188話
太陽が目に沁みる。どれだけ泣いたのか…きっと目も腫れていそう。
エアリーやグレタがこの場にいない事を感謝した。きっと凄く叱られそう
洞穴を出てものの数分で道が出てきた。昨晩はあんなに探したのに…はやり呪い系の何かが私にかけられたに違いない。
「お〜い」
後ろから聞き覚えのある声が
「無事見つかったんだな」
コンラッドさん!頭の輪っかがなくなっている!
「あぁ。色々あったが無事だ」
「すみません、ご心配をおかけしました」
「あれ?何?泣いてたの?寂しかったのですか?ナディア様」
ニヤニヤしながら話しかけてくるコンラッドさん。腹の立つ顔だわ
「え?何か…おっきくなってない?ぷっぷ様」
「あ〜…それも含めて宿で話すわ」
殿下はそう答えると無言で歩きだした。
無事宿に辿り着き、ぷっぷちゃんを縦に抱っこしてその上から更にコンラッドさんの外套を羽織り隠して入った。
流石にこんなに魔物チックなぷっぷちゃんをそのまま連れては行けない。ちょっとだけ私が太って見えるかもしれないけれど、仕方がない。
「おかえりなさい、ナディア様。ご無事で何よりですわ」
笑顔のコーデリアさんが出迎えてくれた。癒される…
ノアさんはまだ戻ってきていない様で、ウィンディアさんは殿下の命令で1人飛んでドレナバルへ行ったと聞かされた。
私はビリビリになった服を着替えてから、コンラッドさんが下の厨房で頼んだ軽食をいただきながら事の経緯を一通り説明する
「って事はぷっぷ様は爆発じゃなくて、脱皮だったって事か?」
コンラッドさんの質問に首を傾げる
「トカゲって脱皮するものですか?」
「あんまり聞いた事ないが…」
殿下も不思議そう。
「そもそもぷっぷ様はトカゲではなく聖獣の卵を産む存在だから、そんな事もあるのではないかしら?」
コーデリアさん、またそんないい加減な…聖獣に関してもあやふやなのだから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけれど。
私的には殿下がぷっぷちゃんや聖獣の力をそこまで必要としていない発言で凄く心が軽くなったから、ただのペットのぷっぷちゃんでもう良いような気もしているし。
ゴン、ゴンゴン 突然のノック音にみんなで顔を見合わせた。ノアさんならノックも無しに窓とかから入ってくるわよね。
「おい!ぷっぷを隠せ。この宿屋はペット禁止だ!」
そうだったの!?急いでぷっぷちゃんを縦に抱き殿下の外套を羽織ると同時に扉が開き、見知らぬ制服を着た人達がなだれ込んできた。
「ここに昨日娼館に村娘を売り飛ばした輩がいると聞いた。お前達で間違いないか?」
宿屋のおじさんではないの!?しかも制服を着た人達が沢山いる。
嫌な予感しかしない
「これは憲兵の皆さんおそろいで…ちゃんと合法な手続きで引き取ってもらいましたが、何か?」
コンラッドさんが悪人のごとく答えると
「昨晩その村娘、ナチョスと言う名の娘が行方不明になった。お前達まさか売った娘を攫い再び違う娼館に売りに行くのではないだろうな?」
いやーー!!私の事!?そう言えばぷっぷちゃんの事で娼館に伝言を頼むのをすっかり忘れていたわ。
「いずれにせよお前達にナチョス嬢誘拐の疑いかかかっている。全員ひっ捕えろ!」
「ま、待って下さい!」
ここで私がそのナチョスで道に迷っていたと証言すれば捕まらずに済む。でないと今ここで捕まり娼館の将軍オーナーと鉢合わせて処刑されてしまうわ!私は後から助けてもらえば済む話しよ。
「わっ、私がそのナチョスです。お風呂の帰りに道に迷ってしまって、決して誘拐された訳ではないのです」
言えたわ。これで何とかこの場をしのげる。
「…」
憲兵の人達はヒソヒソと話し合いを始め
「確かに年の頃はあっているし、人相書きにも似ている気もする。だがこの人相書きには中肉中背となっている。お前は、その…」
?何かしら?私が正真正銘ナチョスよ
「ゴホン…ナチョス嬢は太ってはいない」
は?太って…?目線を下にさげるとふっくらを通り越してたっぷりとしたお腹が…
「ち、違わないです。私は本当にナチョスで、このお腹は…」
何と言えばいいの?この中のぷっぷちゃんの事だけは隠さないと。
「ちょっと食べ過ぎただけです」
「ちょっと食べ過ぎただけでそんな腹にはならん!ちなみに妊婦ではないな?」
「ち、違います!妊婦では…」
…妊婦を語った方が良いかしら?その方が酷い目に合わないとか?一瞬考え込んでしまっている内に
「早く縄を!その女性は妊婦の可能性もあるから胴は縛るな!」
あっという間に手首に縄をかけられ、殿下達は腰にも巻かれていた。
ああぁまた牢に…
私達は速やかに町の留置所に連れて行かれ2人ずつ男女別に牢につながれた。
殿下もコンラッドさんもとても落ち着いて捕まっていたので大丈夫よね?何か手段があるのよね?例えばノアさんが色々とぶち壊しながら助けに来るとか。
私はドレナバルに来てすっかり肝の座った人間になってしまった気がする。こんな状況でもきっと何とかなると思っている。
大丈夫よね?私はまだ公爵令嬢を名乗っていいのよね?
コツコツコツ
複数の足音が聞こえこちらに向かってくる気配。私とコーデリアさんは無言で身を寄せ合いジッとしていると隣の殿下達の牢から声が聞こえてきた
「ナチョス嬢を売りに来たのはこの2人で間違いないか?」
憲兵さん達だわ
「あぁ、そうだね。この2人で間違いないよ」
この声は女将さん。
「ったく…売ったその日に誘拐だなんてアタシも舐められたモンさ」
ブツブツ文句を言いながらこちらに近づいてくる
「ナチョスさ…ん?」
この声はミラちゃん?
「ミラち…」
「…ではないみたいです」
え?ミラちゃん?すると横から顔を出した女将さんが
「本当だ。顔はナチョスだけど身体が…」
「ナチョスさんはこんなふくよかな方ではありません。双子か何かですよ!」
「身体もそうだけど足もあんなに太くなかったわよ」
足は昨日と同じですけど!?
「ふむ…双子を利用してまで、ましてや妊婦を連れて一体何を企んでいる?」
酷い!私はナチョスで妊婦でもない!反論したい!
すると隣の牢からコンラッドさんが
「企むだなんて人聞きの悪い。ナチョスは娼館に売った後の事は知らんし、そっちの牢にいるのはこの隣にいる男の嫁だ」
何ですって!?私を妊婦で通すつもり!?
「そうなのか?」
くぅ…ここで妊婦ではないと言い張ればぷっぷちゃんが危ない。
「そう…です」
不本意!不本意だわ!でもここは我慢よ…