16話
村の中央の教会。
周りに沢山の兵士達が武器を持ち臨戦体制で構えていた。
「通るぞ。道を空けろ」
背後から現れた私達にギョっとした兵士達が殿下を見て道を空ける。
「殿下戻ってきてくれたのですね!… ?」
「無事のお戻りで!ってソレは?」
「説明は後だ。セラ!セラはいるか⁈」
教会の扉を開け殿下が叫ぶと
「ディラン⁈無事なのか⁈」
「問題ない。状況はどうなっている?」
「ノアが戻って来たけど酷い怪我で動けない。それより王宮の制服を着た奴らに襲われてるって一体どうなって…」
セラと言う人はいきなり言葉を途切れさせた。
「あんた一体何してるのさ⁈何で小僧を担いでるんだ⁈」
小僧⁈
何故⁈
兵士の制服だから⁈それともこの綿帽子のせいかしら⁈
「事情は後で説明する。それよりどこまでこの村に攻め込まれてる?」
「…まだ多分入り口で競り合ってる筈だ。どうする?」
「俺が行く。行ってる間コレを頼む」
言うなり私をセラと言う人に放り投げ走り去ってしまった。
私は一体どうすれば??
「…相変わらずな…。大丈夫か?」
手を出されたので掴んで立ち上がる。
「はい。ありがとうございます」
「…アンタ誰だ?女…だよな?」
「あ、はい。ナディア・ド・マイヤーズと申します。ディラン殿下の婚約者になりまして」
大変!兵士の制服でカーテシーは変だわ。仕方なく膝を少し曲げての挨拶をする。
「婚約者⁈ディランの⁈」
周りがどよめいた。
見回すとさほど大きくもない教会に兵士が100人程いる。
「僕はセラ。ディランの側近をしている。ナディア様とお呼びしても?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
所作の綺麗な人だと思った。
貴族?
「とりあえずディランが来たなら何とかなりそうだ。みんなここで暫く待機!それぞれやれる事やってて。
さささっ、ナディア様はここに座ってて」
椅子を差し出され腰をかけるも周りはバタバタと動いていて落ち着かない。
そうは言っても規律正しい軍人の動きに私の出番はまるで無い。
兵士達は私の横を通り過ぎて行く時
「寒くはないっすか?」
「喉乾いていませんか?」
「入り用な物があったら言って下さい」
皆んなとても親切に声を掛けてくれる。
ー「殿下は勿論兵達の士気も更に更に上がります」ー
と言っていたのはセルゲイさんだったわ。
なるほどねと思う。
あの時はそんなバカなと思っていたけれど殿下に婚約者がいるのといないのでは大違いだ。
万が一にも殿下の皇太子剥奪なんて事になったら、直接の部下達は路頭に迷う。
今後の身の振り方も考えないといけないものね。
そんな事をぼんやり考えていたら、皆んなが一斉に顔を上げ、同じ方向を見上げていた。
なになに?
何かあったの?
自分1人だけキョロキョロするのも何だから私も同じ所を見上げてみたら
「ナディア様も感じたのですね」
何を?
ノアさんがいつの間にか側に来てそう言った
「相変わらずだよ。桁違いだからね。ディランの魔力」
殿下また何かしたのかしら?
ノアさんに「私は魔力が無いのでわかりませんでした」と言っていいのかわからないので、とりあえず作り笑顔で誤魔化してみた。
「どのくらい一緒にいられるの?ディランと」
え?
「僕は1〜2時間がいい所。それ以上は無理かなぁ。ナディア様は?」
あぁそちらの意味でしたのね。
てっきりいつまで婚約者でいられるの?の方かと思ってしまった。
「私は…」
一日中と言ってしまう所だった。
どうしましょう。
嘘をついた方がいいのかしら?
バーン!
教会の扉がいきなり開いた
「あ、おかえりディラン。どうなった?」
良かった。
丁度いい所で帰ってきてくれた
「どうも何も面倒臭かったから、村を封鎖してきた」
「「封鎖?」」
「あぁ。この村の主な産業は農業だったな?農作物の在庫と今年の収穫量を調べてくれ」
「お前まさか…」
ノアさんは立ち上がり教会を飛び出して行った。
扉を開けた瞬間外の喧騒、と言うより阿鼻叫喚が聞こえてきた。
何⁈
ドキドキしながら待っていると再び扉が開き
「ディラーン!てめぇ一体何しやがる」
セラさんの絶叫が音響の良い教会に響きこだました。
「だから封鎖したと言っただろ」
「俺達の隊員がまだ外にいただろ!どうするんだよ!」
「各部隊長に点呼とらせろ。その後足りない隊員を確保しに行く。すぐ処分されたりはしないだろ。後、農作物の方もやっといてくれ」
「正気か⁈本気なのか⁈」
「正気だ。そして本気だ」
真剣な顔の殿下に只事ではないものを感じる。
一体外はどうなっているのかしら?
「ディラン、お前はこれからどうするんだ?」
「続きをやってくる」
セラさんと殿下が話をしている間こっそり外を見に行ってみよう。
足音を立てない様そっと扉に近づく。
幸い?な事に兵士達は2人の会話に気を取られていて私に全く気づいていない。
扉から素早く外へ出ると先程聞こえた阿鼻叫喚はまだ治まっておらず、兵士も村人も走り回っている。
皆んなが逃げていく方向と反対側へ向かうけれど何も見えない。
道沿いに松明があるけれどそれ以外は暗闇だ。
しばらく歩くと松明が途中で途切れている。
あれは何かしら?黒い影?
更に近づくと壁が見えてきた。
壁?こんな所に?
え?待って。
封鎖ってこれの事?
多分入り口らしき所に壁が出来ている。
高さも5メルトン程だろうか?右を見ても左を見ても土らしき物でできたソレは途切れる事なく続いていて…これっていわゆる城壁?お城は無いのに…
「何勝手に外に出てるんだ」
「フギャ」
「1人になるな。危ない」
「ス、スミマセン。ちょっと気になったもので。それよりディラン殿下こんな所にいてよろしいので?」
「お前が勝手にいなくなるからだろ」
そうでした。
「一旦教会へ戻るぞ」
「はい」
すごすごと殿下について行く。
教会周辺はまだ混乱していて色々な人達が走り回っている。
教会に入ると更にバタバタしていて、セラさんがヒステリー状態で何か指示を出していた。
「セラ、俺はこれからナディアを連れて残りの壁を作ってくる。後を頼んだ」
「ふぇ⁈ナディア様連れて行くの?だ、大丈夫なの?ナディア様は」
「問題ない。行くぞ」
「は、はい」
私は少しだけ気まずく、セラさんに頭を下げてから殿下について行った。
「ディラン殿下、ちょっとお尋ねしたいのですが」
かなりの距離を歩いてからおずおずと聞く。
さっきから、と言うよりこの村に来てから殿下がピリピリしているのが分かる。
魔力も漏れたりしているはず。
私にはわからないけれど。
…機嫌が悪いのしら?
「何だ」
ほら。目も合わせない。
「私に魔力が無い事は言わない方がいいんですよね?セラさんにも?」
「先程問題ないと言ってきたから、セラならある程度察しているだろう」
「あれで?あのやり取りでは私が魔力豊富でディラン殿下とご一緒していても問題ない、にも聞こえませんか?」
「それならそれで構わんだろう」
「構いますよ。私嘘つきみたいじゃないですか」
「そんなもんか?」
「そんなもんです」
あら、やっと目が合った
「ならばセラにだけ言え」
「わかりました」
誤字を訂正しました。
ありがとうございます