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流されて帝国  作者: ギョラニスト
195/205

195話


「ちょ、ちょっと!」


「くっそ、結び目が固結びっっ」


 ダメだわ。殿下はこの状況に気づいていない。


「ああっ!もうっ!!」


 重たい腕を振り回しガシッっと殿下の髪の毛を掴んだ。


「何をするん、だ…ナ…」


 顔を上げ色々と気づいた殿下。遅いですわよ!


 聖女達の旋律が段々と聞こえなくなってくると身体は自由に動かせる様になってきた。けれど広場の端までも移動できなかった私達は逃げ道を失い、ぷっぷちゃんも逃がす事ができていない。


 私達の周りに5人程の兵士が槍を私達に向け、10人程の聖女がその周りを取り囲んでいる。


「あと2人どこへ行った!?どうせ結界からは出れないからキッチリ探せ」


 殿下の攻撃は処刑台と王宮の一部をメチャクチャにしてはいるけれど、多分人は傷つけていない感じだわ。この先ぷっぷちゃんを逃がす時間はあるかしら?


 ノアさんやコンラッドさんがこの場から逃げる事ができたとしても私達は…


 再び旋律が流れてきて身体の自由を失い兵士に両手を抱えられ広場中央に戻された。


 幸い?外套が大きくてボタンは掛かってないけれどぷっぷちゃんの姿は露わになってはいない。シッポだけ少し見えているけれど、誰も気付いていない様だわ。


 周りは騒然となっていて逃げ惑う来賓と貴族も多い中ふと視線を感じギョっとした。


 ブンブンと両手を振っているローラン兄様とその横にこれでもかと目を見開いたマーシャル殿下。これは知らないフリをするべきか助けを求めるべきか…


「小賢しいマネしやがって。アレは仲間か?」


 兵士の言葉に


「まさか。来賓や貴族に知り合いなんていないわ」


 やっぱりここは知らないフリをするしかないわよね。私は誰かに似ている風を装うのよ。


 それよりぷっぷちゃん旋律に合わせてシッポを振るのやめてほしい。


 恐怖、不安、焦りなどが振り切れてもうどうでもいいと言う気持ちになってきた。


 あぁもう一度温泉に入りたかったわ。最後に入ったのはミラちゃんとで、その後ぷっぷちゃんが死にかけて走り回ったり捕まったりして余韻は全然楽しめなかった。


 肩をグイっと押され地面に跪かされ目隠しをされそうになった時


「待て。そいつは俺が脅してやらされていただけだ。やるなら俺1人で充分だろ」


 殿下が言った


「なんだ?自分の嫁だけでも助けようってか?」


 薄ら笑いをしながら兵士が言うと


「いや、間違いなく俺がドレナバルから連れ回しているだけの娘だ」


「お前らドレナバルからきたのか?」


 ズイっとオーナー将軍がでてきた。


「あぁ」


「…ならば、あの国について知っている事を全て話してもらおう」


 これはもしかしたら隙ができる?


「その娘を放すのが先だ」


 オーナー将軍はヒソヒソと何人かの兵士に指示を出したようで、1人は陛下の元へもう1人は私を立たせた。


「今陛下のご裁可を仰いでいる。しばし待て」


 ゴクリ…本当にこの場を何とかできるのかもしれない。でも、それが殿下の犠牲の上にあるなんて絶対に嫌だわ。


 何とか…何かないのかしら?焦燥感に駆られていると


「あのぅ…」


振り返ってギョっとした


「その娘、僕の妹によく似ているのだけど、ちょっと話しさせてくれませんかぁ?」


 なっ、なっ、なんでローラン兄様がっ!いつの間に!?


 その緊張した場に全くそぐわない話し方でズイズイと私達に近寄ってくる。


 せっかく知らないフリをしたのに!


 殿下もオーナー将軍も驚き過ぎて言葉を発せないでいると


「なぁ、ナディアじゃないのか?」


 私の前にやってきてそんな事を言いだした。どうしましょう。ナチョスを名乗ったらもっともっと詐欺っぽくなってしまう。双子なら似た名前…


「さ、さ、サンチョスだす!」


「!?!!」


 ああぁ…ものすごい空気になってしまった。もう嫌だ!逃げたい!


「ソ、ソウダ。そいつのナマエはサンチョス!」


 殿下!!いいわよ!こんな所を合わせてくれなくて。


「い、いや、でもナディアだと思うんだよなぁ。お腹は出てるけど…ん?」


 お腹の話しが出た時、その場にいた人達が一斉に私のお腹に目が行った。そして旋律に合わせて揺れるぷっぷちゃんのシッポ


「きっ、貴様腹に何を隠している!?」


 キャー!ローラン兄様のバカーー!!慌てて外套の前をキッチリ合わせ


「隠してない!隠してないです!」


「その女を取り押えろ!」


 言うと同時に殿下が飛び出して来たけれど兵士に取り押えられ、私はあっさり捕まりバッっと外套の前を開けられた


「ヒッ!…ま、魔物だー!こっ、この女、腹に魔物を隠してるぞ!!」


 叫び声が響く渡り広場が更なるパニックに陥った。


 兵士達が一瞬動揺を見せ手を緩めた瞬間殿下は兵士を振り払い、私を掴んでいた手を振り解き2人で観衆に向かって走り出す


「誰でもいい!人質を獲るぞ!」


 走りながら殿下が言ったけれどみんな私達から逃げるじゃない!!


 誰も捕まえる事ができないでいる内にまたあの旋律が聞こえてくると、あろう事かぷっぷちゃんが旋律に合わせ鳴き声を上げだした


「ぷっぷっぷーぷー」


「ちょ!ぷっぷちゃん!?」


 嘘でしょう!?楽しそうに鳴き声をあげ更にシッポがリズムを刻みだした。


「ぷーぷぷっぷーーーー」


 聞いた事もない音量でぷっぷちゃんが鳴くと空に雲が湧き出し、逃げ惑う人達が更なるパニックに陥った。


「何なんだ!あの雲!」

「天変地異か!?」

「逃げろーー」


 お陰でとでも言えば良いのか誰も追ってこない。


 今の内に固結びになってしまった紐を解こうとした時何だか違和感を感じ見回すと、逃げ惑う人達の中に上を見上げている人がチラホラ目に入った。


 何?見上げると先程湧いた雲が真っ二つに割れ光が差し込んでいる。


 今度は一体何!?




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