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流されて帝国  作者: ギョラニスト
30/205

29話

「以上だ!」


 横暴な殿下の一言でその場はお開きになり皆んなそれぞれ準備に動き出す。


 私達もとりあえず馬車がある所まで戻ろうとした時気がついた。


動けない。

足腰は確かにブルンブルンしていた。


 でもまさか椅子から立ち上がる事も出来なくなる程とは…


「さぁナディア様。私達も参りましょう」


「そ、そうね。でももう少しここにいるのも良いのではないかしら?」


何とか立ち上がるまで時間を稼がないと


「こんな何も無い部屋に?」


アイラさんが最もな事を言う


「ええ。あの窓からみえる…」


何もない。

窓には星すら出ていない夜空しか見えない


「何もない空間を見たいと言うか、もう少し座っていたいと言うか」


どうかしら?

もう動けそうかしら?


足に力を込め立ち上がろうと踏ん張って、踏ん張れなかった。


ガタン


「キャー!ナディア様⁈」


コケた私に皆んなが寄ってきた。


「だ、大丈夫よ。ちょっと足腰が、」


「まぁぁ!昨晩殿下が無茶なさったのですね!」


エアリーが少し怒りながら言う


うん?殿下?


「いくらご婚約なさっているとは言え、いきなり手をお出しになさるから」


グレタまでおかしな事を言い出した


ちょっと待って!

さっきの話の続き⁈手なんか出されていないわ。


「殿下もしょうがないねー。ナディアおぶってやるから。ほら」


 エアリーとグレタの手を借りアイラさんにおぶってもらう。


 これはどこから訂正すれば良いのかしら?

靴が重くてなんてグレタが傷つきそうで言えない。


だからと言って殿下との一夜なんてもっての外だわ。


「コホン。あのですね、殿下とは何も無いのですよ。これは足をちょっと挫いてしまってですね…」


仕方ないからちょっと嘘をついてみた。


「ええぇ⁈ちょっと拝見します」


 エアリーにアイラさんにおぶられたまま靴を脱がされた。


「何で言わなかったんだよ!急いで軍医に見せよう」


アイラさんはそう言って走り出した。

しまった!ここではすぐ医師がやって来るのだった


「いや、アイラさん!医師に見てもらう程でもないと言うか、ちょっと休めば…」


「いいからナディアは黙ってて!飛ばすから」


アイラさんはそう言ってエアリーとグレタを置き去りにして加速した。


「ふむ。少々ふくらはぎが張っていますが、捻挫程ではないですな。魔力を巡らせれば良くなりますよ」


お爺ちゃん先生はそう言った。

後から駆けつけた2人とアイラさんは顔を見合わせて


「いえ、殿下がお許しにならないかと」


「ほぉ。なら安静にしているしかないですな。しかし殿下がヤキモチをお焼きになるとは長生きするもんじゃな」


 今の会話のどこに殿下のヤキモチが隠されていたのかしら?

 

 そんな事より魔力を巡らせてもらえばこの足腰はもう少しマシになりそうなのに。


 再びアイラさんにおぶってもらい馬車に帰る途中そう聞いてみたらエアリーが


「ナディア様には効かないのです」


「え?そうなの?」


「はい。魔力のある人に癒しの魔力を身体に巡らせるモノですので」


あら、殿下に軽く山道を登れる魔法は効いたのに。

私の表情を見たグレタが


「髪を乾かすとか軽く動ける様になるとかは風の魔法で外からお手伝いすると言う形になりますが、魔力を巡らせるのはナディア様の体内、内側には効かないのですよ」


なるほど。


「しかもナディア様の魔力が無い事がバレてしまいます」


それはマズイわね。

殿下は他言無用と言っていたし。


馬車があった筈の場所にたどり着くも馬車が無い。

代わりに巨大な天幕が張られていた。


「おー出来上がってる。馬車用天幕」


はい⁈


「まぁ!これで私達ナディア様がどこかへ行ってしまう心配はしなくて済みます」


エアリーが嬉しそうに言った。


 アイラさんの肩越しに覗いてみると巨大天幕の入り口が開いていて中に棺桶馬車が…既に私の私室と化した棺桶馬車は天幕の中にまで勢力を伸ばしていた。


 天幕の中央に棺桶馬車が鎮座し、入り口入って左手すぐにアイラさんの簡易寝台、馬車の出入り口付近にエアリーとグレタの簡易寝台が置いてある。


これは私を守る為よね?

私を監視する為ではないわよね?


 4人テーブルについてお茶を飲む。


 入り口右手側の空いている空間にテーブルと椅子を置き小さなリビングスペースを作った。


 そんなにお腹も空いていないけれど、今を逃すといつ食事が頂けるかわからないとの事でアイラさんが教会へ行って貰ってきてくれた。


 夕方近くまで寝ていたので眠気は全く無く若干暇を持て余し気味だわ。


こんな時温泉にでも入れれば言う事ないのだけど


「ねぇ、この村に温泉施設みたいな所はあるのかしら?」


すかさずエアリーが


「ございますよ。ナディア様が喜ぶかと思って村人に聞いたのですが、二つある様です」


「まぁ!早速入りに…」


「ダメだ。足を挫いたヤツは温泉の質にもよるけど、当日は入っちゃダメだよ」


アイラさんが断言した。

えぇ!あんな嘘をつくんじゃなかった。


せめてぶつけたとか言っておけば良かった。


「それに村長さんの許可が出ない様なのです」


おずおずとグレタが言った。どうゆう事か聞くと


「その、村長さんは大変お怒りで、村の設備に一切手を触れるなと兵士達に通達したようです」


そんな…ラッサ隊の方々がいらっしゃらない今、食事に期待出来ないのに温泉にも入れないなんて…人生に絶望していると


「本日はタライ風呂で汗を流し明日以降また交渉してみましょう」


エアリーが慰める様に言ってタライにお湯を貰いに行ってしまった。


その後タライ風呂に入り今は寝台に押し込まれた。


眠気は全く無くゴロゴロと寝台の上を転がる。


今頃殿下達はどうしているだろうか?


 ラッサ大尉やエランさん、ブルーノさん、ヒューズ君…無事かしら?


 そう言えば両親に手紙も書いていない。

今ここで書いてシャナルにちゃんと届くのかしら?


皆んな忙しくて早馬なんて出してくれないわよね

そんな事を考えていたらいつの間にか眠ってしまっていた



翌朝寝台で眠ったせいかスッキリと目覚めた。

この馬車見た目はどうあれ寝心地だけは最高によろしい。


 4人で仲良く食事をし教会へ行こうとした所エアリーが元気一杯に言った


「さぁ!ナディア様!車椅子でございます」


何故⁈


「これで自由に動けますね」


「よし!私が押そう」


ちょっと待って。

大袈裟だわ。


 靴さえ別の物にしてくれたら歩けるわ。


私の心とは裏腹に車椅子に乗せられ兵士達を驚かせながら教会へ連れて行かれた。


教会内は昨日までの喧騒以上にごった返していた。


耳を澄ますと「お前どこにいたんだよ」「無事で良かったな」「いや〜相変わらず殿下のやる事無茶苦茶だよな」そんな会話がそこかしこで聞こえた。


「あぁ、ナディア様。こっちです。こっちこっち」


 人に埋もれ手だけを上からヒラヒラさせているこの声はセラさん。


 アイラさんも気付いたみたいで車椅子をグイグイ押して向かう。

そこにいたのは


「殿下!」


声を掛けた瞬間


「何だ!何で車椅子に乗っている」


殿下が訝しげに言ってきた


「殿下。ご自分のなさった事の顛末でございます」


厳し目にエアリーが言うと


「俺?」


「で、殿下。も、もう少しナディア様にお優しくお願いいたします」


グレタが続けた


「一体何だ⁈」


うわぁまだまだ誤解している。


「あのですね、ディラン殿下…」


「殿下!リシャール殿が帰還されました!」


「今行く!」


 ひどい。

誤解を解いて欲しいのに。


 エアリーもグレタもアイラさんもとても良い人だけれど、何故か私の言う事は聞いてもらえない。



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