34話
「そんな訳で私もナディアちゃんの護衛になったのよ。よろしくね」
コニーさんが言った。
どうやら私達が昼寝をしている間川で怒りの運動をした後、迎えに来たアイラさんに事情を聞き私も護衛になりたいとセラさんを脅したそうだ。
やらせてくれなければ村ごと焼き払うとか何とか。
最終的には殿下が決める事だけど、とりあえず許可を得たそうだ。
セラさんて不憫なのね
「後は村長さんにナディアちゃんが村の温泉施設を利用できるように説得するだけね」
とコニーさんは言うけれど、本当に説得なのか怪しい。
でもこうして話していても怒りのコニーさんは全く想像できない。
相変わらず優しいお姉さんなのよ?
そんな感じで楽しくお茶を飲んでいると
バスバスッ
「失礼致します」
天幕の入り口は開け放たれているのに布をノックする意味あるのかしら?
見ると
「ヒューズ君!」
「ヘヘッ。ナディア様も無事だったんスね」
「ええ!ヒューズ君も怪我とかしていない?」
本当は駆け寄ってあげたいけれど、筋肉痛の足腰がそれを許さない。
自分で車椅子を動かし近寄る
「ナディア様は怪我を?」
「いえ、ちょ〜っとだけ捻ってしまったの」
「なら良かった。今伝令がきてナディア様達にちょっと来て欲しいって。殿下が」
そう言ってヒューズ君はチラリと後ろを見る
「伝令?」
私も釣られてヒューズ君の後ろをみると
「あ、あん時フレデリック取り調べした兵士じゃん」
アイラさんが私の頭の上から覗きこみそう言った。
あの3人ね。
ようく覚えててよ
「その方達が?」
「そう。今兵士見習いで伝令係やってるんだって。俺が兵士の中で1番下っ端だから、面倒見てやれってエランのおっさんにいわれて」
まぁ。ヒューズ君もやり辛いわよね。
10も20も年上の人の面倒見るって…
あの3人はもっと嫌でしょうけど、今ここから外に出る事もできないのだから仕方ないのかも?
「わかったわ。すぐに用事します」
用事と言っても特にドレスに着替えるとかでは無い。
着替えを持ち合わせていない今、私は寝る時以外隊服を着ているし。
ただ室内履きからブーツに履き替えて車椅子に乗るだけだ。
ちなみに帽子は被ってない。
塀の中は割と安全だし
「私達と言う事は5人全員かしら?」
「多分…そうだよな?」
ヒューズ君は後ろを振り返り3人に聞くと
「いや、4人と伺ってますが…」
戸惑う様に1人が口を開く
「コニーがカウントされてないのかもよ」
アイラさんがそう言うと
「私は行きますよ。…誰が何を言おうと」
ヒィィ
兵士見習いの3人から悲鳴が上がった
「ご、ごごご5人でした。ススス、スミマセン。間違えてしまいました」
「そう。なら私も行けるわね」
にっこり笑ってコニーさんが言った。
凄い!
言葉だけで周りを黙らせる技術。私もあの様になりたい!
ヒューズ君を先頭にご機嫌なコニーさん、車椅子の私、それを押すアイラさん、エアリーとグレタは2人並んで。
最後に兵士見習いの3人がゾロゾロと教会に向かう。
兵士にも村人にも避けられ何かしらと言う目で見られる。
シャナルにいた頃侍女を数名引き連れ練り歩いた事はあったけれど、兵士まで引き連れて練り歩いた事はない。
居た堪れない
コンコンコン
ヒューズ君がノックすると中から扉が開く
「やあ、早かったね。ヒューズありがとう。後ろ3人もご苦労様。さ、入って」
セラさんが出てきてヒューズ君とその他3人に言うと
「では失礼致します」
と4人は去って行ってしまった
「何か御用と伺ったのですが」
部屋に入るとラッサ大尉、そして中年の男性がいた
「今、ディランを呼んで参りますのでそこに座って待っていてください」
セラさんはそう言って部屋から出て行ってしまった。
大きな円卓…上座に中年男性、2つ席を空けてラッサ大尉。
反対側は5つ席が空いているけれど一体どう座るのが正解なのか。
それとも殿下とセラさん以外に人はくるのか。
車椅子は1席とカウントする?
コンコンコン
扉が開きセラさんと殿下が入ってきた
「あれ?まだ座ってなかったのですか」
私達が戸惑っていると上座の中年男性が
「そこのポニーテールとそこのアンタが俺の両隣だ」
コニーさんとグレタが指名された。おずおずと動き出したコニーさんとグレタに
「いや!コニーはこちらに。村長、もう1人はエアリー!彼女でも良いでしょうか?」
やけに顔色がよろしくないラッサ大尉がエアリーを指差し声をかけた
「ふん、まぁいいだろ」
結局上座のご年配者の座った左側にエアリー、アイラさん、ラッサ大尉、私、殿下、セラさん、コニーさん、グレタで座った。
「さて、村長これで良いでしょうか?」
セラさんが声をかけると
「まぁいいだろ」
やはり中年男性は村長でしたのね。
一体何故私達は呼ばれたのかしら?
「俺はもてなしを受けにきたのに、茶しか出さんとは何事だ。酒がいいな。酒だ」
「話し合いの場を設けたいとは言ったが、宴席を設けたいとは一言も言ってないが?」
殿下が言うと
「勝手に村に入り込んで、
馬鹿でかい壁を作っておいて何を言う」
険悪としか言い様のないこの場に何故私達を…
「アンタら何て名前だ?」
村長は両隣に座る2人に声をかけた
「…エアリーです」
「…グレタです」
「そうかそうか。俺はジュード。この村の村長をしてる。もうちょっとこちらに寄っていいんだぞ」
段々と自分の目が据わってくるのが分かる。
この村長私の大切な侍女に一体何を?
「こんな美人に囲まれて酒でもてなしてもらったら、俺の機嫌も良くなると言うもんだ」
「村長、もう一度言う。宴席を設ける気はない。先程話した案件について…」
「却下!」
酷い。
セラさんが言っていた通り全く話し合いにならない。
セラさんもラッサ大尉も眉間に皺を寄せ難しい顔をしている。
そして私も。
何故ここに呼んだのか問いただしたい。
殿下だけ無表情でたった一言
「ならば交渉は決裂だな。塀を取り壊し我々は別の場所に行く」
「ちょっと待て!お前さん達がさっきした話では、外にいるのはフォリッチの兵士なんじゃないのか⁈
そこに俺たちを放り出すのか⁈
もっと上の人間を寄越せ!お前みたいな若造じゃ話にならん」
え?殿下身分を明かしてないの?
「今この場でこれ以上の身分の方はいないですよ。一体何が気に入らないのですか?
女の子だって呼んだじゃないですか」
セラさんがウンザリしながら言った。
…まさか私達はその為に呼ばれたの?
いつもお読みいただきありがとうございます
年内最後の更新です。
新年は1月10日に更新します
よろしくお願いします
よいお年を!