54話
困った。
俺は普通の食欲しか持ち合わせていない
「あ〜っと、悪い。ちょっとダイエット中なんだ」
「えぇ⁈何でだよ」
「その…膝がな、太りすぎて」
「ブッハハハハ!バートン年いってそうだもんな!」
「そう。そうなんだよ!ハハハ」
白髪混じりの鬘で助かった…
それから運ばれた食事をしつつ世間話をしていたらハリーが
「なぁこの後一杯ひっかけに行かないか?」
「明日も早いだろ」
横にいたオズワルドが咎めたが
「一杯だけだって!久しぶりの王都なんだからさ。バートンだって行きたいよな?」
「お、俺?俺は…」
これは絶好のチャンスではないか?
「あぁ。久しぶりだからな。王都の飲み屋」
「ほら〜!よし早速行こう」
思いがけず街の様子を見れる事になり先程の店にどうやって誘導しようかと思っていたら
「俺いい店知ってるぞ」
乗り気では無かったオズワルドが言った
「お前この辺りの出身だもんな!よしその店に行こう」
偶然さっきの店だったらいいなと思っていたら連れて行かれたのは全然違う店だった。
物語の様にはいかない
「らっしゃ…おーオズワルドじゃねぇか!久しぶりだな」
「おぉ!久しぶり。潰れてたらどうしようかと思ってた」
「相変わらず毒しか吐かねぇな!そっちはお連れさんか?」
「ちぃ〜っす!ココいい店っすね」
「だろう?オズワルドにも言ってくれよ」
和やかに店主と話すハリーを見て俺もチンピラ風などにしてないで、こんな風に話せば良かったと思ってしまった。
出来る出来ないは別にして。
店主オススメの干した魚の燻製とキノコと豆を煮込んだ何か。
薄くスライスしたパンに乗せて食べるんだと言われたが、色は真っ赤で匂いも経験した事のない香り…
庶民の食べ物か?
俺だけいらないとも言えず腹を決めて食べてみる
!!!!
「美味いな…コレ」
「久しぶりに南方からの香辛料が手に入って、張り切って作ったんだよ」
店主の言葉に少し疑問を持った
「香辛料が久しぶり?」
「あぁ。ここんとこ中々手に入らなくて…な〜んか色々あったのかねぇ。俺らみたいに店やっててコネがあってもこれだけ手に入らないってあんまり無いんだけどな」
どうゆう事だ?物流が滞ってる?
「え?物流滞ってるの?」
いいぞ、ハリーもっと聞いてくれ
「あぁ。水害もあったせいなのか小麦もライ麦も塩も中々手に入らんし」
小麦は確かに水害で畑が一部ダメになってしまったが、王宮に何かあった時の為保管してある筈なのに?塩も然りだ
「この間の水害でどっかの街道がやられたんじゃないかって噂は聞くけど、どうなんだよ?お前ら何か知らないか?」
話を振られたハリーは少し考え
「確かに復旧作業しに行ってたけど街道は大丈夫だったぞ。別の所で起こった水害だとわかんねーけど」
「まぁ水害があったばかりだからな。もう少ししたら落ち着けばいいんだが」
その後店主は厨房に戻ってしまい我々だけで飲んでいると
「なぁ、あんた達この国の兵士なのか?」
隣のテーブルの男が話しかけてきた
「あぁ」
何だ?ハリーとオズワルドから緊張感が漂ってきた
「何か面白い情報ないか?報酬ははずむぜ」
なるほど。情報屋か?
好都合だ
「いや、特にはないな」
オズワルドがバッサリ切ってしまった
「そんなケチ臭い事言うなよ。王宮で何かあったんじゃないか?」
「ん〜俺ら下っ端だからあんまり情報入ってこないんだよ。それよりそっちの方が情報持ってんじゃないの?何か教えてよ。一杯奢るから」
「お、わかってるね〜。おやっさんエールもう一杯と豆煮たヤツ」
「うわっ!食い物まで頼んだ!ちゃんとした情報なんだろうな?」
「とっておきがあるぜ」
ハリー…コイツ上手い。
今まで自分の部隊の一員として顔も名前も知っていたけれど、こんな一面もあるのか。
店員がオーダーされた物を持ってきた後情報屋は顔を寄せた
「いなくなっちまったらしいぜ。陛下と王妃」
「え?マジで?」
ハリーはさも初めて知った風に答えた
「あぁ。最近の話らしいんだが、どうも元老院は絡んでないらしいんだ」
この国で王家と元老院の仲を知らない者はほとんどいない。
その陛下がいなくなった事と元老院が絡んでないと言う噂…
俺ですら陛下がいきなりいなくなったとしか聞いていないのに?
元老院がわざわざ流したとしか考えられない。
「えー、そんな事あるのかよ?絡んでるって考えるのが普通じゃねぇの?」
「いや、元老院も探しまくってる。これは確かな筋から聞いたんだ」
「え?じゃあ陛下は第三者にどうにかされたって事?まさか自分達でとは考えらんないけどなぁ」
「どうも皇太子が絡んでるらしい」
⁈⁈
俺のせい?
「ディラン皇太子が?」
「あぁ。噂じゃ頭も身体も弱いらしいが表に全然出てこないだろ?」
「あぁ…俺も見た事ないな…」
「だろ?城のヤツらも知らないなんて、頭と身体が弱いって言うのもあながち間違ってないんじゃないかと俺は踏んでるんだ」
「う〜ん、そんな話も聞かないんだけどな」
「あれ〜何か急に酔いが回ってきたかも…クラクラしてきた」
情報屋が急にそう言いだした。マズイ、ダダ漏れしてしまったか?
「そりゃ良くない。ここの支払いは全部やっておくから、早く帰りな」
情報屋はヨロヨロしながら店を後にした。
「バートンは結構魔力あるんだな」
「?どうしてだ?」
「さっき情報屋がクラクラする前、オズワルドが魔力を解放したんだよ」
⁈
「俺達がこれで話はおしまいって時の合図」
「ハリーとオズワルドはただの護衛では無い…?」
「セラさんの護衛がただの兵士な訳ないだろ⁈諜報員だ」
最後の辺りはかなり声を潜めた。
「セラさんは殿下の片腕だぞ!バートンお前はどうなんだ?」
「俺は…」
言えない…
「個室まで与えられている事を考えると…」
オズワルドが言う。
勘づいたか…
「元老院側の諜報員を引き込んだか?」
「違う」
大丈夫か?
セラの諜報員…
「じゃあ何なんだ?」
「ここではちょっと…」
もう何から言えばいいのか、言っていいのかもわからない。
とりあえず一旦戻ろうとなった。