誉をかけ忠実でならなければならない。
一つ、儀礼を重んじ…
頭の中で隊則をひたすら唱える。
エルザラン師でなくても魔法使いがいるかもしれない。
背中に嫌な汗が伝う辺りで返事の書簡の準備をするので、その間前室で待つよう指示を受けた。
謁見室を出た辺りでディランがトイレに行ってから前室に行くからと1人離れるが、案内をする文官が1人付いて行った。
いいのか?ディランを1人にして…かと言って、あ、僕もとは言えず前室にたどり着く。
「お疲れ様でした」
「あぁ」
部下の1人に声をかけられ返事をするけど本っ当に疲れた。
戻ったらディランに肩でも揉ませようか?
ディランは戻ってこない。
横で控えている文官も何も言わない。
どうなるだろうかと思っているとノックの音が聞こえてきた。
まさかもう返事ができたのか?
文官が扉を開け何やら話をし、やがて先程ディランに付いて行った文官が部屋に入ってきた。
「先程の体格の良い兵士は具合が悪いとの事で馬車で休むとの事です」
「あ、はい。わかりました」
どうやら上手く言いくるめ、離れる事に成功した様だ。
安心していると
「ディラン隊も大した事ねぇな」
小声で文官が捨て台詞を吐いた。
ムッとしたが、偵察に行ってるんだよとは言えず聞こえないフリをした。後で必ず後悔させてやる。
ふとグレタを見るとニヤリと笑いこっそり親指を立てた。
きっと上手く行きましたね、の合図か何かだろうけど笑顔が少し恐ろしい。