193話
「何と言うか…本物の妊婦に見えてくるな」
「は?」
せっかく真顔でピシリと言ったのにその感想はおかしくないかしら?
「いや、悪い意味じゃないぞ。ゴホン…で、寝ているぷっぷをどう逃すんだ?叩き起こすのか?処刑されそうな時に起こす時間は無いと思うんだが」
どこが悪い意味じゃないのかわからないけれど、殿下の疑問はもっともよね。
「処刑場に行く前に起こそうと思っています。少しの間なら大人しくしているでしょう」
最近は意思疎通も図れているし。とりあえずマッサーラだけでなく悪意のある他国にぷっぷちゃんが渡らないようにしなくては…
エアリーとグレタの事が頭をよぎる。2人はは私がシャナルを出た時からずっと私の事を考え私の事を常に考えてくれた。私付きだったせいで再就職もできず、お嫁にも行けないかもしれない。更にぷっぷちゃんがマッサーラに捕まってドレナバルが落ちぶれたらあの2人が野垂れ死にしてしまうかもしれない。
絶対そんな事はさせない!
アイラさんやコニーさんと違って腕一本でどこでも生きていける訳ではないもの。静かにメラメラと闘志を燃やしている内に朝になった事をステンドグラス越しの明かりで知る。
信じられない事に殿下はグッスリ眠っている。処刑されたらいくらでも眠る事なんてできるじゃない。
イライラしながらとりあえず起こしましょうと声をかける。
「ディラン殿下、朝ですよ」
ピクリと瞼が動いた後うっすら目を開ける
「おはようございます。ディラン殿下」
「あ?」
その瞬間へラリと笑を浮かべ再び眠りについた。
待って待って待って
「ディラン殿下、ア・サですよ!」
「あぁ…眩しいな…」
あくびをしながら起き上がり再びへラリと笑った
「良い夢でもご覧になりましたか?」
処刑される朝になんて図太い
「いや。夢も見ないでグッスリ眠ってた。誰かに朝日の中起こされるのは…何か…幸せだな」
寝起きなのに眩しいくらいの笑顔で言った。処刑される朝に幸せを感じられる殿下…一瞬だけ不憫かもと思ったけれど、もしかして恐怖のあまりおかしくなってしまったのかしら?
「お前今不敬な事考えだだろう」
「トンデモゴザイマセン」
私達は無言でその時を待っていた。
ノアさんは相変わらず小道具を出しては悶絶していて、コンラッドさんは祈りだした。巫女の息子が祈るのは不吉でならないのてすが…
「なぁナディア、あの大量の聖女をどう思う?」
仰向けになり両腕を枕にして寛いでいる殿下が言った。
「どう…ですか?」
「ん〜アイラやヒューズが聖女の力を得た様にあそこにいた者達も中途聖女かと思って」
確かにそうね。何故こんなに急に聖女が増えるのかしら?一つの国に1〜2名いれば素晴らしいと重宝される聖女があんなに沢山…
「何かしらの方法があるのでしょうか?誰でもがなれるみたいな…」
「誰でも…ではないだろうな。実際俺やナディアはなっていない。アイラ達と同じ様に行動していた兵士だって沢山いたのに聖女の力を得たのは一部だったし」
本当だわ。だとしたらマーシャル殿下が選んだ聖女アイリスも…その時
ギィィ
不吉な音をたてて扉が開いた。しまった!ぷっぷちゃん起こすの忘れていたわ!
「どうだ?最後の夜はよく眠れたか?」
嬉しそうにオーナー将軍が入ってきた。
「良い知らせだ。処刑は俺が行う事になった。なるべく早く済ませてやるから安心しろ」
人の処刑の何がそんなに嬉しいのか…
私達は膜に包まれたまま部屋を出た。
ふよふよと浮かぶ膜を動かしているのは後ろから付いてくる聖女らしき人達。20名位いるだろうか…この人達が動かしているのは間違いない。
昨日あんなに沢山いたのは結界のせい?一人一人の力は大した事なくても沢山いれば広大な敷地も結界が張れると言うこと?
多分何かしら大量に聖女を誕生させる方法があるのよね?
例えばそれが聖獣の力だとしたら、この国に聖獣がいると言うのは間違いないら、だとしたら…ぷっぷちゃんはやはりただの魔物?ただの魔物ならここから逃したらきっと生きていけるわよね?
外套の上のボタンを外し声をかけてみる
「ぷっぷちゃん、起きて?」
「…」
ピクリともしないぷっぷちゃん
「起きないか?殴った方がいいか?」
殿下が横ヤリを入れてきた
「ぷっぷちゃんに酷い事するのはやめてください。」
本当に乱暴なのだから。
「ぷっぷちゃん?起きないと怖いおじさんに連れて行かれるわよ?」
「…ぷ」
かろうじて目を開けましたよと言わんばかりの不機嫌さ…やはり冬眠なのかしら?
「ぷっぷちゃん、良く聞いて。これから…」
…私達は処刑されるから逃げるのよとは言いたくない。
「騒動が起こるかもしれないのよ。もし私に何かあってもぷっぷちゃんはちゃんと逃げるのよ」
「ぷ、ぷっぷぷぷ」
「そう。必ず逃げて。野良魔物になって苦労するかもしれないけれど幸せになってね」
「ぷっぷーーー」
何か叫だけれど、きっと『わかったーーー』って言ったのね。
出口が近づくにつれ外の騒めきが聞こえてくる。建物の扉を出ると騒めきが一層と大きくなった。式典の最中らしい
「ここで少し待機だ。この後陛下の演説の後だから」
ご丁寧に進行具合を説明してくれるオーナー将軍…心の底から嬉しそうで腹が立つ。
いつか丸ハゲになればいいのに