177話
その後ノアさんが迎えに来てくれたので、ぷっぷちゃんを肩に乗せ殿下の元へ向かった。
「あぁ、寛いでいる所悪かった。ちょっとそこに掛けて待っててくれ」
久しぶりに会った殿下は盗賊容姿に戻っていた。
髪も髭も伸び放題で殿下の忙しさを物語っていて、同様にセラさんのヅラはずれている。
コンコンコン
「入れ」
「殿下遅くなりました。昼に帰還し、今し方全ての搬入を終えました」
入ってきたのはラッサ将軍とリシャールさん。
久しぶりに見た2人の窶れっぷりが凄い事になっている。ラッサ将軍はダンディさがなりを潜めて初老に差し掛かっているし、リシャールさんは萎んで目が血走っている。
「ご苦労だった。これでひと月は何とかなるだろう」
そのまま2人は席に着き色々と殿下に報告を始める。
2人はフォールダー領から川を遡上して物資をここまで運んできたらしい。
凄いわ…川を逆に進むってきっと魔法でよね。これは近い内にリシャールさんの愚痴を聞いてあげる必要があるのかも。
あら?だから私はここに呼ばれたのかしら?
「大体わかった。で?あっちの方は?どうにかなりそうか?」
あっち?
「なかなか厳しいかと…ただ、ウィンディア殿の拘束さえ取れれば…」
ウィンディア様!何かあったのかしら?
「ふむ…ナディア、コンラッドに巫女を連れて来るよう頼んだのは覚えてるだろ?」
殿下が私を振り返り言った
「ええ。もちろん」
今のところぷっぷちゃんの判定ができるのは、コンラッドさんのお母様、オルスト神聖国の巫女だけだ。
「ウィンディアに同行を頼んでみたんだ。もちろんコンラッドの許可を得た上で。だが無事合流したと連絡があった後、連絡が途絶えていたんだ」
何て事…でもさっきウィンディアさんの拘束が解ければって言っていた。
「何者かに捕まっていると言う事ですか?」
「あぁ。対岸にある小国の内の一つにコバネルと言う国があるんだが、どうやらそこにいると情報が入った。そこで頼みがあるんだが…」
そこで言葉を切り殿下はぷっぷちゃんを見た。
ピンときたわ!
「まさかと思いますが、ぷっぷちゃんに飛ばしてもらおうとか思ってませんか?」
「…まぁ…」
「正気ですか?飛ばされたのはぷっぷちゃんの力だとは限らないのに?」
「ナディアの言う事は分かる。分かるが試してみてもいいんじゃないか?対岸の特に川沿いはほぼマッサーラの配下の国だ。属国と言っていい。そんな所に3人捕えられているかも知れないんだぞ」
くぅ…情に訴えてきたわね。
ウィンディアさんやコンラッドさんには色々お世話になった。何よりぷっぷちゃんの為に巫女様を連れてこようとしてくれたのだから助けられるならもちろん助けたい。
でも上手くいかなかったら…
「ナディア様、別に上手くいかなかったからと言ってぷっぷちゃんをどうこうするつもりはないですよ。ただ現状、人も魔力も足りない中少数精鋭で行って、3人を助ける事ができればと言うのがディランの考えなんだ。一回お試しでいいから頼めないかな?」
真摯に諭してくるセラさん。
そうよね…試すだけならやってもいいかも知れない
「わかりました、やってみます」
「ありがとうナディア。よし、今メンバーを連れてくるからここで待っててくれ。セラ!」
「あぁ!今呼んでくる」
そう言ってセラさんは部屋をでた。殿下は引き続きラッサ将軍とリシャールさんから他の報告を受けている。
ふとぷっぷちゃんと目が合った。あなたは本当に人を瞬間移動させる力なんてあるの?
あら?
「ディ、ディラン殿下!大変!」
「何だ?」
「ぷっぷちゃん寝そうです」
「何だと!?」
殿下は駆け寄りぷっぷちゃんをつついたり、尻尾を振り回したりし出した
「おい!コラ!寝るな!ぷっぷ起きろ!」
ZZZ…
ぷっぷちゃんは私の肩に乗ったまま眠ってしまった…
「ぷっぷ殿まだ本調子ではないのかも知れませんよ?明日の朝にしてみては?」
ラッサ将軍…
「ぷっぷの通訳のラッサが言うなら、そうなのも知れないな…」
「いや、私は通訳では…」
「そうですね…私、一旦戻ります」
ラッサ将軍が何か言っていたけど、とっとと部屋を後にしようとしたら殿下がやってきた
「部屋まで送ろう」
「ありがとうございます」
特に何を話すでもなく私の部屋に辿り着くと
「明日朝食後にぷっぷを連れて俺の部屋まで来てくれ。迎えをやるから、ぷっぷが起きていても寝ていてもかまわん」
「わかりましたわ。ではおやすみなさいませ」
「あぁおやすみ」
凄い。殿下が気の利いた人になっている。などと考えていたら扉を開けた瞬間4人が中腰で聞き耳をたてたまま固まっていた。
「何をしているのかしら?」
「扉の蝶番の確認をしていたんだ」
「そうなの。ギィ〜って音がして」
アイラさんとコニーさんが何やら必死に説明している。バレないとでも思ったのかしら?
まぁいいわ
「実はね…」
部屋に入ってから、これまでの経緯と明日の朝について軽く説明をしてベッドに入った。
桶に戻したぷっぷちゃんを眺めながら、明日上手く行くといいなと思いながらいつの間にか眠りについた。
翌朝朝食を取っていると
「ぷっぷ」
「あらぷっぷちゃん起きたのね。おはよう」
「ぷ〜」
朝の挨拶ができて偉いわ。かわいい
でも起きたと言う事はあの作戦を実行すると言う事ね。何だか落ち着かなくて朝食を少し残してしまった。
「じゃあちょっと行ってくるわ。留守番よろしくね」
今朝もノアさんが迎えに来てくれたので、ぷっぷちゃんを肩に乗せ執務室に向かう。
ドキドキするわね…これはきっと何かの試験に挑む我が子を見るような親心かもしれない