表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流されて帝国  作者: ギョラニスト
37/205

36話


私は無言でその場を立ち去った。


 歩ける気もしないから自分で車椅子に乗り自分で車輪を回しそのまま教会を出る。


信じられないわ。


 人が一生懸命淹れたお茶をスパイシーだの毒物だの気付け薬だの。


 怒りのあまり勢いで車輪を回し…

そしてここはどこ?


 陣に戻り馬車に入って鍵を閉めふて寝しようと思っていたのに。


辺りは真っ暗で何もない。

何も見えない。


車椅子だから坂道はなかったハズだけれど…


 車椅子を華麗に操り来た道を戻ってみたけれど教会はおろか村にすら辿り着けない。


段々不安になってきた。


 皆んな絶対1人になるなとか言っておいて探しにも来てくれないなんて…お腹も空いてきたし寒い。


 不安のあまり道沿いに車椅子進めてみると塀を見つけた。


 怒りのあまり教会を出てからどの道を進んだか覚えていないなけれど、どうやら南へ向かったらしい。


 確か塀を作っていた時村の北側、川まで広く土地を取り南端に村があった筈。


 と言う事はこの塀を左手に真っ直ぐに進めば陣に辿り着くわよね。

ここにいても仕方ないので塀沿いに進もう





パタン


車椅子が静かに退出した。


お茶のおかわりの用意をしに行ったのだと思い、すぐ戻って来ると誰も動かなかった。


「ナディア様遅いですね」


とラッサが口を開く


「私ちょっと見てきますね」


侍女のエアリーがそう言って退出した時


「あれは娘っ子だったのか?てっきり下っ端兵士かと思った」


村長がそう言った


「あの方はナディア様。ディランのご婚約者様ですよ。訳あって隊服着ているだけです」


セラがそう説明すると


「だとしたら怒って出て行ってしまったのでは?お貴族様が淹れてくれたお茶を…」



怒っていたのか?


「大変です。ナディア様が見当たりません」


 エアリーがノックもなく扉を開けそう叫んだ。


皆で探しに出たが、俺も含め車椅子だしそう遠くへは行ってないだろうと誰もが思っていた。


侍女2人を除いては

あの2人は大騒ぎしていた


「ダメだ。陣にも馬車にもいない!」


「天幕の中も全部探せ!」


「陣とは反対に向かったのかも!俺はこっちへ行くからお前は逆を探せ!」


 俄に騒がしくなった村の中走り回る人数が増えた頃村長が


「あの、殿下。村人にも声を掛けても良いですか?この辺の事は村人の方が詳しいから」


「あぁ、助かる」


そう言うと


「おい!殿下のご婚約者様をお探ししろ!子供達も駆り出せ」


おう!兵士とは違う掛け声がやけに頼もしく思えた。


 しかし、アレが普通のお茶だったとは…

確かに気付け薬は怒るかもしれない。


けれど何も出ていかなくてもとも思う。


 塀を作ったから魔物はいない筈だが、普通に獣はいる。

貴族令嬢ならば獣と戦う事は無理だろうし。


 日が暮れて大分寒くなってきて我々ならば当たり前に温かい風を自分に纏わせたりするが、ナディアにはそれができない。


 隊服のみで、もしかしたら風邪を引くかもしれない。

風邪を引いても癒しの魔力を身体中に巡らせると言う治療もできない。


シャナルには別の治療法があるのかもしれないが、ここには無い。


 この国で魔力を持たないと言う事はまず有り得ないから、魔力を持たない人の何が大変かがさっぱりわからない。


 自分達が息をするのと同じくらい自然に行っている魔法がナディアにはできない。


 それはきっと想像以上に死が近くにあるのかもしれない


そう思った時得体の知れない何かが足元から這い上がってくる気がした。


「ディラ〜ン。ナディアちゃんいなくなっちゃったんだって?」


リシャールが脳天気な声をかけてきた。


「あぁ」


 リシャールは俺の親みたいな存在だけれどもどちらかと言えば年の離れた兄の様な存在で、困っている時はうっすら助けてくれる。


 逆に言えば完全には絶対助けてはくれない。


ヒントややり方の一部は教えてくれるけれど、基本自分で考えろと言う事なのだろう。


「さっきからキャシーが厩舎で暴れてるんだって。キャシー、ナディアちゃんの事好きそうだから何かあったかもね」


ほら。今回もだ。

腹立たしい


「厩舎はどこだ?ちょっと行ってくる。ここは捜索本部の司令塔だから後は頼んだ」


「えええ⁈ディランの代わりとか嫌なんだけど!」


うるさい!

それくらいの意趣返しくらい何ともなかろう。


 キャシーは馬の中でも少し変わった馬で、物凄く乗り手の好き嫌いが激しい。


 良く走るし乗り手の意を汲むのも上手いが、気に入らなければ乗せないし走らない。


 厩舎の扉を開けると案の定キャシーは大暴れしていて厩務員4人がかりでもどうにもできない状態だった


「キャシー。ナディアがいなくなってしまった。居場所わかるか?」



 言い終わると同時に俺に突進してきて藁の山に突っ込んだ。


別に怪我などしないが、この間から一体何なのだ。


 藁の山から抜け出てキャシーに近寄るとブヒヒンと鼻を鳴らし早く乗れと言わんばかりに首を背に振る。


生意気な…


鞍を投げつける様に取り付け飛び乗り走り出すとラッサが部下を引き連れ走り回っている所に出会した。


「ラッサ!部下を連れついて来てくれ」


「ええ⁈殿下キャシーに乗ってるじゃないですか⁈」


「どっかから馬を掻っ払ってこい!」


ラッサ達がブーブー文句を言っていたが、無視して再び駆け出す。


 ラッサ達が追いつき易い様少しスピードを落とし走りたいのだが…


何だ?キャシーの様子が少しおかしい。


キャシーの走りたい方へ向かって行くと



塀が途切れている?

違う。誰かが穴を開けた?


 全身に鳥肌が立った。


誰が開けた?

何の為に?


そんな事はわかり切っている。そこへ馬に乗ったラッサと部下2人が追いついてきた。


「殿下!早いですよ!探すのにどれだけ…殿下?…これは…」


「俺はちゃんと囲った。この村ごと北の川まで」


「では、ここは…」


 俺はキャシーから降り塀が途切れている所の足跡を見る。人の足跡の他に獣か魔物の足跡


「誰か教会へ行ってセラにこの事を!あと、リシャールも呼んでこい!」


不味い。

非常に不味い。


敵に魔法使いがいる。

それも複数人…または強力な


 足跡は外から塀の中に向かっている。獣や魔物も…そしてこの車輪の跡はどちらに向かっている?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ