48話
チクチクチクチク
ひたすら帽子に袋を縫い付ける。
エアリーとグレタが縫ってくれた防護の図柄を邪魔しないように。
刺繍しかした事ないのであまり上手くはできないけれど、所々小花も縫い付けて誤魔化してみる。
うん。可愛い。
中々の力作ができた。
こんな揺れる夕暮れの暗い馬車で私偉いわ!
窓の外を覗くともう日は沈みかけ夜になる一歩手間だ。
一応葬送の意味を含めて夕方前に出発したのだろうけれど、夜通し走らないわよね?
森の中っぽいから明るい方が安全だと思うのだけれど。
馬車はそれからしばらく進んだ後ようやく止まった
トントントン
「ナディア様起きていられますか?」
「ええ。エアリー起きててよ」
乗り込んだエアリーは私の顔をみるなり
「ナディア様、ヨダレが…」
そう言ってハンカチを差し出してきた。
仕方ないじゃない。灯りもつけられない馬車の中なんて寝るしかないのよ。
「コホン…本日はここで夜を明かすそうです。もう少ししましたら食事になりますのでまた呼びにきますね」
「エアリー、ここにいる人は皆んな私の事知っているの?」
「はい。天幕を出る時に殿下から説明がありました」
「そう。良かったわ。ずっと死んだフリはキツいもの」
「そうでございますね」
ふふふとエアリーが微笑んだ
「でしたら今外に出ようかしら?外の空気も吸いたいし」
そう言って2人で馬車から降りると
「あっ!ナディア様!」
ヒューズ君が駆け寄ってくる。
「良かった。ホント元気そうだ!」
開口一番そう言ってくれる
「騙しててごめんなさいね。言えなかったから」
「事情は殿下から聞いてたけど、顔見るまで疑ってたんだ」
「ふふふ、そうよね。ヒューズ君も顔色戻ったんじゃない?」
「そう。村を出たらあっという間に」
やはり原因は村の中だけだったのね。
その後ヒューズ君は夕飯作らなきゃとエランさんの元に行ってしまった。
ふと見回すと…1人足りない。
「エアリー、グレタの姿が見えないけど…」
「え?ナディア様が殿下に進言されたのではないのですか?」
「私が進言?」
「ええ。殿下の変装の手伝いをする様に」
「手伝いと言うか聞いてみてはとは言ったけれど…え⁈まさか殿下と一緒なの⁈」
「はい。グレタは嫌がってましたが…」
「そんな⁈危ないではないの!」
「でも最終的にナディア様がそう仰ったのならと嬉しそうに」
「そんな!」
どうしましょう。
私の軽はずみな意見がグレタを危険に晒すなんて!
「ナ、ナディア様。大丈夫ですよ。殿下もいらっしゃるし」
「でも!でも…」
グレタに万一があったら…私は恐ろしくて震えていると
「ナディア大丈夫だ。グレタには私の武術を叩き込んであるから。全部ではないけれど自分の身は守れる」
アイラさんが言うとコニーさんも
「そうよナディアちゃん。グレタは最初嫌がっていたけれど、殿下の変装は試したい事があると言ってナディア様のお墨付きもあるしと張り切っていたから」
え⁈そうなの?
出そうだった涙が引っ込んだ。
「あんなおかしな侍女よく見つけたよな。最後喜んで変装道具買いに行ってたよ」
別に私が見つけた訳ではない
「ドレナバルに来てから見つけたのでしょう?」
アイラさんとコニーさんの質問は続く
「いえ。一番最初から。シャナルにエアリーと共に迎えに来てくれたのです」
「え?そうなんだ。エアリーとグレタは昔からの知り合い?」
「昔からではないのですが、侍女養成学校で知り合いました」
「まぁドレナバルにはその様な学校があるのですね」
「はい。私は嫁入りの話があったのですが、父のご正妻様が持って来た話で…」
「…あまりよろしくないお相手とか?」
「はい。ずっと母と共に伯爵家でお世話になっていたのですが、ご正妻様はお嫌だったようで」
「まぁ。別宅や離れでも用意すれば良ろしいのに。それで養成学校に?」
「はい。逃げる様に。でもそこでグレタに出会いました」
「それで今までずっと一緒に?」
「いえ、在学中はそんなに仲良くはなかったのですが、私とグレタだけ就職先が見つからずにいて」
「あんなに優秀なのに?」
「いえ、普通だったとは思いますが、訳アリだと普通の貴族のお宅は嫌がられます。
それで王宮の侍女ならと思ったのですが、選考で落ちてしまい…
ただその時女官長から私とグレタが呼ばれナディア様の侍女になってみないかとお話がありまして…」
「「女官長が?」」
アイラさんとコニーさんが声を上げた
「はい。グレタと2人別室に呼ばれて」
「なるほどねぇ」
「アイラさん、何がなるほどねぇですか?」
「いつだったか女官長フラリと兵士の宿舎にやってきて、優秀で貴族や派閥に関わらない侍女いないかって聞きにきたんだよ」
「そうなのよ。驚いたわぁ。女官長にはお小言しか頂いた事なかったから。私もアイラも今度は何?って思いながら話聞いたのよ」
「まぁアタシもコニーも貴族や派閥には極力関わらずに来たから、そんな知り合いいないって言ってお引取り願ったんだけど」
何か凄い。
オリビアさん2人の事買っているから聞きにきたのよね。
「それで2人でナディアの侍女になったんだ」
「はい。最初ナディア様全く心を開いてくだされなくて…」
エアリー⁈今その話になるの?
「えぇそうなの?もっと聞かせて」
やめて〜〜あの時は落ち込んでいたのよ!
「あ、あっちでヒューズ君が呼んでる!気がするわ」
「お、メシできたかな?」
4人で焚き火の近くに行くと
「すっげ。ナイスタイミング!今呼びに行こうと思ってたんだ」
「ほほほほ、ヒューズ君私達以心伝心ね」
「?」
ヒューズ君ポカンとしているけれど良いのです。
知らなくて
食事は野営食だけれど、焚き火を囲んで皆んなで頂くと美味しいし楽しい気持ちになる。
特に塩漬けされた肉を戻し焚き火で炙って焼いたものなんて初めて頂いたけれど凄く美味しい。
そう伝えると、
「いやぁラッサ隊の足元にも及びませんが」
エランさんは恥ずかしそうに答えた。
「いや、ラッサ隊は元が料理人なんだから!この肉ホント美味い」
アイラさんはそう言って2本目の肉に手を出した。