60話
「あの、ドレナバルでは何か意味があったりします?左手の人差し指の指輪」
「あのですね、ナディア様…」
「シッ!帰ってきた」
エアリーが説明しようとした時アイラさんが言葉を遮り、同時にコニーさんがネックレスと指輪を小袋に戻し私の頭の上に乗せその上からズボッと帽子を被せた。
「ただいま〜」
「ただいま戻りました」
エランさんとヒューズ君が戻ってくると、何事も無かったかの様にコニーさんは
「おかえりなさい。いい匂いね、今日の昼食は何かしら?」
「パンに川で取れた魚を焼いてソースを絡めたヤツを挟んだサンドウィッチだって。後キノコのスープ」
「へぇ、美味そう」
アイラさんが舌なめずりしながら言う
コニーさんもアイラさんも何事も無かったかの様に話している。
エアリーもいつも通りにお茶の支度をして。
この2人には内緒と言う事よね…
「ナディア様魚食べた事あるよね?嫌いじゃなかったよね」
私もいつも通り振る舞わなければ
「エエ、ソウネ。サカナハスキヨ」
ど、どうかしら?いつも通りかしら?
作り笑いは得意よ
「ナディア様もしかして何か変な物食べたりしました?」
「ハイ?」
「な〜んか変!あっ、温泉の帰り道で木の実拾って食べ…イデデ」
「こら、ヒューズ。失礼な事を言うんじゃない」
エランさんに耳を摘まれそれ以上話せなくなったヒューズ君。
流石エランさん。
その後エランさんとヒューズ君は薪置き場を作ると外に行ってしまった。
ほ〜〜〜4人で同時に安堵の息を吐く
「何とか上手く誤魔化せて良かった」
「ナディアちゃん本気?」
え?
コニーさん何故?
「ナディア様ダメダメでした。嫌な汗出ました」
エアリー?
「アタシも変な汗出たよ。ふざけてんのかと思った」
酷い。
私は普通に振る舞っていたのに
「ナディアちゃん、顔は作り笑い通り越して変な顔になってるし、言葉遣いカタコトだし」
「ええ⁈普通でしたわ」
…
みなさんその視線は何ですの?
「何か仰って下さい」
「あ〜、その指輪なんだけど…」
私が普通だったと言う話は?
「そうそう。ナディアちゃん心して聞いてね」
不満たっぷりだけど聞きましょう
「皇太子の指輪だ」
うん?
アイラさん?
「皇太子?」
「そう。皇太子が身に着けるんだ。左手の人差し指に」
「それを持ってる人が皇太子…になるのかしら?でも男の人だけよねぇ」
⁈ガタガタッ
「な、何で、指輪、皇太子って」
「ナディア様、落ち着いて座って下さい」
エアリーに肩に手を置かれ背中をさすられるけれど、座ってなどいられない
「いえ、あの、何故そんな物がここに⁈」
「それはナディアが殿下から預かったからだろ」
「そうだけど、何も仰らなかったわ。大事に持っとけ。預けるから失くすなよって」
「言ってるわね。大事にしろ、失くすなって」
「言ってますね」
そんな馬鹿な…
思わず椅子にヘタリ込んだ。
一体何故そんな物を…
その後エアリーの入れてくれたお茶と昼食のサンドイッチをいただくと少しだけ落ち着いてきた。
ソースが甘辛くてとても美味しい
「この指輪、誰か預かってくれません?」
「嫌だ」
「お断りするわ」
「申し訳ございません」
そうよね。
私もそう言うわね
「とりあえず小袋二つに分けて帽子に縫い付けるか?」
アイラさんが言うけれど
「本物の特大サファイアと皇太子の指輪だと知ってしまって、それを縫い付けた帽子を被るなんて肩が凝って頭痛になりそうです」
「でもねぇ、どこかに仕舞っておくのも危険よねー」
それはそうなのだけど…
「いっそナディアに縫い付けるってどうだ?」
「もっと人道的にお願いします」
「だよなぁ。よし!アタシとりあえずラッサ大尉の所行ってくるわ。コレ4人だけが知ってるなんて危険過ぎる」
それもそうね。
手に負えないにも程がある。
今現在私の頭の上にあるけれど、既に肩凝りが始まっているわ。
折角砂風呂に入って身体の中を綺麗にした筈なのに、もう身体中が鉛の様に重く感じる。
アイラさんが出かけた後、私はいつエランさんとヒューズ君がいつ戻ってきても良い様に二階にある部屋へ行く事になった。
コニーさん曰く
「ダメダメだからよ」
一体どこががダメダメなのか問いただしたい所だけれど、とりあえず今は言う通りにした。
別にエランさんやヒューズ君に言っても構わない気もするけれど、知っている人は極力少ない方が良いのはわかるから。
エアリーと部屋に入りまず帽子を脱ぐ。
頭の上の小袋をテーブルに置いてホッと息を吐いた。
知らずに息を詰めていたようだ
「とりあえず小袋をもう一つ作りますね」
そうね、まずはそこからだわ。
エアリーが椅子に座りチクチク小袋を作ってくれている間、手持ち無沙汰の私はベッドに腰掛けクッションカバーに刺繍する事にした。
黙ってボーっとしていると例のモノが入った小袋を何も無かったかの様にするため窓から投げてしまいそう。
いつもは集中して針を刺すのにあまり集中出来ず、直線はウネウネと曲がり少し禍々しい図柄になってきた。
どうしようかと思った所で扉がノックされた。
「ナディア様どうかされたのですか?」
顔を覗かせたラッサ大尉が開口一番そう言った
「悪い。堀係は思ったより人が多くて話せなかったから連れてきた」
アイラさんが言うと
「あれ?もしかして大事な話ですか?」
私達は頷きみんなで一階に降りた。
もちろん小袋を持って
一階ではコニーさんがお茶の用意をしてくれていて、エアリーが駆け寄り2人で準備している間にラッサ大尉とアイラさん、私の3人がテーブルについた。
「これ…」
何と言えば良いのか分からず、テーブルの上に小袋を置く。
ラッサ大尉は私とアイラさんの顔を交互に見た後
「開けてよろしいですか?」
私が無言で頷くと
「では…」
シャラララ、コロンコロン
…
「えっと…これは…」
「シャナルで餞別に頂いたネックレスと殿下の左手人差し指にあった指輪です」
私が簡潔に説明をすると、ラッサ大尉は無言で2つを小袋に戻しテーブルの中央に置いた後突っ伏してしまった