192話
ザッザッザッザッ
どんどんと兵士が増え辺りをしらみ潰しに探している。私は声も出せずバラの植え込みで息を潜めていりと
「まだ遠くに行ってない!ネズミ1匹取り逃がすな!」
ヒィ〜こんなの絶対見つかってしまう
サクサクサクサク
あら?違う足音が聞こえるけれど、茂みの下からでは何も分からない。もしかして何かしら助けが来たとかかしら?
頭を上げ見てみたいけれど殿下が私の頭をガッチリ抑えている。上げるなって事よね。そんな事はわかっているわよ
「聖女様!いらしてくださったのですね!この辺りに隠れているのでお願いします」
どうやらサクサクの方は聖女様らしい。
「「「私達が来ましたのでもう大丈夫です」」」
私達?複数の声が聞こえたかと思ったら何やら歌うような旋律が聞こえてきた。
!?!?
頭を抑えつけていた殿下ごと身体が浮き上がる!
抗う事もできず私と殿下、少し離れた所でコンラッドさんやノアさんまでも薄い膜に包まれフヨフヨと上がっていく。
何これ!?膜のような物は叩いても引っ掻いても破れない。
どんどんと浮き上がり兵士達の頭上辺りで上昇が止まった。ふと見回すと兵士達の周りに白装束を着た人達が祈る様に手を組み旋律を唱えている。
その数ざっと見ても数百人、老若男女問わずいる。あの人たちは聖女?多すぎない?
「4人全員捕縛完了!」
え?一瞬コーデリアさんは?と思ったけれど、ノアさんが捕まっているので人数の辻褄は合っている。それならコーデリアさんはまだどこかに隠れているか紛れている?
私達は膜に包まれたまま神殿の様な白く大きな建物の中に運ばれて、何やら模様が描かれた広い部屋に入れられた。
ちなみにふよふよと浮かんだまま
「しばらくここにいて沙汰を待つが良い」
兵士はそう言って施錠し去って行った。私達は膜に包まれたまま閉じこめられた
「捕まってしまいましたね」
「あぁそうだな」
全く気持ちのこもっていない返事にイラッとして振り返ると、どこから取り出したのか小型のナイフで膜をカリカリ削っている。
コンラッドさんも膜の中で暴れているし、ノアさんは何かを爆発させたのか膜の中が煙が充満して咽せている様だわ。
近いのに不思議と全く音が聞こえない
「ディラン殿下出れそうですか?」
「この膜傷一つつかないな」
諦めているからなのか淡々とした返事が返ってきた。
これはいよいよダメかもしれない。
この後名ばかりの裁判が行われ大衆の面前で処刑される事になる。処刑された後、私が妊婦でない事がわかったら少しは汚名は晴れるのかしら?
…それっぽっちの汚名なんて何て事ないわね。嫁に行く予定だったドレナバルで悪名を轟かせ犯罪者になって処刑された女。きっとここに来ているであろう陛下達はシャナルに帰ってそんな風に言うのだわ。
そして私は死んでも死にきれずひたすら怨霊となってこの辺りを彷徨うのかしら?しかもぷっぷちゃんはマッサーラに捕まって生まれた聖獣はマッサーラを豊かにし、ドレナバルは落ちぶれる…
頭に浮かんだ未来に絶望していると
「一応俺の予定では処刑される直前に魔力を解き放つつもりでいる。そんなに考え込むな」
真顔でそんな声をかけ頭をぽんぽんしてきた。殿下はいつもポジティブな考えをかなりしている。
「上手く行くとお思いですか?」
冷え切った眼差しで聞くと、キョトンとした顔で
「どこに失敗する要素があるんだ?」
「は?」
「まぁ辺りはめちゃくちゃになるが、なるべく死者も怪我人も出さないつもりだ」
「ディラン殿下の魔力も力加減も不安定なのに!?いざと言う時魔力が溜まっていなかったらどうなさるおつもりで!?それにうっかり来賓の人を死なせたり怪我をさせたりしたらっドレナバルだってただじゃ済まないのに!」
そんな事も考えられないなんて頭が弱いは案外当たっているのでは!?頭に来過ぎて涙がボロボロ溢れてくる
「魔力は大分溜まっている。ただ何らかの力で魔力が相殺される事はあるかもしれないな」
少し困った顔をした殿下が指で涙を拭きながら言った。
そこまで考えているの?なら何故…
「いざとなったら俺が身分を明かす。その場で処刑はなくなるはずだ。ナディアは脅されて連れ回されたと言う事にすれば…」
「何を馬鹿な事を!?そんな事をしたらっ…」
「残念だがドレナバルの跡継ぎは俺じゃなくても他にいくらでもいる。でも今考えなければならないのはソコじゃない。とりあえず処刑を回避して逃げる事だけ考えるんだ」
殿下は始めから最後の手段としてそんな事を考えていたの?
でもね殿下、先程はカリカリと膜を削っていたナイフ、今は柄を握りしめてガンガン膜を刺していましてよ
程なくして兵士がやってきて私達は再び別室に連れて行かれた。広めなその部屋の正面壇上に3人、両サイドに3人ずつ人が並んで座っている。内1人はオーナー将軍だわ。
「人身売買及び売った娘を攫い、更なる売買を行うとは言語道断!よって死刑を言い渡す」
早すぎない!?わかってはいたけれど、これが裁判とは酷過ぎる。ただの申し渡しよね
「明日の式典後刑を執行する!」
私達は再び先程の部屋に戻されたが、相変わらず膜に包まれたまま。どうやら外の声は聞こえるけれど膜の中の声や音は外には聞こえないらしい。コンラッドさんやノアさんが何か言っているようだけれど何も聞こえない。
「殿下、一つ提案があるのですが」
「ん?何だ?」
「もし、刑が執行されたり殿下が身分を明かす様な事態になったら…」
私はそっとお腹を撫でた
「ぷっぷちゃんを逃がそうと思ってます」