218話
何だかんだ今私は快適ではない空の旅をしている。
大きな板状の上に人、馬、馬車、荷物とを一纏めにし青龍様におんぶしてもらう形でロープで固定している。それを魔道具で補強し、さらに魔力の高い人が更なる補強をする型にしたのだけれど
「ナナナ、ナディア様、お寒くないですか?」
紫色をした唇のエアリーが話しかけてくる
「だっ、大丈夫よ。エアリーこそ無理をしていない?」
本当は全く大丈夫ではない。魔力をロープ固定補強に全振りしている為、寒さ対策を小さな魔道具だけで賄っている。全然足りないけれどマッサーラを逃げるように飛び立ったので準備も最低限だった。
本当はここで1番頑張らなければならない殿下は目の前でグランゼン侯爵と肩を寄せ合いボソボソと話しをしている。何故って落ち込んでいる殿下をグランゼン侯爵が慰めているから。
2人仲良く並んで話しをしている姿は正直違和感と気味の悪さしか感じない
「ですから…」
「だから…」
会話の内容まではこんなに狭い馬車内でもイマイチ聞き取れない。それだけ2人は密着し話し合いを続けているのだ。
普通の馬車より広い寝台馬車内には私とぷっぷちゃん、エアリー、兄様にコーデリアさん、元聖女のアイリスと殿下とグランゼン侯爵でミッチミチ。息が苦しいのは密度のせいか空を飛んでいるせいなのか…
「ア、アイリスさん?顔色が悪いけど大丈夫ですか?」
コーデリアさんがアイリスさんに声を掛けるもアイリスさんは頷くのがやっとなぐらい具合が悪そう。アイリスさんは青龍様とオーナー将軍が話し合いをしていた辺りから具合悪そうにしていたけれど、飛び立つ頃には更に悪化していた。
私達は密着し暖を取っているけれど、背中には薄い麻布を被っているだけだったので
「兄様、この輪から外れてアイリスさんの背中を温めて下さい。アイリスさんこのままでは死んでしまいます」
「そ、そんな事したら、ぼぼぼ僕が死にそうなんだけど」
「だ、大丈夫です。兄様頑丈ですから」
もう寒くて寒くて色々深く考える事ができない。
え〜と言いながら輪から外れアイリスさんの背中に自分の背中を合わせ座り込んだ。まぁ覆い被さる訳にはいかないですものね
「なあナディア、アイリスさんに石を砕いて飲ませたら具合良くなるんじゃないか?そしたら聖女パワーが戻って元気になるんじゃ…」
兄様が言った瞬間グランゼン侯爵がギラリと睨みつけた
「目の前で違法行為をしないでください。やった瞬間ロープ1本で青龍様の背中からぶら下がっていただきます」
いきなり絞首刑!でもこのままではアイリスさん本当にどうにかなってしまいそう
「女神石を摂取し続けないと聖女の力は無くなってしまう上に具合も悪くなってしまうと言う事でしょうか…」
コーデリアさんが呟いた。誰も何も答えないけれど、それがもし本当ならばあの沢山の聖女達はその事実を知っているのかしら?
グッタリしているアイリスさんを見てアイラさんやヒューズ君は大丈夫なのか心配になった。
あの時突然力を得たと言う事はどこかで女神石を摂取していた?いつ?どこで?
…まさかテオドール村にいた時の顔色おかしい事件?あの時顔色が一番変だったのはアイラさんとヒューズ君だった。陽の光を浴びる辺りも一緒じゃない。
でも待って…その前に井戸水で具合が悪くなる人が大量に出ていたではないの。私はあらゆる記憶を手繰り寄せもっと何かを見落としている事はないか考えていると
「ナディア様、大丈夫ですか?」
エアリーが心配気に話しかけてきた
「え、ええ。大丈夫よ。それより…」
私が少しまとまった考えを話そうとしたら
「でもお顔が変です。もしかしてお腹が空いていらっしゃるのでは?」
「ちっ、違うわ!考え事をしていたのよ!」
顔色でなく顔が変とは何事!?しかも空腹って…まぁ少しだけ空腹ではあるけれど
「この干し芋でよければ召し上がってください」
そう言ってエアリーが懐から袋を取り出し一つずつみんなに渡した。干し芋って何かしら?干し肉やドライフルーツなら知っているけれど
アム
「!!なにコレとても美味しいわ!」
身体に衝撃が走る。柔らかいのに少し歯応えがあって、いくら噛んでも甘味を感じる
「それでナディア様は一体何をお考えだったのですか?」
そうだったわ。私は干し芋を堪能しながら先程考えていた事を話した
「…と、思っていたのよ」
その場に沈黙が落ちた
「今の話は本当ですか?」
それまで殿下に寄り添っていたグランゼン侯爵が話に入ってきた。
「言われてみればテオドール村から怪しかったな。あの時侯爵達も来ていたはず。何故途中でいなくなった?」
復活をしたらしい殿下も話に加わった。グランゼン侯爵はあの日テオドール村とハイドン村のある領主であるアルバナール伯爵の偵察に来ていたそうだ。
本当ならマデリーン様の一行と途中で別れアルバナール伯爵邸に行く予定が組まれていたが、マデリーン様に送ってくれと押されまくったらしい
「そんな訳でテオドール村までお送りした後、当初の予定通りそのままアルバナール伯爵邸に向かったのですよ」
マデリーン様そんな事一言も言っていなかったけれど、まぁマデリーン様ですものね。
「ちなみに聞くが旧王都を出発したメンバーは誰一人欠けたりしなかったか?」
「…」
え、無言
「答えろグランゼン」
はぁ〜と大きくため息をついた後侯爵は
「2名がテオドール村で行方不明にになりました」
「テオドール村の敷地内に入ってからか?」
「いや、私達は入っていません。入り口でマデリーン様達が入ったのを見届けてから立ち去ったのです」
「では塀を壊して入ってもいないんだな?」
侯爵は黙って頷いた。壊れた塀って私が車椅子でうっかり外に出てしまった塀よね。そこから行方不明の2人が入ってきて井戸に?
「でもあの時井戸から出たのは毒物って言ってましたよね?まさか毒物と女神石の粉を一緒に?」
「かもしれんな。その2人がいない事には何とも言えんが一体誰なんだ?」
「元老院のメンバー、ハーシュ伯爵の息子の嫁の従姉妹の旦那の乳母の子供とその友達で…」
…赤の他人ね
「普通元老院の移動ともなれば、もっと身元がしっかりしている者が付くだろう?」
「お言葉ですが殿下、旧王都は大混乱の最中でした。原因は言わずもがなですけど、私達が出発する頃にはまともな兵士は1人もおりませんでしたので」
あら、殿下ったらグゥの音もでないわね
「ゴホン…まぁアレだ。そのハーシュ伯爵はどうしているんだ?」
「行方知れずで、マッサーラに居ると言う情報が入ったので今に至ります」
もうそのハーシュ伯爵が犯人で良いのではなくて?




