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流されて帝国  作者: ギョラニスト
173/205

173話


「ちょっとここで待っていて下さい」


 フレデリックさんは走って人集りに入って行った。


「何かあったのでしょうか?」


「何か変だねぇ。フレデリックってこうゆう手際は凄く良いのに」


 グレタとコニーさんの立ち話を横目に人集りの奥を見ていると誰かが物凄く文句を言っていた。


 アレはマデリーン様?少しふくよかになられた様な?少し老けた様な?


 って違う。アレはマデリーン様のお母様!!ヒステリックに叫ぶその女性を必死に宥めるマデリーン様もいる。


「うわぁ…エルラート夫人やらかしてんなぁ」


 アイラさんの意見に同意だわ。耳を澄ますと


「何故私達がこの者達と一緒の馬車なのです!?身分をわきまえ貴方達は遠慮なさい」


 扇子をブンブン振りかざしエルラート夫人が叫ぶ


「こっちだって幼い子供がいるのよ!?こんな所で身分を振りかざさないでよ!」


「お黙りなさい!私を誰だと…」


 咄嗟に2人の間に身体を入れ、フレデリックさが仲裁に入る


「エルラート夫人!ほんの少しの距離なので皆んなと同じ馬車でお願いします!」


「お、お母様!馬車の数が足りないのです。同じ馬車だって良いじゃありませんか」


うわぁフレデリックさんもマデリーン様大変そうと思っていたらマデリーン様と目が合った。


「ナディア様!貴女からも何か言って下さい!」


え?私?


「えっと…」


 皆んなの視線が私に集中する。こんな時何と言えばいいの?我が儘言わずに皆さんとご一緒に。で間違えていないかしら?


「あの…エルラート夫人、ここはひとまず馬車も足りないようですし…その、皆んなで早く避難するためですね、一緒の馬車に…」


 あぁエルラート夫人の圧が凄くて上手く言葉が出てこない。


「んまぁ!まさかシャナルごとき小国の娘がたまたま皇太子の婚約者に収まったからと、私に指図なさるおつもり?」


はい?


「全く、殿下に相応しくないにも程ありますわ。私達貴族に平民と同じ馬車に乗れと?シャナルではそうかもしれませんけど、ドレナバルは違いましてよ?」


プチ


「ええ。その小国出身、皇太子の婚約者の言葉です。早く皆と馬車に乗って下さい。後ろが詰まってます」


 小国出身だからとバカにするにも程がある。


「なっ、だ、誰に向かってっ」


「ドレナバルに四家しかない公爵家、エルラート公爵夫人とお見受けしていますが?」


「何を偉そうにっ!聖獣が偶々懐いただけの碌でもない田舎小国の娘がっ…」


 激昂していたエルラート夫人が急に言葉に詰まり目を見開いた


「ぷ〜〜〜」


ザワ 


 うん?皆んなの視線が私の胸元をみている。


 視線の先を見ると、え。ぷっぷちゃんが起きた…


 エルラート夫人の金切り声で起きてしまったのね…あくびをしているではないの。可愛いい  


 ぷっぷちゃんはひと伸びすると、定位置である私の肩によじ登ってきた。


ザワザワ 


「せ、聖獣様だー!!」


 近くにいた誰かが声を上げた瞬間、その場にいた人達が一斉に跪き頭を垂れた。


 え、いやまだ聖獣と決まった訳ではないのよ。


 そして水の入った桶から出てすぐ私の肩に乗ったものだから、肩がびしょびしょ…


「こ、ここでぷっぷ様が目覚められたのも、何かの思し召し。エルラート夫人、馬車にお乗り下さい」


気を取り直したフレデリックさんが言うと


「わ、わかっててよ」


 少し青ざめながらエルラート夫人とマデリーン様は出入り口から出て行くと、揉めていた人達も一列に並びその後に続いた。


 皆んなチラチラとこちらを、ぷっぷちゃんを見ては目を逸らすを繰り返しながら。


 何だか失礼ね。ぷっぷちゃんは見せ物ではなくてよ。視線を下げると


「ぷ〜」


 首を傾けとても可愛い


 私達も馬車に乗ろうとフレデリックさんを先頭に前へ進むと、後ろから誰もついて来ていない事に気づいた。


「フレデリックさん、待って。誰もついて来ていないわ」


 足を止めたフレデリックさんが振り返り


「皆さんちゃんと着いて来て下さい。まだ馬車には乗れるのですから」


「まさかそんな…」

「ナディア様だけならともかく、聖獣様も一緒となると…」


 誰?シレっと私を貶めたのは


「次の馬車がいつ戻ってくるかわからないので、できるだけ多く乗っていただかないと」


「いや、やっぱり…」

「それはちょっと…」


 ぷっぷちゃんが恐ろしい勢いで敬い奉られている。と言うより畏怖?そんな対象なんかじゃないのよ


「では、私達は後の馬車に乗ります。皆さん先に王宮に向かって下さい」


「いや!ナディア様、それはっ」


フレデリックさんが焦った様に言う。


「だって皆んなぷっぷちゃんと乗りたくないのでしょう?」


 ちょっと悲しそうに言うと


「べ、別にそう言う訳では…」

「そ、そうそう。恐れ多いですし」


「ナディア様、ここは皆んなの言う通り先に行ってくれた方が…」


 フレデリックさんはそう言ってくれるけれど


「そんな訳にはまいりません。民達より先に避難するなど」


 ふふふ…民思いでしょう?これで私の評判も少しは良くなってくるはず


「さっきのお貴族様にはさっさと行けっ言ったくせに自分は我が儘かよ…」


あら?


「何よりも大切にしなければならない聖獣様を危険に晒すなんて…」


 ちょっと待って…何か違うわ。私は皆んなの命が大切だと言いたかったのよ。


「ナディア様、ここは引いて下さい。これ以上はマズイです」


 小声でフレデリックさんが言ってきた。


 くぅ…仕方ないわ。何故か不満気な市民の見送りを受けながら私達は中央本部を後にした。


 ハラハラと雪の降る中走る幌馬車は、魔法がかかっている様でやや爆走に思える速さで進む。


 馬車は詰めて座れば30人は乗れる筈なのに、5人しかいないし


「マズイなぁ…ぷっぷちゃん完全に聖獣扱いだったな」


「本当よね…皆んなの頭の中でぷっぷちゃんが聖獣である『可能性』って言葉がなくなってるわ」


 アイラさんとコニーさんの言葉に皆んな頷いている。


「なぁフレデリック、本部以外にいた人達もあんな感じか?」


 御者をしているフレデリックさんは少し考えてから


「まぁ大体。殿下とセラさん、ラッサ将軍は事あるごとに可能性だって言ってたけど、強調すればするほど市民の期待が上がって行ってって感じで」


「さっきのナディアちゃんへの反応見ても、聖獣様に振り切ってる感じだったわねぇ」


 コニーさんの最後の言葉に馬車内が沈黙に包まれる。


 ぷっぷちゃんへの期待が高まれば高まる程、違った時の反動が大きい。一体どうすれば…


「…いっそ聖獣として扱うのはどうですか?」


 エアリー!?


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