27話
フレデリックの大冒険
殿下、リシャールさんとテアドール村の東門跡地に来た。
跡地とはそのままの意味で跡地だ。入り口にあったであろう木で出来た門は跡形も無くただ土でできた壁があるだけ。
向こう側は人のいる気配満々で熱気が伝わってくる程だ。
「ねぇ、ディランここに穴開けて向こう側に行くの?いくら何でも無謀だよね」
リシャールさんが最もな事を言う。
こちらは3人しかいない上に僕は殿下とは後1時間位しか一緒にはいられない。
「ここからは流石に行かないさ。もう少し北上した辺りに抜けられる所を探すが、今現在ここにどのくらいの人が集まっているか知りたいんだ。
リシャール頼む」
「あぁそうゆう事か。了解」
リシャールさんはそう言うと目を閉じた。
少し経つと目を開け
「沢山いるね〜。大隊の半分以上は居たよ。南方面にも移動しているのが見えたから半分に分けたのかな?」
え?今見たの?
どうやって?
「半分か。川に向かって北上したのもいたか?」
「ハッキリとはわからなかったな。いたとしても一個小隊20〜30人程度だと思う」
やっぱり見てきたんだ。
一体どうやって
「そうか。ならばやはり北上して穴を開ける。川から侵入されるのは厄介だからな」
「はい」
「了〜解」
3人で壁伝いに北上していると
「さっき僕がどうやって見てきたか気になった?」
リシャールさんが話かけてきた。
何故分かるのだろう。
でも何となく腹が立つ
「いえ、特には」
「またまた〜。強がったって良い事ないよ。
まぁ良かったら今度やり方教えてあげるよ」
「え?本当ですか?」
魔力ではなくやり方でこの魔術を使える様になるなら是非教えて頂きたい。
「やめておけ。リシャールに魔術を教わると後が大変だ」
え⁈そうなの?
「俺は昔リシャールに魔術を教わった後、子分の様にこき使われたぞ」
「やっぱりやめます」
殿下が言うなら間違いない。
この魔法使いのこき使うは大変な目に合いそうだ。
「何だよディラン。僕は心からの親切心で言ったのに」
まるで心の篭っていない今のセリフでそう言えば胡散臭い魔法使いだった事を思い出した。
門跡地と川の丁度中間地点に立ち殿下とリシャールさんは地面に手をついた。
どうするのかドキドキしながら見ていると、地面と壁の境目からじわじわと穴が開いていく。
やはり凄い。
畑の畝を作るとか井戸を掘るとか昔見た事がある。
あの時は魔法使いが5〜6人居た気がする。
井戸の時は10人を超えていた。
それをたった2人であんなに緻密に穴を開けるなんて。
人が屈んで通る事が出来そうな大きさになった所で2人は立ち上がった。
「行くぞ」
「は、はい」
僕は魔力は普通より少し多い程度で魔法使いにはとてもなれないけれど、素直にカッコいいと思う。
ステキだとも思う。
女性だったら間違いなく惚れてしまいそうだ
「「やめてくれ」」
?
僕は声に出してはいないよな?
何に対してやめてくれだ?
塀を超えると森になっていた。
村の中心部からは大分離れているが、殿下はかなり広目に塀を作った様だ。
森は隠れて行動するのはもって来いだ。
追う方にはツラいけど。
この村に来る時は比較的平坦な牧草地帯を選んで進んで来たが、こんなに立派な森は山沿いにしかなかった。
東側は割と山に近い所にこの村はあるのかもしれない。
「よし。この辺りで別行動だ。フレデリック先程言った事頼んだ。リシャールも頼んだぞ」
「はい!」
「は〜い」
そう。ここからは別行動をする。
僕とリシャールさんは大隊に紛れ込んでラッサ隊の人を探す。
殿下は自国内では顔をあまり知られていないけれど、大隊に紛れ込んでいるスパイ達にはトーラス様が姿絵をばら撒いた可能性があると言っていた。自国の国民はほぼ顔も知らないのに、他国では知られまくりって…
紛れ込んだ後はリシャールさんとも別れ僕1人でラッサ隊員を探し塀の中に引き込む。
殿下は僕が1番紛れ込みやすい容姿をしていると言っていた。
褒め言葉だと信じたい。
森を南東に進むと急に視界が開けた。
なだらかな丘陵地帯が広がり無数の天幕が張られている。
「あ、マズイ」
リシャールさんがフードを目深に被り体制を低くした。
「フレデリック君。君とはここまでだ。一つ忠告しておくよ。魔法使いに会ったら隊の規則なんかを頭の中で唱えるといいよ。じゃあ頑張りたまえ」
「はい⁈」
そのままリシャールさんは森へ戻ってしまった。
一緒に紛れ込むって言っていたのに。
仕方なく1人森を抜け陣の端っこで木桶を途中で拾い、それを持って天幕の一つに近寄り兵士に声をかける
「なぁ、第五部隊の天幕ってどこだっけ?」
「あぁ?迷子か?もっと南側に行った辺りだと思ったけど、結構バラついてるから」
「おう!ありがとな」
やっぱり変だ。
以前は隊ごとにキッチリ天幕の位置は決まっていた。
途中木桶に水を蓄え丘を下る。耳に入ってくる会話はもっぱら塀をどうやって乗り越えて行くかという話になっていた。
中程まで進むと1人の人物が目に入る。
「よぉ。水持ってきたぜ」
人物はチラと僕をみて
「あぁ、悪かったな。助かったよ」
これはラッサ隊の合言葉だったりする。水を持って行って礼を言われる。
特別任務アリ、了解。と言ったところか
「陣の北東、北側4つ目の天幕を山へ北上、1,000メルトン辺りに赤い幹の木を西へまっすぐ。中に入れます」
「あぁ助かったよ。他に水が必要な奴は?」
「みんな必要かと」
「だよな」
言い合って笑う。
合言葉を直すと他の隊員に知らせるか?みんなにお願いします。了解。
そんな隠語を交えながらねずみ講式にラッサ隊の人に塀の中に入る事を促す。
結構伝わったかな?と思った所にもう1人顔見知りを見つけた。
用心しながら近寄るとそいつは何人かに囲まれ話をしている。
マズイかも知れない。
天幕の影に隠れて様子を伺っていると
「見かけない顔だが第七部隊の人間じゃないな。所属は?」
「第4部隊です」
「第4部隊?こんな奴いたか?おい魔法使い連れて来い。確認してもらう」
「ハッ」
マズイ。魔法使いは確認できるのか?
いや、考えてる時間はない。
「やぁ、トニー。どうしたんだ?」
囲まれているラッサ隊員に話かける。
トニーと言う名前は今適当につけた。
「あぁ、ハリー。いや、所属を答えてただけだよ」
「何だ?貴様は」
「ハッ。第4部隊ハリー・ジョンソンです」
「同じ隊の者か?」
「ハッ。同じ第4部隊であります」
「ふん。あんまりチョロチョロするなよ。行ってよし!」
「「はい。失礼します」」
2人駆け足でその場を離れる。
「ふぅ。助かった。仲間が何人か捕らえられてるんだ」
ここは別の天幕の影になっているけれど、誰がどこで聞いているかわからない。
「シッ。ここじゃマズイ」
「あ、あぁそうだな」
2人で空いてそうな天幕を探すがあまりにゴチャついていて見当たらない。
よくこんな中潜伏できたなと感心してしまう。
結局空いている天幕を見つけられず、2人でバケツに水を入れ歩きながら話す事にした。
「虫かごには何匹虫はいるんだ?」
(何人捕らえられてる?)
「そうだなぁ。10匹は下らないかな」
(10以上はいる)
「虫かごはどこに置いてきたの?」
(どこに捕らえられているの?)
「どこに置いたか忘れてしまったんだ」
(わからない)
「そっか。仕方ないな。虫の王様はどこに棲息してるか知ってる?」
(なら仕方ない。ラッサ大尉どこにいるか知ってる?)
「虫の王様だからな。森じゃないかな?」
(ラッサ大尉は森に潜んでる)
「そうか。じゃ僕は水を届けに行かなきゃだから、ここで。お前は早く戻ってゆっくり休みなよ」
(了解。僕は他にもいないか見てくるからここで。お前はさっき教えた所から早く塀の中へ)
そう言ってラッサ隊隊員とは別れた。
さて、どうするかな。大分南側へ進んだ気がするけど…