57話
その日一日どうやって過ごしたのかあまりよく覚えていない。
目が覚めるとそこはいつもの寝台馬車だった。
一体何をどうしたら良いのかわからないけれど、一晩眠り決心できた。
多分私はもうシャナルには帰る事はできないと思う。色々と知ってしまったし、ガッチリ巻き込まれている。
元々帰りたくは無かったけれど、帰りたくないのと帰れないのは大違いだ。
けれど帰れないならここでどうにかするしかない。
殿下はここを王都にすると言っている
ならば私はここに大陸1番の温泉施設を造り、住民と観光客を増やそう。
ドレナバルの新しい王都を大陸で住みたい場所No.1にしてみせるわ。
それを成し得たら、その時こそ温泉巡りをしよう。
新たな決意と共にベッドから出たところでノックとともにエアリーが顔をだした。
「ナディア様、おはようございます」
「おはよう。エアリー」
顔を洗い支度を済ますと昨日の建物に案内される。
今日も何かしら話があるのかもしれない。
昨日と同じ部屋に通されテーブルにつくとスープやパン、フルーツが並べられた。
朝なのに疲れ切ったラッサ大尉が少し遅れてやってきて
「おはようございます。遅れてしまい申し訳ない。今日はこの後村の中を案内しますね」
…どこか具合でも悪いのではないかしら?
「案内は今日じゃなくて大丈夫ですよ。それより少し休んだ方がよろしいのでは?」
「あ〜、いやいやお気遣いなく。みなさんの案内している方が休養になるのです」
案内が休養って何かしら?
案内などしないで休めば良いのにと思っていたけれど違うの?
食事を終え5人で本部(仮)を出て少しずつ片づき始めた村を歩く。
あんなに大きな城門を造れるのに村の中はさほど片づいていない
「とりあえず塀と堀を先に造ってしまおうと、片付けなどは元村民にお願いしているのであまり進んでいないのですよ」
先に外堀からと言う事ね。
とりあえず道が出来ていて両脇に瓦礫が積んである。
しばらく進むと真新しい木で出来た建物と寝台馬車があった。
寝台馬車の近くにこんな建物あったかしら?
「馬車は先程移動しました。この建物はナディア様の当分のお住まいになります」
「まぁ!可愛いらしい」
「あくまでも仮ですがしばらくはこちらで過ごす事になりますので、お好きな様にカスタマイズなさって下さい」
中に入ると広い吹き抜けがあり左手に階段、右手には暖炉があってエランさんとヒューズ君がそれぞれ作業していた。
1階にも2階にも他に部屋がありそう
「あ、ナディア様!お帰りなさい」
「ヒューズ君!ただいま」
今日から住むのだからただいまでいいのよね?
「中はまだまだなのでエランとヒューズに言って下さい。細かいところは侍女殿とコニーにお願いしよう」
「はい」
「はぁい」
ラッサ大尉はテキパキと指示を出す
「ナディア様はもう少し案内する所があります。アイラはついてきて」
建物の裏側に行くとバルーシュ型の馬車があり、馬が繋いであった。
寝台馬車以外の馬車に乗るの本当に久しぶりだわ。
一体いつ以来かしら?
ラッサ大尉の手を借り乗り込むと隣にラッサ大尉、御者台にアイラさんが乗り手綱をひく。
しばらく進むと畑が見えてきて、村人らしき人が作業をしていた。
秋の風は心地よく優しく頬をなでる。
こんなに平和そうなのにクーデターの真っ最中よね…
畑を抜けると雑木林がありその中を更に進む。
一体どこに向かっているのかしら?
「ラッサ大尉、ここも塀の中なのですか?」
「ええ。ここに来た初日からラッサ隊員とリシャール殿とで塀を造っています。
ただテオドール村の様に魔法使いにすぐ穴を開けられる様では困りますので、現在塀を二重にし堀も造って強化対策を施している最中です」
「随分広大ですよね…」
どこに向かっているのかわからないけれど、かなり走っている。
「一応王都ですからね」
苦笑いをしながらラッサ大尉が言う。
それもそうね。徒歩圏内でどこにでも行けたら王都とは言えない
「なぁラッサ大尉、あそこ何か変じゃないか?」
アイラさんが言い緊張感が走る
「何かあそこだけ景色が歪んで見えるんだけど」
「あぁ、到着しましたか。ナディア様をお連れしようと思っていた場所です」
景色が歪んで見える所って何かしら?
首を伸ばし覗きみるも御者台が高くて前が見れない。
そうこうしている内に馬車は止まった。
再びラッサ大尉の手を借り馬車から降りると、小さな小屋と村人らしきお婆さんと女性が2人立っていた。
遠くで水音、川のせせらぎらしきものも聞こえてくる
「ナディア様温泉お好きでしょう?」
「ええ、もちろん!」
でも温泉らしき所はない。
あるのは小屋と屋根だけの場所
「お待ちしておりました。私、マリアンナと申します。ナディア様こちらへどうぞ」
急に女性に声をかけられ困惑していると手を引かれ小屋の中へ
「あ、あの、」
「なんも心配する事ないさぁ。はやぐ入っでべべ脱いで着替えでぐるどええ」
お婆さん途中から何言っているのかわからなかったけれど、心配はいらないと言っていたので入ってみる。
軍服を手伝ってもらいながら脱ぎ薄い布のガウンらしきものを羽織り紐で結んだら小屋から出る様に言われる。
「えぇ?ガウンなのに?」
「大丈夫、大丈夫」
マリアンナさんにそう言われ外に出された。
温泉はどこ?
もうさっさと入ってしまおうとするも身体の洗い場がない。
そして屋根だけある砂場に連れて行かれ
「ささ、横になって」
「…砂の上に?」
砂塗れになってしまうと躊躇していると、ほぼ押し倒される勢いで砂の上に仰向けになった。
「あ、あの!」
起き上がりちょっと待って、説明をと言う間もなく身体の上に砂をかけられる。
生き埋め⁈
殺されるの⁈
叫び声を上げようとしたら
「これは砂風呂といっで温泉の一種さぁ」
温泉⁈
湯も無いのに⁈
驚いているうちにザクザク砂をかけてくる。
あっと言う間に顔だけ出した生き埋め状態になった