194話
連れて行かれた王宮前広場横では、マッサーラ国王が拳を振り上げながら演説をしていた
「…この様に各国の聖女達が増え、とても喜ばしい。マッサーラでは今後も聖女をどんどんと増やす支援を今後も続ける事をここに約束しよう!」
ウォー!!
人々の声援らしき声が響き渡った。
聖女をどんどん増やす?マッサーラは聖女を増やす方法があると言う事?
「聖女を増やせると言う事は大聖女に匹敵する程の力を手に入ったと言う事!それは聖獣を手に入れたも同義!各国が我がマッサーラと手を組む事で独裁体制になっているドレナバルの一強など許してはならない!!」
演説はどんどんと熱を増し、一般市民はもとより貴族さえも拳を突き上げマッサーラ!!マッサーラ!!と叫んでいる。
狂気じみた人々の中、最前列の一部だけ冷ややかにそれを眺めている所があった。
「どうやらあの辺りが来賓席みたいだな。面白いくらい盛り下がってる」
それはそうでしょう。各国協力してと言ってはいるけれど、聖女増やしてやるから言う事聞けと言う事なのでしょう。
ドレナバル一強がマッサーラ一強、と言うより大陸全てをマッサーラに、もしくは属国にと言う事になりかねない。
私はそんな盛り下がっている貴賓席を目を皿の様にして見ていると
「いた!あれは…」
?おかしな人物が見えた様な…目をこすりもう一度貴賓席のある一点を見る。
まさか…
「どうした?ナディア、シャナルの国王は来ていないのか?」
手のひらにジワリと嫌な汗が浮かぶ
「い、いえ…いたのはマーシャル殿下と聖女アイリス…それに…」
殿下が怪訝そうにこちらをみた
「我が兄、ローラン・ド・マイヤーズが…」
「は?」
一体何故あの兄がヘラヘラとこんな所に…せめて一番上のカールお兄様なら助けになりそうなのに。
「2番目の兄です。遊学中でして…」
「ま、まぁ公爵家なら王族に連なる者で間違えてはないし、それより聖女アイリスはこちら側じゃないのか?」
殿下が指差したのは集団聖女。
本当だわ。ローランのせいで動揺してしまったけれど、マッサーラの何らかの力で聖女になった訳ではないのかしら?
「あと、聖獣を手に入れたも同義って言ったな。と言う事はマッサーラに聖獣が現れたってのはデマだったか…」
嫌だ…考えなければならない事が多すぎて頭がパンクしそう。
「皆の者!静粛に!手始めに我がマッサーラで罪を犯した者がどうなるかその目にしっかり焼き付けるが良い!!」
その言葉と同時に私達は広場の中央まで連れてこられ膜が弾けた。
ドサドサボトッ
イタタタぷっぷちゃんを庇ったら頭から落ちてしまった。
周りが騒ぎ出し再びマッサーラコールが激しくなる。ああぁ余計な事は考えいる場合ではない。今この場を何とかしなければ。
「この者達は神聖なる我がマッサーラにおいて人身売買などと言う不愉快極まりない行為を行い、更に売った娘を誘拐し別の場所に売ろうとした罪で捕縛された!先程正式な裁判において死刑を言い渡された罪人である!」
いつマッサーラが神聖な国になったのよ!?正式な裁判なんてカケラも無かったじゃない!言いたい事は盛りだくさんなのに現場はそれを許さない。
殿下の両手はパンパンに腫れ上がり今すぐにでも魔力を放出しそうだし、ノアさんは懐から何かを取り出している。コンラッドさんはお願いだから祈らないで!
その瞬間ノアさんが躊躇いもなく何かを地面に叩きつけ大量の煙が噴出された。
「今だ!」
殿下が人のいない辺りに手をかざし爆発させた。
人々の悲鳴と煙と爆音が轟く中、殿下に手を引かれ走り出すとあの不思議な旋律が聞こえてきた。聖女達の歌?
旋律は徐々に大きくなるにつれ身体が動かなくなってくる。何かに抑えつけられる様に手も足もどんどん上がらなくなり煙が薄まる頃私達は完全に地面に手と足を付いてしまった。
どこまで走ったのかよくわからないけれど、これは確実に詰んだ…ならば私がやる事は一つ
震える手を外套のボタンにかけ、死ぬ気でボタンを外す。中々上手くできないけれど一つ、また一つと着実に外し最後にぷっぷちゃんを落とさないよう結びつけていた紐を引っ張ろうとしたけれど手が届かない。
「俺が手伝う」
そう言って殿下が震える手を私の外套の中に入れ結び目を探す
「ぷっぷちゃん、さっき言った事覚えている?」
「ぷ」
「そうよ。いい子ね。私はちょっと行けないけれどぷっぷちゃん先に行ってて」
「ぷぷっ」
「私は後から行ければ行くから」
これなら嘘は言っていない。
お願い!ぷっぷちゃん!早く行くのよ!殿下!早く解いて!
「おい!こっちにもいるぞ!!」
煙が完全に収まり兵士が駆け寄ってくる。
ザワ…
「コイツらこんな所で乳くり合うとは…」
「何ていかがわしい」
は?
ぷっぷちゃんに気が行っていたから気がつかなかった。
殿下は私に跨り外套に手を入れまさぐっていた