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流されて帝国  作者: ギョラニスト
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3話

 翌日には山道の崖崩れも直ったとの事で旅が再開された。


 落ち着いて考えてみると何故私はこんなに美化され歓迎されているのか疑問に思う。


 帝国はこの大陸の3本の指に入る大きな国で鎖国状態の小国の王女でもない婚約解消された貴族の娘を欲しがる理由がわからない。


 相手のディラン殿下は確か3回婚約破棄4回婚約解消とメモに書いてあった様な?

 父上がメモを握り潰してしまったため手元にはないけれど、婚約破棄、解消をしたのではなくされた側だったら?


 …とんでもない醜男?凄く太っているとか?性格が捻じ曲がった我儘で嫌な人物とか?マーシャル殿下の様に頭の中に花畑がある人物とか?


 どれも嫌だけれど私はもう帰ってマーシャル殿下とアイリスを見続ける気はない。


 侍女に探りを入れてそれとなく聞いてみようか…やっぱりやめよう。

 聞いた所で私にはどうにもできない。


 せめて生理的に嫌な人物でない事を祈ろう。


 修道院に入っていても祈りの毎日だったはず。そう思えば大差ないのかもしれない。


 その先ぼんやりする代わりに祈ってみた。


 特に信仰心厚い訳ではないので、この大陸全土に信仰されているオーソドックスな神様に。

 シャナル王国にある独特の信仰はあるけれど国を変える私にはきっとこちらの方が良い。




 旅立ちから23日を過ぎた所でドレナバル帝国の国境を越えた。


 ここから数日で王都へ入り王宮には更に1日かかる。

どれだけ大きな国なのか。


 元々3週間の旅程だったが、崖崩れで伸びてしまった。


 けれどもこの20日は私にとって色々とゆっくり考える事が出来てとても良かったと思う。


 とりあえずどんな相手でも受け入れてみよう。


 多分よそ者で小国出身の私は帝国に受け入れられるとも思わない。


 どうしても我慢ならないその時はシャナル王国には帰らずそのままどこかの修道院にでも行こう。


 幽閉してもらってと言う言い方もどうかと思うけれど、その様な形で離宮でのんびり暮らすのも良いかもしれない。


 それくらいの自由はあるのではないかしら?小麦4台分だけれども。



 そうして馬車は高い城壁に囲まれた王都にたどり着き城門を難なく通過し王都に入る。

 


 流石に帝国の王都。


 入った瞬間活気付いた街並みが目に入った。3階建の家が立ち並び各家の窓には色取り取りな花が飾られている。


 驚く事に馬車が通る道と歩く人々の道は分かれていて危なくないよう整備されている事。

 四角には兵士が立っていて街ゆく人が馬車と接触しない様配慮されている。


そして人が沢山いる。


人々は生き生きとしている様に見えるのは、私の小国コンプレックスか僻み根性なのか。兎に角明るく安全に目に映る。



 今日はこのまま王宮指定の宿に一泊して明朝王宮に行く事となっているが少し見学させていただけないかしら?


 スラム的な所はないのか。

どのくらいの間隔に兵士の詰所を置いているのか。

マーシャル殿下と話込んだ時には…


 嫌だ。


 私とした事が未練たらしい。もうあんな風に語り合う人もいないと言うのに。

バカみたいだ。



 すっかり心は萎えてしまったので王宮指定の宿を堪能する事にした。


 出された食事は文句なく美味しかったが、私の度肝を抜いたのは大浴場だった。



 旅の道中で宿泊させてもらった様々な貴族や領主の邸ではバスタブにお湯を張ってもらい入浴できたが、どうしてもそれが出来ない場所もあり、そんな時は街道添いにある宿等に泊まる事になった。


 宿は決して安宿ではないけれどせいぜいタライにお湯を張り身体を拭くくらいしか出来なかった。


 王宮指定の最高級な宿だとしてもこの大浴場は今まで生きてきた中で見た事はもちろん聞いた事もない。


 本来なら男女別に別れ色々な人達が入れるらしいが、王宮が手を回してくださり今は私と侍女しかいない。


 大きな石造りの浴槽は湯が溢れんばかりに入っているのに四隅にある動物の像の口から更に湯が出ている。


 マッサージができる台もあり、洗い場も広く天井には明かり取りの窓までついている。


薄布を羽織った私は


「凄いのですね。私こんなに大きな浴場初めて見ました」


普段はあまり話す事がない私が興奮している様子に


「お気に召していただけましたか?王宮にも王族専用の大浴場があるんですよ」


にこやかにエアリーが答えてくれる


「まぁ。王族専用の?でしたら専用ではない大浴場もあるのですか?」


「勿論ですとも。王宮で働く者全てが利用できる大浴場が3つあり、その他にも専用なのがいくつか」


 そんなに⁈王族専用は入れてもらえないかもしれないのでそちらにお邪魔させていただきたい。


「この国では温かい水が湧き出す所が幾つもあるのです。温泉と呼ばれているのですが、匂いや質もそれぞれ違い関節の痛みが減るとかお肌がプルプルになるとか色々効能があるのです。お時間が出来ましたら巡るのも楽しゅうございますよ。我が国では温泉巡りと申しまして、王族、貴族、市井の人問わず各地を巡っていらっしゃいます」


 丁寧に説明してくれたのはグレタ。

普段は大人しいがたまに熱く語る面白い子だ。


今は一生懸命私の頭を洗ってくれている


「温泉巡り…なんてステキなのでしょう」


大浴場で手足を伸ばして入るなんて考えた事もなかった。


 バスタブに侍女達がお湯を入れそれに入るのが入浴だったけれど、ここではお湯が湧き出るなんて。


 大きな湯船に浸かっていると、今までの嫌な思い出も洗い出されてくるような不思議な心地だ。



これは…考えを改めなければならないかも。

 修道院も幽閉も温泉巡りが出来ないではないの。


 入浴を済まして部屋へ戻ってから私は考えた。


 ドレナバル帝国に受け入れてもらえなくても仕方ないと、適当にやり過ごしてそれでダメだったらやむを得ないと思っていた。


 けれどそれでは温泉巡りなるものができない。



 私はシャナル王国で無くしてしまった人生の目標を見つけたのかもしれない。



 そのためにはドレナバル帝国に受け入れてもらわなければ。


 決意を新たにベッドへ入る。とりあえず明日王宮へ行く道すがら侍女に同乗してもらおう。


少しは仲良くまではいかなくてもお喋りしてみよう。




 翌日昼から陛下との謁見の為大浴場へ行き身を清める。


あぁ朝から大浴場。何て幸せなのだろう。


 侍女にマッサージをしてもらい身支度を整えてもらう。


「あの、、今日王宮へ到着してしまったらこの旅は終わってしまうでしょう?良かったら誰か一緒に同乗してお喋り相手になってくれないかしら?」


テキパキと動いていた侍女2人は顔を見合わせて


「もちろんでございます。私共この時をとても楽しみにしていたのです。」


 誰が同乗するか少しモメたが結局リーダー格のエアリーに決まった。


 道中今このドレナバルで流行っている菓子や観劇、髪型やファッション等の当たり障りない会話となった。ドレナバル永住を決めた途端根掘り葉掘り聞く事は憚られた。


多分私は小心者だ。




 王宮にたどり着く。


 ドレナバル帝国のアーバレック城。

中央がドーム状になっていて四隅を尖塔に囲まれている大きな、そして優美な城が目の前に聳え立つ。


 高台にある王宮は素晴らしい造りで一体何人の人々が働いているのか想像もつかない。


これが国力の差なのねとぼんやり思った。


 堀を超え衛兵がいる所を抜けると両脇に噴水のある庭園を通る。


「素晴らしい庭園ですね」


感嘆して言うと


「はい。来賓のお客様がいらっしゃると皆様そうおっしゃっていただけますが、中庭も裏側にある主庭も素晴らしいのですよ」


それはとても楽しみねと言ったけれど…前門も通って王宮も見えているのにまだ到着しない。


 一体この城の大きさはどうなっているのか…


そこから暫くして漸く馬車は停止した。



  ゴクリ

 1人静かに緊張する。


 馬車の扉が開き手が差し出される。

自分の手を乗せ踏み台に足を乗せ手の差し出し人を見るとロマンスグレーの執事っぽい人がいた。


 き、緊張して損をした。


 てっきり皇太子ディラン殿下が出迎えてくれたのかと思った。

私の緊張を返して欲しい


「ようこそお越し下さいました。私このドレナバル帝国宰相セルゲイ・ビィ・イーストンでございます。道中足止めもあったと聞いています。お疲れの所申し訳ないのですが、陛下がお待ちです。謁見の間までご同行願います」


「とても快適な旅でした。案内よろしくお願いします」


 そう言って周りを伺い見ると上等な服を着た人達がズラリと並び頭を下げている。


 この城で働く人の中でも女官や上級侍女達だろう。頭を下げているため表情は伺いしれない。


 歓迎…されています様に。


祈りながらセルゲイさんについてひたすら歩く。


 遠い…前室にすら辿り着かない。漸く通された前室で陛下や父上から預かってある書簡の確認をしひたすら待つ。


 ディラン殿下はどんな人なのかしら。


どうか生理的に受け付けない人でありません様に。

あと暴力を振るう人でありませんように。

それから女好きな人でありませんように。


後は…私は祈り続ける。

私のために。

私は温泉巡りを諦めたくはないのだ。




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