197話
何か返事をした方がよいのかしら?
番って物凄く愛されたりしちゃうアレよね?
私には一応ディラン殿下と言う婚約者がいるのにどうしましょう。これが噂の2人の殿方?から愛される苦しみ…
「あの…」
「早く顔を見せておくれ」
…うん?
顔を見せる?私ではない?下を見ると私の胸元に顔を埋めるぷっぷちゃん。
「…ナディアの事…ではないのか?」
殿下、そんな事を言われても私にもさっぱりわからないのよ。
「そこの小娘、早く我が花嫁をこちらに寄越せ」
この場合花嫁はぷっぷちゃんの事よね?
あ、危なかった…おかしな事を口走る前で良かったわ
「何か番を名乗る…ドラゴンさんがお見えよ?」
誤魔化すようにぷっぷちゃんに声をかけてみた
「ぷぷっ」
ぷっぷちゃんは私から離れようとはしない。どうしたものかと思っていたら
「あなた様はもしやアリアステ様の使徒、青龍様ではないですか?」
少し離れた所からコーデリアさんが一歩前に出てドラゴンにそう尋ねた。
この大陸で主に祀られているあのアリアステ教の女神アリアステ様の使徒?
「ほぅ、我を知っているか。オルストの民か?」
「は、はい。巫女を務めさせていただく者です。お会いできて光栄にございます」
両手を胸の前でクロスしひれ伏したコーデリアさんを見た周りの人々は一瞬躊躇った後、続々と倣って平伏し始めた。
殿下も膝を折ったため私も倣って膝をついたら
「小娘、お前が平伏したら我が花嫁が苦しいだろう」
え、いや周りのみんなが平伏しているのに私だけ突っ立っているのは気が引ける。
中途半端に膝だけついていると、先程もの凄い勢いで後退った陛下が私の前にやってきて平伏し
「よ、ようこそマッサーラへ。青龍様のお越しを心から歓迎し…」
ドシン
陛下が話している途中で青龍様はシッポを振り下ろした
「何故我と花嫁の間を遮る」
「ヒッ、ヒィィ。も、申し訳ご、ございません」
うわぁ…物凄く怒っていらっしゃる。
陛下は腰が抜けてしまった様で這うように離れて行った。
気がつくと殿下が私の外套を捲り固結びされた紐を解いてくれた。私もぷっぷちゃんだけ置いて離れた方が良いと言う意味かしら?
ぷっぷちゃんを抱き上げ青龍様に顔を向かせようとしたら
「ぷぷっ」
しがみついて離れない。
「どうかしたの?怖いの?お腹空いたの?」
「何故小娘から離れないのだ?」
これは優しい言い方だからぷっぷちゃんに尋ねたのよね?青龍様ってぷっぷちゃんの言葉分かるのかしら?ラッサ将軍はいないし…
「ぷぷぷっ、ぷぷ〜」
「何!?」
凄いわ、分かるのね。感心していたら青龍様が私を見て
「小娘、本当か?」
「え?」
何?何を言ったのぷっぷちゃん
「今花嫁が言った事だ」
「ご、ごめんなさい。ちょっとわかりません」
青龍様の目元がピクリと動いた。縦の瞳孔が更に細くなり怖さが増す
「小娘、もしやと思うが花嫁の言葉がわからないのか?」
「は、はいっ!」
いや、普通動物や獣と会話なんかできないわよ!なんてそんな事とても言えない
はぁ〜〜〜
思いっきりため息をついてから青龍様は言った
「花嫁と血の契約をして名前を授けたと言うのは本当の事か?」
噛まれて舐められたのが血の契約で、名前をつけたのが授けた、と言う事なら本当よね。
コクリと頷いた
「小娘は…いや、いい」
あら、てっきり怒られるかと思ったわ。ほっと胸を撫で下ろしていたら
「花嫁は血の契約をし名前を授けてくれた小娘から離れたくないと言う」
ぷっぷちゃんのあの7文字位の言葉にそんな沢山の意味があったなんて
「ぷっぷちゃん、私の事は気にしなくていいのよ?青龍様困ってらっしゃるみたいだし」
「ぷぷっ、ぷっぷぷ」
「死にかけていた時拾ってもらい、風呂で溺れたとき助けてもらったと言っている」
ぷっぷちゃん!思わずギュッと抱きしめた。
「ぷっぷちゃん、そんなの気にしないで良いのよ」
風呂で溺れたって泥風呂のときよね?むしろアレは私のせいで溺れたのだし
「ぷ〜ぷぷ、ぷぷっぷ」
「何て優しい花嫁なんだ…小娘の間抜けている所を助けたいと言っている」
間抜けた所?
ブフッ
殿下とローラン兄様が同時に吹き出した
「ぷ、ぷっぷちゃん?」
まさか間抜けだと思っていたの?あんなに仲良しだと思っていたのに…
「時に小娘、先程から言っている『ぷっぷちゃん』とはまさか名前ではあるまいな?」
え?
「あの、ぷっぷとよく鳴いていたので…」
青龍様から圧が増した気がする。ダメな名前かしら…どうしましょう
「ほ、本名はプップリアン!プップリアーナ!いや、プップラーナ!」
咄嗟に出てしまった
「正気か?別に無理に長くする必要はないぞ」
うわぁぁん 怒ってる!食べられる?なるべく痛くないよう食べていただきたい
「まぁ良い。本人もぷっぷで気に入っているようだし」
じゃあ何故あんなに圧を…
「ふむ…仕方ない。我は花嫁と、ぷっぷと共にいるぞ。小娘、お前について行ってやる。感謝するが良い。」
ええぇ!?こんな大きな青龍様と一緒!?嫌だ!嫌だけど言えない
「ぷぷっ」
ぷっぷちゃんがやっと顔を上げた。
「ハハハッ!そうか嬉しいか…ん?ぷっぷ、そ、その髭はどうしたんだ?1本足りぬではないか」
!?あの時の!?
「ぷ〜」
「いつの間にか抜けていた、だと?」
ジロリと私を睨む青龍様。あの時私は1人だった。誰も見てはいないのよ。証拠なんかないのだから頑張れ私!下っ腹に力を入れ
「そ、そうなのです。いつの間にか…」
「ふむ…まぁ良い。その内ヒゲ生え薬を煎じてやろう。ちなみに小娘、名をなんと申す」
「ナ、ナディア・ド・マイヤーズと申します…」
「なんだ、普通の名だな。ナディア、世話になるぞ」
本当についてくるの?
ぷっぷちゃんに目をやるとキラキラした瞳で私を見上げていた。嬉しさが溢れるってきっとこうゆう事かしら?