33話
殿下は車椅子を押しながらズンズン進む。
「あの、どちらに向かっているのでしょう?」
「もう少しで着く」
言う気はないのね
暫くして少し開けた日当たりの良い場所に着くと車椅子を止め敷物を広げた
「あの、殿下。ここは?」
「夜中歩いていた時見つけたんだ。あまり人も来なくて日当たりの良い場所」
…どうゆう事?
「俺はもう丸2日寝てないんだ」
「寝ればよろしいのでは?」
「仮眠を取ろうとうとうとしていたら、ここで寝られると魔力ダダ漏れして人がバタバタと倒れるからここで寝るなとリシャールに言われた」
「何故私を?」
「完全に眠ったらリシャール以外近寄れない。それにナディアが一緒だと思ったら誰も気を遣って来ないだろ?1時間経ったら起こしてくれ」
私は虫除けと目覚まし係⁈
本当に自分勝手な男だ。
女性に対する扱いがなってない!
すやすやと眠る殿下に文句を言っても仕方ないので、筋肉痛で震える足腰を叱咤し車椅子を降りる。
殿下の横に座り周りを見回すと小鳥の囀りが聞こえ、秋の風が頬を撫でた。
怒涛の日々が嘘の様でこんな穏やかな日はいつぶりかしら?
つい考えてしまう。
お父様とお母様はどうしていらっしゃるかしら?
きっと私からの手紙を心待ちにしている頃ね。
どうやって連絡を取ろうかしら?
不思議な事にマーシャル殿下や聖女アイリスの事は全く気にならなくなっていた。
あんなに腹を立てていたのに、本気でどうでも良くなっている。
忙しかったからかしら?
ほんの一月前の日々が遠い昔の様に感じる。
きっとドレナバルの人達が濃いからかもしれない。
カァーカァーカァー
やけに烏の鳴き声が近いわね。
窓を閉めていなかったかしら?
カァーカァー
再び鳴き声を上げる烏。餌なんてなくってよ
ハッ!驚いて飛び起きる。
私は遠いシャナルに思いを馳せた後…眠ってしまった?
「で、殿下!ディラン殿下!起きて下さい」
「ん、後少しだけ」
「ダメです。ディラン殿下!もう日が傾いてます!」
「あ?」
「夕方です」
ガバッと起き上がった殿下はまだ寝ぼけていた様で辺りを見回し愕然としていた
「1時間って言ったよな?」
「はい。すみません、私もうとうとしていた様でこんな時間に…申し訳あり」
「あぁ、いや怒っているのではなく、自分に驚いていたんだ。こんなに野外で爆睡した事なかったから。
フレデリックとアイラの事は笑えんな」
頭を掻きながら殿下が言う。
確かに…
「ふ、ふふふ。私もです。この様な所で眠ったのも初めてです」
「よし!この事は内緒にしておこう。2人で村のあちこちを見学していた事にするぞ」
「はい」
殿下は急いで私を車椅子に乗せて敷物を丁寧に畳む。
本当変な所が几帳面な人よね。
その後殿下は走って車椅子を押し、陣まで戻ると兵士達が整列していた。
何かあったのかしら?
「あ、殿下とナディア様!」
誰かがそう声を上げると皆んなが一斉に私達を見る
「一体どちらにいらしたのですか?今捜索隊を組んでいた所です」
とラッサ大尉が前に出て言った。
捜索隊⁈
もしかしてこの整列はその為なの?
「村のあちこちを見学していた。まぁ少し遅くなったが問題無い」
何を真顔で大嘘を…
まぁ私も立派な共犯者ですけども。
「セラ殿が探していましたよ。村長が今夜話たいと言ってきたそうです。そんな訳で捜索隊解散!!」
前半は殿下に後半は捜索隊に向かって叫んでいた。
「そうか。では教会へ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
「ラッサ、コレを天幕まで送っておいてくれ」
「ハッ」
殿下は再び走って教会へ向かった。
ラッサ大尉はゆっくり車椅子を押しながら語りかけてきた
「仲がよろしいですね」
「そうですか?」
「あの殿下がこんな長時間誰かと2人きりなんて」
「それはディラン殿下の魔力が豊富なせいでは?」
うかつにお昼寝もできない体質ですから
「どうであれ、とても喜ばしいのですよ。殿下がお小さい頃からの付き合いですから」
「そうなのですか?」
てっきりリシャールさん以外殿下の周りに人はほとんどいないのかと思っていた
「ええ。私は以前王宮の料理人をしていたのですよ」
「そうなのですか⁈」
初耳だわ。
てっきり生粋の軍人かと思っていた。
体格も立派だし
「はい。当時まだ下っ端でしたが魔力が比較的多い方でしたので、リシャール殿がいない時など私が殿下の所に食事を運んだりしていたのです」
「まぁ。お小さい頃の殿下はどの様な子供だったのでしょう」
「物凄く感じの悪い子供でしたね」
ブフッ。
いけない。吹き出してしまったわ
「10才位までは殆ど喋る事なく淡々と食事を運ぶだけでした」
10才位と言う事は昨晩話した契約魔法を解除したのと関係あるのかしら?
「丁度その頃殿下はセラ殿ともう1人ノア殿と言う双子と仲良くなりまして」
「セラさん双子なのですか?」
「ええ。ご存じなかったですか?
ノア殿は今負傷して陣の救護所にいますよ。
まぁ色々ありましたが、その2人と仲良くなった辺りから刺々しさは無くなりましたねぇ」
何?色々って。
絶対聞きたくないけれど
「そうでしたの。そのノアさんと言う方のお怪我は酷いのですか?」
「命に別状はありませんよ。まだ救護所からは出れませんが、その内紹介されるでしょう。さぁ到着しました」
「「ナディア様〜!!」」
エアリーとグレタが飛び出してきた
「心配しました」
「どこかお怪我などしていないですか?」
「大丈夫よ。見学していただけだから。遅くなってしまってごめんなさいね」
私も大概大嘘つきだわ。
重ね重ねごめんなさいね
「ナディアはデートしていたんだから野暮な事言わない!おかえりナディア」
アイラさんが更に出てきて言う
「ただいまアイラさん。でもデートなんて良いモノではないのよ」
お昼寝していただけですもの。
釘を刺さなければ!
「いやだ。ナディアちゃんてば照れ屋さん」
更に奥からコニーさんが出てきた
「コニーさん!」
「うふふ。何日かぶりね」
「ご無事で良かったです」
「ナディアちゃんもね。色々とアイラと侍女さん2人から聞いたわ。大変だったのね」
「ええ、まぁ」
3人は何と説明したのだろうか…ちょっぴり怖い。
「では、私は無事お届けしましたので戻ります。後はよろしくお願いしますね」
「はい。ありがとうございました」
私達は天幕に戻り夕食までお茶を飲む事になった。