47話
「…それでは準備しましょうか」
エアリーが言い皆んなそれぞれ動き出した。
心なしかグレタが一番ガッカリしている様に見える。
アイラさんとグレタは棚の解体、コニーさんはテーブルや椅子の撤収、エアリーは衣類等をカバンに詰め込んでいる。
私は何をしようかしら?
ウロウロしているとエアリーに
「ナディア様は馬車の中にいて下さいね。いきなり人が来るかもしれないので」
「…はい」
やんわりと何もしないでくださいねと言う圧を感じる。
仕方ないので馬車に乗り込むも、何だか手持ち無沙汰だわ。
以前はあんなに馬車でぼんやりしていたのに。
そうだ!
久しぶりに体力増強に勤しもうと馬車の階段を昇り降りをする。
重い軍靴での昇り降りは思ったより足腰にきて僅か10回で諦めた。
しばらくするとヒューズ君が大荷物を持ってやってきた。
私は馬車から降りないで様子を伺っていると
「これを馬車にですか?」
「そう。殿下が。それよりナディア様大丈夫?」
「…」
エアリーとのやり取りを聞いて、ヒューズ君まで騙している事に罪悪感を感じる。
けれど私の事を知る人は少ない方が良いでしょうし、下手に知ってしまうと後々危険が及ぶかもしれないので馬車でジッとしているとやがてヒューズ君は天幕を出て行った。
「ヒューズ君は何て?」
馬車を降りて皆んなに聞くと
「ナディア様の事心配していました。それよりコレ…」
ヒューズ君が持ってきたのは黒と灰色の布…
「これは?」
「これで馬車を飾りつけろと言う事ですかね?ちょっとやってみましょう」
エアリーは言うと布を広げて皆んなで飾りつけを始めた
「…これって…」
豪華な装飾がなされていた寝台馬車は黒や灰色の布を纏い完璧な棺桶馬車に変身した。
殿下は私の生死について何も語らないと言っていたけれど、コレ私完全に死んでないかしら?
そう言うと
「いえ、ナディア様よく見て下さい。所々紫等も入っていますので病魔を退散させる意味も込められています」
これっぽっちの紫に気づく人がどれだけいるのか…
まぁ私が今更何か言っても仕方ないので黙っているけれど。
「いつ頃出発するんだろう?簡易ベッドは片付けない方がいいよな?」
準備しておけと言うならいつ出発かくらい言ってくれれば良いのに。
この先どうするのかわからないので地面に敷物を広げて寛いでいるとガラガラと馬車の音がして私達の天幕近くで止まった。
私は慌てて馬車に乗り込み窓から様子を伺っていると殿下が数人引き連れ入ってきた。
「ナディアは中か?」
「はい」
殿下は何も言わずいきなり馬車に乗り込んできた
「でん…むぐっ」
いきなり口を押さえられ目を白黒させている間に殿下は扉を閉め自分の口元に人差し指を立てる。
黙っていろと言う事ね
「急だが今から出発だ。お前はここから出るなよ。それからコレ」
今から⁈
急過ぎやしませんか?
しかもズボっと頭に綿帽子が被らせた。
え…コレを被ると言う事は…
「念の為だ。同行するのはヒューズ、それにエランだ」
私の帽子の顎紐を結びながら言う。
エランさんて以前ヒューズ君と一緒にいた方よね。
「いいな!途中絶対馬車から降りるな。顔も出すな。大人しくしとけよ」
失礼な。
私だって作戦の内容を知っているのだから顔なんて出しません。
「それからこれ。大事に持っとけ。預けるから失くすなよ」
自分の人差し指から指輪を引き抜き私に渡す。
「あの、殿下達はいつ出発に?」
「明朝に。予定では王宮まで3日、魔法使いもいないからな。そこで一泊して王宮を出るつもりでいる」
「ではお戻りは1週間後くらいでしょうか?」
「あぁ。帰りはマデリーン嬢は置いてくるつもりだからもう少し早いかな?」
「マデリーン様は殿下が同行者として行く事はご存知なのでしょう?」
そう簡単に殿下から離れるとは思えない
「まさか。言う訳ないだろう」
!
「バレますわよ!!」
殿下の事大好きなのだから
「…ならば変装するか」
「当たり前です!マデリーン様を侮り過ぎですよ。生温い変装では見破られますわ。グレタに聞いてみたらいかがでしょう」
「なるほど…参考になりそうだな」
よし!やって見ようと言ってさっさと馬車から降りてしまった。
コレ大きいのですけど。
預かった指輪はどの指に嵌めてもゆるゆるだわ
仕方ないのでシャナルで貰った国宝もどきが入っている箱からネックレスを取り出し指輪を通す。
ただこれを首にかけるには目立つし重い。
晩餐会ではないのだから走る事もあるかもしれない。
カバンを漁り小さな袋を見つけたのでそれに入れ、口をしっかり閉めどこに隠すか考える。
カバンに戻そうかとも思ったけれど失くすなよと言われたわね。
再び馬車から離れる事があるかもしれない。
ポケットでは心ともないし…
開っぱなしの引き出しに裁縫箱を見つけた。
どこかに縫い付けるのは良いかもしれない
暫く天幕の中はワイワイ騒がしかったけれど、突然馬車が動き出した。
え?もう?
走り出した馬車は今までで一番ゆっくり進んでいる。
窓際に寄りカーテンの隙間から覗くと道沿いに兵士や村人が並んでいて皆下を向き頭を垂れている。
それぞれ手に黒やグレーの布を持ち哀悼の意を表している。
…ねぇ私やっぱり死んだ事になっていない?
暫く走り村の東側の塀まで来ると殿下と兵士達が立っていた。
殿下いつの間に先周りを…
殿下は馬車が近づくと両手を地面につけ塀に馬車が通れる幅を作る。
塀を抜ける瞬間殿下と目が合った気がした。
これでもう暫く会う事はできない。
遠ざかるテオドール村を眺めていると塀がみるみる元の高さに戻っていくのを見て、私は裁縫道具を手に取り帽子に縫い付ける事にした。
スミマセンm(_ _)m
同行者一部変更しました