174話
びっくりした。普段冷静なエアリーがそんな事言うなんて
「エアリー、そんな事したら…」
「そうですよ!!そもそも瞬間移動したりするんですから聖獣なんじゃないですか?」
「グレタまでバカな事言わないで。違ったら後が大変でしょ!」
全く何を言いだすのか…
「その時はその時!ぷっぷちゃんを生贄にして私達も騙されたって事にしましょう!」
「ぷ!?」
「やめてちょうだい。ぷっぷちゃんを生贄になんてしません!」
生贄かもと言う恐怖は誰よりも知っているわ。そんな思いをぷっぷちゃんにさせる訳にはいかないわよ!
「いや、良いかもしれない。少なくとも他の国からの直接的な攻撃は減るし、この王都の市民達だって一発で黙らせる事ができる」
「アイラさん!ダメですって!そんな騙す様なマネして違ったら暴動じゃ済まないですよ」
「殿下達への報告は王宮に着き次第僕がやります。」
フレデリックさん!?
…あぁそうだった…ドレナバル人は人の話を聞かない上に、話しが盛り上がるとどこまでも突き抜けてしまう。
こうなったら誰よりも早く殿下を捕まえて皆んなを止めてってお願いしよう。誠心誠意心を込めてお願いしたら聞いてくれるわよね?
幌馬車の後ろからの景色を見る限り、王宮に近づくにつれ道は広い石畳に整備され町並みが整いつつあるように見える。
人はあまりいなくて生活感は無いけれど、ここに人が居たら活気ある素敵な街になりそう。人が沢山住んでくれればだけれど。
程なくして馬車が静かに停止した。
王宮に着いたのかしら?アイラさんの手を借り馬車から降りると………
「今度の王宮は平屋なのかしら?」
思わず口から出てしまった。するとフレデリックさんが
「いえいえ、とりあえず民達の住む場所の確保をと言う殿下の意向に沿った為、王宮は後回しになったようです」
なるほどね。殿下らしいと言えば殿下らしい。
王宮に入ると大きなホール状になっているけれどそこには人、人、人で溢れ返っていた。
先に馬車で移動してきた人達がそこで足止めをされているらしく、ひしめき合うと言うより袋に詰められたジャガイモのようにごった返している。
この後も人は来るのにと思っていたら、いた!殿下だわ!セラさんやラッサ将軍と一緒にいる。
人を掻き分け進もうと足を踏み出した瞬間
「フグッ!!」
何かに身体を引っ張られた。
「ナディア様?どちらにおいでになさるつもりで?」
恐ろしく低い声でエアリーが尋ねてきた。
そうだった…鎖魔法がかかっていたわ。
「い、いえね…」
どうしましょう。エアリーが怖い
「で、んかをお見かけしたのよ。ディラン殿下を!嬉しくて駆け寄りたくなってしまったの」
「まぁ!それでは仕方ありませんね。私はてっきり何かに興味を惹かれお一人で行こうとしているのだとばかり…失礼いたしました。では一緒に参りましょう」
え?一緒じゃダメなのよ!私1人で殿下に会ってぷっぷちゃんの事をお願いしたいのよ。確認が取れるまで、どこでも良いから人目につかない場所に避難させたい。
「あ、殿下が気づいた様です。こちらにいらっしゃいますね」
ニヤニヤとグレタが言った。何よ?その笑いは…
それよりもここは何としても殿下を捕まえましょう!
「ナディア!」
「ディラン殿下!」
まるでオペラのワンシーンの様に2人手を取り合う。
「話しがあるんだ!」
「お話しがあるんです!」
凄い。今日は殿下ととても気が合うわ。私達は見つめ合いうなづく。
「よし。今から執務室へ行くぞ。セラ、後は任せた」
殿下は私の手を取り人混みを掻き分け進み、廊下を幾つか曲がり殿下の執務室らしき所へ入った。
私に続き他の人達も全員着いてきたけれど、ここは先手必勝。
「ぷっぷの事なんだが…」
「ぷっぷちゃんの事なのですが、」
本当に今日は殿下と気が合う。何だか良い予感がするわ
「頼む!とりあえずぷっぷを聖獣として扱わせてくれ」
「ぷっぷちゃんを聖獣だと確認取れるまでどこかに避難させてくれませんか?」
………
「殿下、僕達もそれを言おうと思っていたんですよ。…ナディア様は嫌がっておいででしたが…」
フレデリックさんが気遣わしげに私を見て言う。
私と殿下はとことん相性が悪いらしい。まさか皆んなと同じ風に考えていたなんて…でもここは私が止めないと!
「ディラン殿下、私は反対です。違った場合はどうなさるおつもりですか?他国からは一斉に攻撃されて、国民からは顰蹙を買った挙句暴動だって起きるかもしれません。そうなったら皇室もぷっぷちゃんもタダでは済みません」
「まぁ、そうなんだが、多分ぷっぷで間違い無いと思わないか?」
言ってる事がグレタと一緒じゃない。大国の皇太子がコレでいいの⁈
「ではもし違った場合は?」
ここが一番大事よ!
「う〜ん…そしたらぷっぷ連れて皆んなで逃げるか」
何て事無いとでも言わんばかりにニカっと笑って殿下は言った。本当に本心なの?
「では…ぷっぷちゃんのせいにして、私達は知りませんでしたなんて事には…」
「ナディア…お前そんな酷いこと考えてたのか?」
愕然とした顔で私を見ている
「はい!?私じゃありませんよ!」
バッと皆んなの方を見ると、誰一人目が合わず皆んなあらぬ方を見ていた…
みんな覚えておきなさいよ