181話
皆んなが固唾を飲む中
「…聖獣ではないわね」
え?え?えっ…違うの!?
「…間違いないのか?」
殿下が驚いた様な落胆した様な声で聞く
「ええ。まず第一に私と会話できないもの」
てっきりぷっぷちゃんは聖獣なのだと思っていたわ。人をどこかに飛ばしてしまったりする力を持っているのに。
どうしましょう。ハイドンにいる市民達はぷっぷちゃんを聖獣だと思い込んでいる。このまま違いました、と言いながら戻ったら暴動が起きるわね。
それよりコーデリアさん聖獣と会話できるの?本当に?ちょっと疑いたくなる。こんな不思議な力を持ったぷっぷちゃんが聖獣ではないとしたら一体…やっぱり魔物なのかしら?
「第二に天変地異が続いているわ。私がコンラッドと合流した時、東の国では大嵐に襲われたと聞いたし、ここが本当にマッサーラであったならここまで氷に覆われたりしない。他の国に聖獣が現れていて他国にソレが起こるよう願ったか、まだ現れていないか…もしくは…」
もしくは…何?聞きたいけれど誰も一言も発っせない。私も言葉が出ない。
「古い文献に二度程しか書かれていない聖獣の卵を産む母体か…多分これが一番近い様な気がするが、千年以上綴られた文献に2回しか出て来ないから何とも言えない」
卵を産む…母体?お母さん…え、
「ぷっぷちゃん…は、女の子…?」
「…ナディア…今言うべき言葉はソレじゃない…それより…」
コホン…そうよね。ウッカリ反応してしまった。
殿下は言葉を続けた
「それにしてもマズイな。ハイドンにいる市民はぷっぷを聖獣だと思い込んでるし、もしここでぷっぷが卵を産む様な事があれば…」
「マズすぎるっすね。3人の頭の魔道具、最悪ドレナバルに戻ってから何とかなると思ってたけど、こうなると話しが全然変わっちまう」
今ここで私達が捕まって、ウッカリぷっぷちゃんが卵を産んだら…卵はマッサーラの物になってしまう?皆んな無言で考え込んでいるとノアさんが
「俺、ちょっと情報収集してくるわ」
と席を立っていった。コンラッドさんも行きたそうにしたけれど、頭の輪っかに気づいて腰を下ろした。
「牢で言っていたぷっぷが飛ばしたとはどうゆう意味なのかしら?」
コーデリアさんが尋ねると
「ぷっぷは何度か人を飛ばしたんですよ。瞬間移動とでも言えばいいのか…なのでてっきり俺は…」
悔しそうな顰めっ面で殿下が答えた。
やっぱりぷっぷちゃんが聖獣であった方が嬉しいわよね?まぁどの国も欲しがっているし、いてくれれば国は栄える。逆に他国に現れたらドレナバルが脅かされる。皇太子としてはそりゃあいてほしいわよね。ハイドンに大手を振って帰れるし。
その後は巫女様にぷっぷちゃんと出会った経緯を一通り話したり、物珍しいのか薪ストーブをいじりまくる殿下に説明をしたりしながらノアさんの帰りを待った。
私達は一応ニ部屋取っていたけれど、何かあった時の為一部屋で固まって待っていて、女性は横になって身体を休めろと殿下の一声で、話し合いの末私とコーデリアさんがベッドに、ウィンディアさんはソファで横になっていた。
「ただいまー腹減った〜」
そんなセリフを言いながらノアさんが帰ってきたのは明け方近くで、私達はベッドから飛び出た。とてもではないが眠る事なんか出来ない
「どうだった?」
「ん〜やっぱここはマッサーラだったな。馬車で3日もあれば王都のセラーゼに着いちまう近さ」
えっ、そんなに近いの。マッサーラはドレナバル同様かなりの大国だけれど、ドレナバルと違い国の中央に王都がある。せいぜいコバネルとの国境付近かと思っていた。
「…クッソ」
何だか久しぶりに殿下の素を見たような気がする。すぐ立て直した殿下は
「憲兵や兵士がうろついてたりはしなかったか?」
「まぁ概ね正常通り。皆んなこの寒さでそれどころじゃないらしい。異常気象だとか何とか」
「不幸中の幸いだな。まだバレてないって事か」
「え!?じゃあ誰がコーデリアさん達を拉致しようとしたの?」
てっきりマッサーラの仕業だと思っていたわ。するとコーデリアさんは少し考えて
「…さぁ?」
さぁ!?え、知らないの?
「母…巫女は常に狙われていたからな。主にアリステア教皇公国に。俺とウィンディア殿は別行動でオルストに行く事にしていたんだ。先に俺が母と合流し、その後オルストにある教会で待ち合わせの予定をした」
「我は空を飛んだ方が早いし安全だったから、少し後に出発したんだ。で、待ち合わせの教会で3人揃った所で魔法陣が発動した。気づいた時には魔道具をつけられた状態で牢の中さ。我の鳥が知らせたのだろ?行方不明は」
じゃあ一体誰が何の目的で…てっきり私達と接触させない為に拉致されたのだと思っていたけれど、コーデリアさんは元々常に狙われていて偶々今拉致された?
…偶々?このタイミングで?ダメだわ、全っ然わからない。
「あと、娼館の娘が教えてくれたんだけど、この間どっかの国のお偉いさん一行がフーネリア行く途中ここに立ち寄ったって」
!!
「ノア…テメェ娼館に…いや、それは今はいい。この間っていつだ!どっかの国ってどこだ!?お偉い一行って誰で何人いたんだ!?」
「うっ…ディ、ラン」
えええ!?
ここで殿下ダダ漏れ!?私とコーデリアさん以外が蹲っていると
「お?俺の魔力戻ってきたのか?」
手をグーパーしながらのん気に殿下が言った。
「バカな事言ってないでさっさと魔力しまってください!」
コーデリアさんもご高齢だけど、魔力を封じられているウィンディアさんは更に高齢なのよ!ソファに行き背中を摩っていると
「あ、悪い」
全く!殿下もだけど、ノアさんも最低だわ!私達待たせて娼館とか!大体今の情報が一番大事じゃない!!