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流されて帝国  作者: ギョラニスト
16/205

15話

「その事なのですが、ちょっと気になる事があるのです」


裾を折り上げた殿下は立ち上がり


「なんだ?」


「罠、と言う事はないですか?」


「どうゆう意味だ?」


眉を顰めた


「大隊が来てハイドンの村人をテアドール村に避難させてからそこの井戸に毒って…テアドール村の人達は色々おかしいぞと思うと思うのです」


「…俺達の隊が疑われる?」


「いえ、そこまでは。でもフォリッチは関係ないと言う印象になりませんか?」


「何故そんな回りくどい…いや、ちょっと待て」


ディラン殿下は少し考えてから


「お前もちょっと来い」


そう言って3人がいる天幕に再び行く事になった。



3人は既に寝支度を済ましていたが、もう一度同じ説明をすると


「ドレナバルの大隊が戦の為この近辺をどうにかしようとしていると、取られる可能性もあると言う事ですか?」


エランさんは言った


「うーん。その意見にはちょっと違和感があります。


 フォリッチが一方的にこちらを攻めるのならハイドン村を焼き払うと同時にテアドール村の井戸に致死毒を仕込むと思うのです。もしくは両方一気に焼き払うとか。


毒でまだ誰も亡くなっていないのですよね?

何だかおかしくないですか?」



4人共黙ってしまった


 大隊が来る直前にハイドン村が焼き払われて、救護と復興の為テアドール村に陣を張った直後に井戸にすぐに死なない程度の毒って…やっぱり違和感しか感じない。


「オイラ達の隊員も半分近く寝込んでいるのは?それも何かおかしいか?」


ちょっと眠そうだったヒューズが目をパッチリさせて言った。


そうよね…私の考え過ぎかも知れないけれど、何故時間差でしかも死なない程度の毒って


「…マズイ」


ディラン殿下がそう言った瞬間私以外の3人がテーブルに手をついたり膝をついたりした。


「た、隊長、、魔力が」


「あ、スマン」


 少しすると3人は立ち上がり頭を振ったり深呼吸をしていた。


 多分ディラン殿下ウッカリ魔力ダダ漏れさせてしまったのね。

3人共顔色が凄く悪い。


ブルーノさんが


「ナ、ナディア様は何とも?」


あら?皆んな知らないの?チラリとディラン殿下を見ると小さく首を振った。


言うなと言う事ね


「ええ。まぁ」


「凄いですね…」


3人共感心した様に私を見る。

やめて。

そんなキラキラな目で見ないでほしい



少しして立ち直ったエランさんは


「隊長、マズイとは?あんなに魔力ダダ漏れさせる程の事で?」


ずっと考え込んでいた殿下は


「今すぐテアドール村に行く。地図をここへ」


今すぐ⁈


「何週間か前に橋が流されたと言っていたな?どこの橋だ?」


広げた地図を前に殿下が聞く


「ハッ。ここのテアドール村の北にある橋です。確か2週間前鉄砲水で」


私も地図を覗き込む。


 ドレナバルとフォリッチの国境はこの川で引かれているらしい。


シャナルの地図ではここは昔イグリッチだった所だ。


このまま川沿いに西へ向かうと旧ポストナーになる。


「鉄砲水だと?雨が大量に降ったと言う報告はなかった。これでハッキリしたな」


何が?


「これは…」


エランさんも絶句している。

だから何が?


「よし。急ぐぞ」


 そこから急に皆バタバタし始めた。


私は説明を諦め自分の天幕へ行き綿帽子を被る。

顎紐を結ぶのも少し上手くなった気がするわね。


バスバスッ


ノック(?)と共に天幕にかかっている布が上げられる。

ノックの意味がないわよね


「準備はできたか?」


「はい」


 準備と言っても私の場合綿帽子を被るだけだ。

荷物も無いし




 月明かりの下殿下の魔力で足元を照らしながら4頭の馬もどきが疾走する。


 キャシー以外ツノ付き兜を被っているけどみんな角生えているのよね。


 キャシーはそれまでの暴走スピードではなく普通のスピードで足並み揃えて走ってくれている。


 やればできるじゃない。

始めからこのスピードで走ってくれたら私も白目を剥く事なかったのに。


 そう思った瞬間キャシーはブヒヒンと鳴いた。


この子は間違いなく私の心を読んでいるに違いない。


ブヒヒン




キャシーに乗る前殿下が軽く説明してくれた


「お前の違和感が正しければ今狙われているのはテアドール村ではなく俺達の隊だ」


私は頷く


「橋が流されたと言っただろう?あの村の南側は大きな湿地帯でな。東にはこのハイドン村だから襲われたて逃げるとすれば橋が無い今、西の旧ポストナーしかないんだ」


「では旧ポストナーに向かうのですか?」


「いやテアドールへ行く。側近を残しているんだが多分気づいている筈だから」


 今テアドールが襲われたら怪我人や病人を連れて皆んなで移動するのは不可能よね。


 でも隊員や村人で動ける人は西へ向かっていてもおかしくはない。


 それでも私達はテアドールへ向かうの?

襲われていらたら一緒に戦うため?


…何だか違う気がする


「あのディラン殿下、西の旧ポストナーに何かあるのですか?」


「…多分だけど、旧ポストナーの辺りはフォリッチに既に奪われている可能性がある。昨日の時点で王宮はフォリッチの制服の奴らが闊歩していた時に気づけていれば…だから狙いは俺達の大隊って事になる」


そうか。元老院側にしてみれば殿下が1番の不穏分子だわ。

応援で呼んだ大隊の中にもスパイがいると言っていたし


「挟み撃ちを狙っていると?」


「ああ」


ヒュっと喉が鳴った。


 あの大隊の人が全員敵ではないにしてもスパイが混乱に乗じて何かしら仕掛けてくる。


制服を着ていても最早敵味方の区別もきっとつかない。


皇太子候補がフォリッチと手を組んだと言っていたし王宮にはフォリッチの制服を着た人が歩いていた。


殿下の大隊は今挟み撃ちにされそうになっている。


…これもう負け戦じゃない?




それでもキャシーは走る。


時刻が深夜になる頃やっと速度を落とした。


耳を澄ますと喧騒が聞こえてきた。


始まってる?


なるべく音を立てず二手に別れて村に近づく事になった。

3人は村の正面入り口へ、私達は裏口へ向かう。




「ここから出ては危険です!北側の森に陣を張ってあるのでそちらに避難して下さい!」


「ふざけるな!人の村で毒を撒いて挙句戦まで持ち込みやがって!そこをどけ」


「ダメです。西へ行くのは危険です」


「やかましい!お前らの言う事は信用ならねぇよ。いいからどけ!」


殿下が走り出し慌てて私も付いていく。


間に合わなくて置き去りだけど。


私が村の裏口に到着した時には村人は倒れ、隊員達は蹲っていた。


殿下またやったのね…


「動ける隊員は村人を陣へ運べ。少しすれば気がつくから」


隊員達はノソリノソリと顔色悪いけど動き出した。


 昔シャナルに来た劇団が『ゾンビ』と言う恐ろしい演目を上演していた時があった。

 それを見た日幼心に恐怖を感じ夜1人でトイレに行けず侍女を叩き起こした挙句漏らしてしまった。


思い出したくも無い過去。


トラウマの演目なのに今、正に目の前でゾンビらしき兵士がノソリノソリと動いている。


それなのに殿下は動ける隊員の1人を捕まえて


「セラはどこにいる⁈」


「む、村の中央、のき、教会に」


「ナディア行くぞ」


「は、はい」


 走る殿下に付いて行くのは容易ではない。


身体強化魔法も使えないし、動きを助ける風魔法も起こせない。


 どうにか見失わない様に走ってもあっと言う間に殿下は走り去ってしまった。


 どうせ追いつけないしゾンビもどきも大分復活して普通の動きになったので、私は全力疾走をやめて小走り程度で走っていたら、前からもの凄い形相の殿下が戻ってきた。


「スマン。ナディア。今担ぐから」


 言いながら肩に担がれてしまい、私は何度目かの声無き悲鳴を上げる事になってしまった。


 婚約継続の話の時キチンと「担ぐの禁止」とそう言えば言ってなかった事を思い出した。


後悔しか込み上げない。





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