42話
「まぁ!マデリーン様とご一緒される程の魔法使い様ってどなたかしら〜?」
苦しくなってきた。
誰か会話に加わってくださらない⁈
「ほほほほ、お抱え魔法使いの中でも最上級の魔法使い、エルザラン師を始めトマス様、コラール様でしてよ。
まぁナディア様がお会いになるのは少々難しい、高位の方々ですけどその内ご紹介しますわ」
『魔法使いはどこにいる?』
セラさんがまた掲げる。
もう嫌なのですけど!
「まあ〜〜楽しみですわ〜。その時はよろしくお願いしますね〜。ちなみに今はどちらに?」
「まぁ。ナディア様案外せっかちですのね。
でも、この村に入って私共が村へ向かっている間にブラッド大尉を始め、皆さん違う所に向かった様で今はここにいる私の侍女と護衛しかいないのですよ」
え⁈一個中隊全員行方不明⁈
恐る恐る殿下達を見るとこれ以上ない凶悪な顔で私達をみている。
こ、怖い!
そして周りの人達が片膝ついたりしていると言う事は…
再び殿下を見ると更に睨んでいる。
ウッカリダダ漏らした訳ではなく、何か怒っていらして抑え切れずに溢れてしまった魔力?
マデリーン様を見るとシャッキリ立っていらっしゃる。魔力増強は本当でしたのね。
「まぁそれは残念ですわ。では私共はそろそろおいとましますね」
早くここから立ち去りたい。
絶対ここにいてはいけないヤツですわ。
「はい⁈まだお話ししなければならない事が沢山ありますでしょう?」
何も気づいていないマデリーン様が羨ましい
「オホホ。そうなのですけれど、久しぶりにマデリーン様とお話したら嬉しくて何だかのぼせてきてしまって…発熱かしら?」
もう何でもいい。
早く立ち去らなければ
「ナ、ナディア様!くっ!だ、大丈夫ですか⁈殿下!ナディア様が発熱を!」
ヒィィしまった。言い訳を間違えましたわ!
そしてエアリーの魔力酔いが酷そう
「あ、あぁ。ナディア、大丈夫か?セラ、後は頼んだ。ナディアこっちへ」
言い終わると同時に私を抱き上げ(お姫様抱っこではない)歩き出した。
後ろでマデリーン様が何か叫んでいらしたけれど、無視して教会を出た所で
「ナディアでかした。マデリーン嬢とは話しが脱線して全然話し合いにならなかったんだ」
…でしょうね。
マデリーン様は口が達者な上ご自分の話をするのが大好きな方ですから、セラさんでは全然歯が立たなそうですもの。
殿下はほとんど人と接しないで生きてきた方ですから、会話を発展させるとか上手い事聞き出すなんてできそうにない
「お役に立てて良かったです」
かなり疲れましたけれど。
でもまだ時間に余裕があるし、これから温泉に行っても良いかもしれない。
元々温泉に行く予定だったから荷物を取りに行く必要もないし。
「あの、ディラン殿下。そろそろ降ろしてください。大丈夫ですから」
「そんな訳にはいかないだろう。発熱までさせてすまなかった」
殿下信じていらしたの⁈
「アレは嘘ですのよ!」
「…何故嘘など…」
「だってディラン殿下何かお怒りでしたでしょう?恐ろしかったので早くあの場から立ち去りたいと思ったのです」
「いや、別にナディアに怒っていた訳ではないのだが」
「それはわかっていましたが、それでも魔力溢れさせる程の怒りは恐ろしいのです」
「そ、そうか。悪かった。次からは気をつけよう」
気をつけて魔力を抑えられるのなら、殿下ならきっと抑えていた筈。
それを超えていたから恐ろしかったのに、それを言っても今の殿下にはきっと届かなそう。
「別に気をつけなくてもお怒りになる事が無くなれば良いのですが…」
これは本音。
早く事が落ち着けば殿下が怒る事も減るでしょう。
殿下の為にも、そして周りにいる人達の為にも…
「私はこれから温泉に向かいますのでここで大丈夫ですわ」
「温泉に行くのか?」
「ナディアちゃん。それはダメよ。発熱しているのに温泉なんて」
え⁈コニーさん先程の話を聞いていなかったの?
「いえ、先程話した様に、アレは嘘だったのです」
「ええ⁈ナディア様は嘘つきだったのでございますか?」
今度はグレタ⁈
「ちっ、違うわ。皆さん今さっきの会話ですわ!聞いていらしたでしょう⁈」
「あの、魔力酔いでフラフラしていたので殿下について行くので精一杯で…」
エアリーが申し訳無さそうに言った。
もう一度説明するのは何だか殿下に申し訳無い気がしてできない。殿下を責めたい訳ではないのだ。
残るは発熱と嘘つき…
私は涙目になりながら前者の発熱を選んだ。
すぐさま医師団の人がやってきてアレやコレや診察して
「お疲れが出たのでしょう。2〜3日ゆっくり休んでください」
との事。
大丈夫かしら?ここの医師団…
当然温泉にはその後2日程入る事は許されず、食事も病人食が続いた
「ナディア様本当にベッドでお召し上がりにならなくて大丈夫ですか?」
病人でもないのにベッドで食事なんて冗談じゃないわ。
「大丈夫よ。もう熱もないし」
始めから無かったけれど…
消化に良さそうなスープやミルク粥、果物などが用意される。
美味しそう。
美味しそうだけれどもっとコッテリしている物が食べたい。
焼きたてカリカリベーコンとか中に刻んだ野菜が入っているオムレツ、ジャムをタップリと乗せたパンケーキとか。
食事を終えお茶を頂く。
これもいつものお茶と味も香りも違い不味くはないけれど、何か物足りない。
お茶と共にいつもならクッキー、マドレーヌやスコーンなど流石に生菓子はないけれど、それなりに美味しいお菓子が出ていたのに、今や小さくカットされたドライフルーツが入った蒸しパンだったりする。
多分、いえきっと私の身体を思っての食事なのはよくわかる。
ただ、あの時嘘つきを選んでいたら、もしくは殿下に罪悪感を植えつけながらもう一度同じ説明をしていたら、もっと美味しい食事が頂けたのでは…そんな事を考えていたら外が何だか騒がしい。
「何かあったのかしら?」
「本当だな。ちょっと見てくる」
本日側にいてくる護衛はアイラさん。
すぐに戻ってきた。
「何か変な感じ。みんな忙しそうは忙しそうなんだけど」
何かしら?