32話
陣へ戻る最中ぶりぶり怒っている私の車椅子を押したアイラさんが
「なぁ、さっきの話アタシが聞いていい話じゃなかったんじゃないか?」
見上げると真顔でそう言った。
「私も…そう思いました」
「わ、私も」
エアリーとグレタも続けた。
なので私からも一言
「実は私も」
私は常々私の前で国家機密に関する話はしないで頂きたいと切に願っているのに。まだ言えてないけれど…
「「「え?」」」
「だってこの国の、ドレナバルの暗部よね?先程の話は」
3人共無言になった。
この3人が知らなかったと言う事は国民は知らないと言う事だ。
そんな話を私達にしたと言う事は…
「あぁそっか!」
アイラさんが突然声を上げた
「殿下は全てをナディアに知ってもらいたかった!殿下の、ナディアをもう逃がさないぞって言う決意表明か!」
うん⁈
「まぁ。そうゆう意味でしたのね」
「それなら…仕方ない?」
私だけ⁈違うわ!
「ちょっと待って。殿下は私にだけでなく、3人共仲間と…」
「アタシらは付属品だから聞かなかった事にしよう!」
えええ⁈
「殿下はご自分の全てをナディア様に…私も聞かなかった事にします!」
エアリー⁈
「殿下はナディア様に知って欲しくて私達の存在は目に入らなかった…私も無かった事にします」
グレターーー!
結局陣へ戻っても私の話は聞き入れて貰えなかった。
ドレナバル人は実は話を聞かない国民性かもしれない
バスバスッ
4人で昼食を頂いている時ノックされた
「今お時間大丈夫ですか?」
入り口で顔を覗かせたのは
「ラッサ大尉!」
「やぁ。皆元気そうで良かった。デザート持ってきたんだけど一緒にどうかと思って」
そう言ってテーブルに果物が入っている籠を置いた。
ありがとうございます!と皆んなで言った後ふと顔を見るともの凄い隈ができていた。
ラッサ大尉とは泥試合の時が最後だ。
きっとあれから色々あったに違いない
「ラッサ大尉もご無事で良かったです」
色々な意味を込めて言ってみる
「ラッサ大尉、コニーは?一緒じゃないのか?」
アイラさんが聞いた。
そうよね仲良しだもの。
気になるわよね
「コニーはちょっと身体を動かしてくると言ってね。川で泳いでるんじゃないか?」
「げ。まだ怒ってんの?」
川で泳ぐって、今はもう秋なのに
それにあのコニーさんが怒るなんてあるのかしら?
「あぁ当分近寄らない方がいい」
ラッサ大尉はグッタリしながら言った
「ラ、ラッサ大尉はあの泥試合の後どの様にしてこちらまでいらしたのです?」
話を変えよう。
ラッサ大尉の気分を変えて差し上げなければ
「泥試合?あぁ。トーラス殿下を伸したまでは良かったんだが、その後ろのフォリッチの兵士が多い事。
とりあえず殿下とナディア様を追わせない様ほんの少しだけ戦って逃げましたよ」
あら、少し表情が和らいできたかしら?
「全てを丸投げしてしまいごめんなさいね。ありがとうございました」
丸投げしたのは殿下だけれど一応婚約者としてお詫びとお礼も言っておく。
「いえ、我が隊逃げるのは得意ですから。
ただその後寝台馬車がフォリッチの兵士に奪われた時は肝を冷やしましたよ。お2人が乗っていたのは知っていましたから」
「侍女から聞きましたわ。2人を助けて下さったそうで、本当にありがとうございました」
先程より深く頭を下げる。
建前ではなく本気のお礼ですもの。
「いやいや、その後すぐ逸れてしまいました。面目ない」
「その後こちらに?」
「最初は後から来る大隊と合流するつもりだったのですが、先に逃げた隊員が行く途中あちこちで大隊から抜けてきたと言う兵士に会ったようで。
話を聞いてこれは国境の殿下隊の所へ行った方が良いと判断し、隊員に会う度にそう言って国境へ向かったのですが…」
急にラッサ大尉の顔が曇った
「その途中隊服を着たヤツらに襲われている女性に出くわして、慌てて助けに入ろうとしたらコニーだったのですよ…」
コニーさんが⁈
こちらに来ていると言う事は無事だったのでしょうけれど、きっと怖い思いをなさったのでしょうね。
あの美しさですもの。
ラッサ大尉の顔もどんどん険しくなってくる
「慌てて兵士を引き離したのですが、若干間に合わなくて」
「ええ⁈コ、コニーさんは⁈」
「怒りの形相で炎魔法をぶっ放して」
え?
「危うく助けに入った我々まで黒焦げになる所でした。襲った兵士の方は結構焦げてはいたのですが命に別状はなく、ただ…」
コ、コニーさん凄い
「追加で爆炎魔法をぶっ放して…」
や、やりすぎでは
「我々で何とかトドメを刺すのはやめさせたのですが…本当に、本っ当に恐ろしかった」
ラッサ大尉涙目だわ
「まぁコニーだしな」
アイラさん⁈
「コニーはああ見えて怒らすと本当怖いんだ」
「あぁ。噂は何度か耳にしていたが、あれ程とは…しばらく怒りまくってるし」
ラッサ大尉はゲッソリしながら言った
「そ、そうでしたの。大変でしたのね」
「そろそろ怒りも鎮まった頃だな。アタシちょっと行ってくるよ。ラッサ大尉ここ頼んでいいか?」
「あぁ大丈夫だ。このまま北に行けば川があるから、そこいら辺にいるだろう」
「わかった。じゃあ…っと!」
「なんだ。ラッサこんな所で油売ってたのか」
「「殿下?」」
「殿下お忙しいのにどうなさったので?」
ラッサ大尉が尋ねると
「あぁ。ちょっとナディアに用があってな。時間はあるか?」
「はい。ありますが」
私に予定があるハズもない
「車椅子は俺が押す。皆しばらく自由にしててくれ」
どうゆう風の吹き回し?
エアリーとグレタは小声できゃーとか言っているけどもう放っておきましょう