58話
「あったかいでしょう?」
砂は中々の重さだけど少し経つとぽかぽかしてくる
「ええ」
不思議。
砂って温かいのね…
「ここの地下に温泉があるらしくて地面そのものが温かいのですよ」
なるほど、どこの砂も温かいと言う訳ではないのね。
少しすると汗が出てきた。
おでこの汗が流れてきた頃、お婆さんが汗を拭いてくれる。
「苦しぐないが?」
「え、ええ」
お婆さんの言葉は少しだけ聞き取りづらい。
「このお婆ちゃん御歳100才のこの村の長老なのよ」
「100才⁈」
初めて見たわ!100年も生きていらっしゃるなんて!
…100年と言う事は
「ふふ、そうよ。旧ポストナーのお生まれなのよ」
「まぁ、では戦争も?」
「んだ!アタシャこの砂風呂で育ったがら健康さぁ」
「やだ、お婆ちゃん。ゴメンなさいね、すこしお耳が遠いのよ。お婆ちゃん、戦争よ。せ・ん・そ・う」
途端にお婆さんは眉間にシワを寄せ私の汗を拭き取りながら
「ほんに酷い有様じゃった。
とぉちゃんもかぁちゃんも亡くなってしもた」
ポストナーとイグリッチは300年もの間、戦と和平を繰り返し両国共非常に貧しくなってしまったと聞く。
「でも、一番酷がったのはイグリッチに負けた時さぁ。あん時ドレナバルが来てぐれなかったら、こぉんな小さな村もみぃんな殺される所だったよぉ」
その後少しだけ当時の話を聞いた。
何故少しかと言うと段々と暑くなってきてクラクラしてきたから。
砂風呂は人によって長く入れない人もいるらしい。
私は無事砂から出してもらい水分を取り、外にある湯が湧き上がる場所へ連れて行ってもらう。
そこはもうもうと湯気が立ち、覗き込むと砂を巻き上げながら熱い湯が湧いていた。
これがアイラさんが景色が歪んで見えた原因ね
川のせせらぎは空耳ではなかった様で、川から水を引き適温になる様中央で混ざる様になっていてその湯をかけてもらい砂を落とす。
「何だか凄く身体が軽くなった様な気がするわ」
「そりゃえがった。砂風呂は身体の中綺麗にしてくれるさぁ。」
「まぁ!その様な力がこの温泉に?」
「そうらしいですよ。以前魔力の全く無いと言う方がわざわざ他国から入りにいらっしゃった事もあるのです。
癒しの魔力を身体中に巡らせると言う治療代わりだと言って」
!!
何ですって⁈
それは私の為にある様なものではなくて⁈
「まま、まぁ、その様な方が?」
衝撃のあまり吃ってしまった
「この国にはほとんどおりませんけど、他国にはいらっしゃいますよ」
これは!
大陸一番の温泉施設、住みたい場所No.1の礎となる温泉だわ!
着替えを済ませ建物を出るとアイラさんがいたので砂風呂の事を話す。
「へぇ、アタシ砂風呂は入った事無いなぁ。今度時間がある時行ってみよう」
「ええ!とてもスッキリですわ。所でラッサ大尉は?」
「ん〜ちょっと席を外すって馬車に乗って行っちゃった」
ここには砂風呂と着替える小屋しか無い。
お婆さんとマリアンナさんは今しがた帰ってしまった。
「では、少しお散歩しましょう」
アイラさんと川の方へ歩いてみる。
小屋の扉に書き置きを残して。
うっかり入れ違いでラッサ大尉が帰って来ようものならまた捜索隊を組まれてしまう。
川へはすぐ着いたけれど
「川の大きさが違うのですね」
「テオドール村まで流れる途中にもう一本の川と合流してるんだよ」
テオドール村で川沿いに行った時、夜明けの時間帯だったけれどもっと川幅は大きかった。
ギリギリ橋がかけられる位。
対してここの川は川幅も狭く流れも早い。
「でもこの川幅ではすぐ攻め込まれてしまいそうですね」
流れが早く岩もゴロゴロ転がっているので渡れる気はしないけれど大木を倒したら何とかなりそうな川幅だ。
「この先もドレナバルだよ。そのもう少し先にもう一本川があって、そこが国境の川になってるんだ」
「そうなのですか?今度地図を用意してもらってちゃんと位置を教えて下さいね」
それって堀みたいなものではないかしら?
だからここに造ろうと思ったのかもしれない
しばらく他愛もない話をしながら歩いていると後ろからラッサ大尉がやってきた。
「やっと見つけた。スミマセン、ちょっと手間取ってしまいまして。遅くなりました」
「いえ楽しく散策していましたので大丈夫ですよ」
その後3人で本部へ戻るのかとおもいきや
「ラッサ大尉、ここは?」
本部から少し離れた兵士達が天幕を張った場所に到着した
「中に入るとわかりますよ」
何かしら?
「失礼します」
天幕に入ると灯りもなく薄暗い
「ナ、ナディアちゃん…」
どっ、どなた⁈
その場から動けずにいると
「ぼ、僕だよ〜」
「リシャールさん?」
天幕の奥の方から声がする
「どうかされたのですか⁈」
ラッサ大尉が灯りを灯してくれて天幕内、リシャールさんの様子がハッキリする。
ベッドに横たわりグッタリしたリシャールさんは
「よく聞いてくれたよ〜、ディランってば酷いんだよ〜」
突然始まった泣き言いわく、殿下の命令でラッサ隊の人達とこの村に来た。
ラッサ隊の中でも魔力の比較的強い人達とテオドール村の何倍もの塀を、3日3晩仮眠を取りながら造らされ死にそうだった。
等々
ひとしきり喋ったリシャールさんは果実酒を飲み干すと
「大体ラッサ君だって魔力結構あるのに何で一緒に塀造ってくれないんだよ」
突然後ろにいたラッサ大尉に怒りの矛先を向けたリシャールさんに
「何仰っているのです。私は堀係でこっちも頑張っていたのですよ。大体こっちにはリシャールさんの様な魔法使いすらいないのですから大変さはこっちの方が勝ってますよ」
「いや、堀って穴掘るだけでしょ?」
「馬鹿言わないで下さい。岩の大地でなければ掘った後補強しなけれ、ばどんどん崩れていくのです」
2人共疲労困憊のせいか自分達の方が大変だと譲らない。
「ラッサ大尉の疲れっぷりはこれかぁ」
横に来たアイラさんがボソっと呟いた
「みたいですね。あの本部で白目…休憩を取っていた人達も」
2人はまだ言い合いをしていて割と体力余っているのではないかと疑ってしまう。
しばらくすると天幕の外から
「リシャール殿。お時間です。行きますよ」
「嫌だ!もうやりたくない!死にそう!」
「全員死にそうだから大丈夫です!」
そう言って目を真っ赤に充血させた2人組がやってきて、リシャールさんは連行されて行った。