表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流されて帝国  作者: ギョラニスト
23/205

22話


「…て下さい」


遠くで声がする。誰だ?


「フレデリックさん、アイラさん起きて下さい!」


ガバリ

慌てて上半身を起こす。


ここはどこだ?何故外にいる?

横を向くとアイラが大の字になって寝ていた。


「あのぅ、お疲れかと思ったのですがかなり太陽も上がってきて…ちょっと不安になってしまい…」


エアリーが申し訳無さそうに言うと


「ああぁ⁈」


 僕は昨晩何をしていた⁈アイラに1時間経ったら起こせと言われて…


眠ってしまった?

焚き火はとっくに消えていた。


「アイラ!起きろ!日の出はとっくに過ぎてもう日は高い!」


いくら疲れていたとは言えとんでもない失態だ。


野営中に爆睡なんて聞いたこともした事もない。

しかも守るはずの人に起こされるなんて


「うわー!何でこんな時間⁈1時間経ったら起こせって言ったよな!」


「お前だって野営中に大の字になって寝るか⁈普通。急いで準備するぞ」


 いきなり動き出す2人にエアリーもグレタもたじろいだが、見よう見まねで焚き火の跡に土をかけたりクッション代わりに集めておいた落ち葉を散らし野営の痕跡を出来るだけ消す。



 慌てて馬車に乗り込み遅れを取り戻すかの様に駆け抜けて行くと、小型の魔物の群れが前方からやってきた。


 襲われるのかと思いきや馬車を避け散り散りに去って行ってしまった。


「なんだぁ?」


「前に何か…誰かいるようだ」


 目を凝らすとフードを目深に被った人が1人立っていた。


「ねぇ。そこの馬車止まって〜」


 見た所兵士では無さそうなのでフレデリックはスピードを落とす。


 ただ兵士に見えないからと言うだけで信用はできない。

アイラが尋ねる


「おっさんどうしたの?こんな所で1人で」


「えーおっさんって年でもないんだけど…ねぇこの先の国境付近まで行きたいんだけど、途中まででもいいから乗っけてってくれないかなぁ」


 一瞬で2人に緊張が走った。

この時期1人で歩いて国境に行くなんて有り得ない


「おっさ…お兄さん何でこんな所で1人で?仕事か何かかな?」


今度はフレデリックが尋ねる


「ん〜仕事は関係…あるかも?」


「え?おっさんの仕事って何してるの?」


「あ、僕魔法使いなんだよ。怪しい者じゃ無いから」


胡散臭さ過ぎる。


何かある者は必ずと言っていい程怪しい者じゃないと言っている気がする。


「僕達国境付近には向かわないんだ。悪いけど他を当たって」


「ええー」


「じゃあ気をつけて」


言い終わると同時に馬車は走り出した。


 一度止まった馬車が再び凄い勢いで走り出したため不審に思ったエアリーは御者台に繋がる小窓を開け何かあったのか尋ねると


「いえ、何もないですよ。さぁスピード上げますので座っていて下さいね」


何事もなかったかの様にフレデリックは声をかけた。


こんな何もない所ではぐれ魔法使いなんて怪し過ぎる。

中の2人に余計な不安は与えたくはない。


それから馬車は誰に会う事も無く順調に国境へ向かうが


「なぁフレデリック。この方向で本当に合ってるか?」


「言うなアイラ。概ね合ってはいるが、街道沿いじゃないから細かいのはわからん」


 途中馬を休ませて休憩を入れる以外は走り続けたが、いかんせん朝の出遅れが響き目的地にはまだ遠い。


 途中まではだいたいで進んできたがそろそろ正しい方角が知りたい。

夜ならば星の位置でわかるのに。


 高い所から下を見下ろす魔法があると聞いた事がある。こんな事なら先程のはぐれ魔法使いを縄で縛って連れて来たら良かったかも。


そんな事を考えているとアイラが


「おい。あそこ。村っぽくないか?」


「相変わらず目がいいな。僕にはまだ見えない」


「このまま少しだけ左に曲がった所」


 アイラに言われた通り少し左に馬の鼻先を変え暫くすると集落に到着した。


 何も無さそうだが人の気配はありそうだ。

パッと見た感じ兵士もいないようだし。


馬車を入り口に停めフレデリックは1人で集落に入る。


 アイラには馬を休ませる様頼んだ。


アイラ行かせたら村人と仲良くなるか喧嘩になるかしかない。


「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」


比較的大きな家の扉を叩き尋ねる


「何か用かね?」


 後ろから声がして驚いたがフレデリックは動揺を見せず


「すみません。ちょっとお尋ねしますが、ここから国境付近のハイドン村へ向かいたいのですが教えてもらえますか?」


「なんじゃ。迷子か。ここからハイドン村は…」


「ありがとうございました」


 フレデリックは礼を言って急いで馬車に戻ると入り口からそれた所で馬達はそれぞれ草を食べたり水を飲んだりしていたが


「なぁ。それ何の動き?」


「あ、フレデリックおかえり。今2人が自分達も何かあった時の為に、護身術みたいのがあったら教えてくれって言うから伝授中」


 護身術?

片膝を着いて右手を顔の前に持って来る動きが?


「そうなのです。そんなに力もいらずに出来る方法を教わっていたのです」


嬉しそうにエアリーも答える


「初めて見るんだがそんな動きあったか?」


 フレデリックは授業で習った護身術を思いだそうとしたが、あんな動きは無かったハズ


「女性の方が非力だから、油断した男共の股間を触るフリをして使える魔法をぶっ放す。エアリーは電気でグレタは冷却で」


「やめてくれ!侍女に何て事教えてるんだ!」


内股でフレデリックは叫んだ




「え?ハイドン村へ向かわないのか?」


 馬車の手綱をたまには代わると言って握ったアイラが聞くと


「そう。大分西に進んでいたみたいだ。このまま北へ進むとテアドール村があるからそっちへ行って東に行く方が安全らしい」


「北東は危険って事?魔物ならアタシが…」


「テアドール村の南側に大きな湿地帯があって中には底なし沼もあるそうだ。これから暗くなる。

安全第一で行く」


「じゃあ仕方ないか」


 いつもとは違う手綱捌きに若干の怯えを見せた馬達は必死で走る。


 少し怠けたらアイラの鞭が容赦なく襲ってくるのが分かるのは野生の感に違いないとフレデリックは感心しながら見ていた。


その頃馬車内では


「エアリー違うわ。こう、少し肘を曲げて。そうそう」


 護身術に磨きをかけ、自己研鑽に必死で2人取り組んでいた。




「ここ…だよな」


 村の西側の所謂裏口に当たる所だろう。


 このまま村沿いに東へ行けばハイドン村へは行けるが時刻は深夜だ。


 そんなに大きくもないこの道を少し右に逸れただけで底なし沼が待っているかもしれない。


 この村で休憩して明日、今度こそ日の出と共にハイドン村へ行こうと思っていたのだが。


「深夜…だよな」


「明るい…ですね」


「さ、騒がしい…ですよ」


 上からアイラ、フレデリック、エアリー、グレタが一言ずつ発する。


 辿り着いたテアドール村は深夜とは思えない程松明が煌々とし村の住人を遥かに上回る人が走り回っている。


「制服を着た奴らもかなりいる。大隊の奴らか?それともディラン殿下の隊員達なのか…」


 本来なら制服は同じ隊、仲間の筈なのにその制服が逆に敵か味方かわからなくさせる。


「これだけ騒がしいって事はあの大隊の奴らがもう来ていて揉めてるって考えていいんじゃないか?」


「早くないか?いくら僕達が遠回りしたとしても、一個大隊の方が時間かかるだろ。内部で揉めていたんだし」


「それもそうか。じゃ何でこんなに騒がしいんだ?」


 自分達が寝坊した事は無かった事にして、この騒がしさを訝しむ。


 ここにいる誰もテアドール村の井戸に毒を撒かれた事を知らないので、この騒がしさが何なのかわからない。


「あのぅ、私共で中に入って聞いてみましょうか?」


 エアリーの言葉にフレデリックは悩んだ。

昼間だったら女性2人が突然村を訪れる事もあるかもしれない。


でも今は深夜だ。余計に怪しく思われる。


「いや、今は返って怪しまれる。ここは…」


「おい!そこで何をしている⁈」


!!


2人組の兵士が近寄ってきた。

まずい。


「貴様ら…まさか」


 4人共馬車から降りてしまっている。

今から急いで乗り込むより早くあの2人はこちらに来る。


 アイラに一旦任せて2人と逃げるか?

でもその間に騒ぎに気づいて他の兵士もこちらに来るだろう…

何か手は…


「戦場に彼女連れてきて逢引か⁈」



 アイラを見る。アイラは背も高いしショートカットだから男と間違われた?


「はぁ⁈何言って…」


アイラがキレて咄嗟に言葉にしてしまった


「うわっ!馬鹿!やめろ!」


折角勘違いしてくれたのに台無しだ。


「おい!何の騒ぎだ!このくそ忙しい時に」


村から数人駆け寄って来る。


万事休す…



4人は馬車と共にテアドール村に連行された



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ