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流されて帝国  作者: ギョラニスト
159/205

158話


「身体の方はもう大丈夫か?無理はするでないぞ」


「あ、はい。まだクラクラしているのですが、馬車に乗るだけなので大丈夫です。本当にご迷惑おかけしました」


 陛下がどんなに別件で不機嫌だろうととりあえずお詫びだけはしておこう。後々の為にと思っていたら王妃様は


「謝る必要はないのですよ。災難だったのですから」


「ありがとうございます」


 王妃様は表情に現れないけれど、優しい言葉をかけてくださった。相変わらず表情に表れない方のよね。


 それに比べて不機嫌極まりない陛下がジッと寝台馬車を見ている。何かしら?


「陛下、何だか懐かしいですね」


「うむ…」


 懐かしい?陛下と王妃様にとって?


「ふふふ…ディランを孕った時に酷く具合が悪くなってしまって、移動もままならなかった時に陛下が特注で作ってくださったのよ。この馬車」


寝台馬車を?


「あの子を、ディランを孕ったとわかる頃に具合が悪くなってしまって…それまでの子達の悪阻に比べ、あまりにも具合が悪くて。既に膨大な魔力を宿していたみたいで、私はベッドから出る事もできず気落ちまでしてしまって…」


 王妃様のお腹に宿ってすぐ具合を悪くさせるなんて、殿下の魔力恐るべしね


「その時に陛下が作ってくださったのよ。沢山の魔道具を使用してあって滋養強壮、極力具合が悪くなくなる様に作られているの」


 ふふふと笑いながら仰っるけれど、そうまでして外に出る予定って何かしら?ベッドにそっとしてあげた方が良いのに。


 ちなみに私はコレに乗って軍の全速前進された時に危うく吐きそうになったのよね。


 私の表情を見た王妃様は


「ディランのすぐ上の娘の1歳の生誕祭が王宮で行う予定があって、王宮内での移動の為の馬車なのよ」


はい!?


「王族の住む東宮から中央まで迷宮の様な所をとてもじゃないけど歩けなくて。まさか王宮内で人に抱えられながら歩く訳にもいかないでしょう?」


 確かにツギハギだらけの王宮だったけれど…その為に馬車はやりすぎでは?


「まぁ予算の使い過ぎだと、その後元老院との溝も深まってしまい大変だったのだけれど、私は陛下の愛を感じたわ」


 もう言葉も無いわ。殿下もおかしな所があるけれど、陛下も王妃様は更におかしい。


 まぁお金持ちの国のやる事なんてシャナル出身の私に分かる訳ないわね。


 王宮の馬車に乗り込もうとした時、王妃様がやって来て


「ナディアはこっちの寝台馬車にお乗りなさい。この馬車には陛下と私が乗りますから」


「いえ、でも…」


 今までお借りしていたけれど、元々この寝台馬車は王妃様の為に作られた物だし。躊躇っていると


「今この寝台馬車が必要なのはナディアでしょう?」


 滋養強壮で極力具合が悪くならなくても棺桶馬車よね…結局言い切られ、踏み台に足をかけると


「ナディア様〜」


 シエナ様とプリシラ様、エレノア様がお見送りに来てくれた様だ。


「黙って行ってしまうおつもりだったのですか?あんなに仲良くしていたのに薄情じゃございません事!?」


 来るなりプリシラ様が叫ぶように言った。一体いつ仲良くしたかしら?


「ごめんなさいね。怪我の影響で少し具合を悪くしていたので」


 プリシラ様とはむしろバチバチでしたわよね?そんな事言わないけれど。


「お怪我の具合はもうよろしいのですか?」


 優しいシエナ様が気遣うよう尋ねてきた


「ええ。傷はもう良くなったのですが、まだ少し血の気が足りないだけで」


「まぁ、帰りの道中も無理なさらないでくださいね。それと…」


すっと耳元に口を寄せ


「同時中途覚醒聖女の話を聞きましたわ。私の方でもきっと突き止めてみせますわ」


 あら?シエナ様ってかなり強気な方?底冷えのする表情で仰っるから鳥肌が立ってしまったわ。


 3人にお別れの挨拶をし、私と聖女になったと言うアイラさんが寝台馬車に向かい乗り込むと


「何故殿下までこの馬車に?」


「何だ。その嫌そうな顔は」


 馬車に乗り込んだら既に荷物を持った殿下がいた。


 あら、嫌だ。顔に出してしまうなんて


「いえ、アイラさんと2人だと思っていたので。何かお話しでもあるのでしょうか?」


「まぁ、今後の話しもあるが…寒くてな」


はい?


「あぁ、殿下今魔力ないから。騎乗するには厚着しなきゃだし、そうすると周りに怪しまれるから」


 アイラさんの解説になるほどと思った。それならば少々狭くても我慢しましょう。と思っていたら


「じゃあアタシ降りるよ」


「ちょっと待って!!」


 アイラさんは元々私の体調管理の為一緒に乗ってくれたのよね!?


「何?あ、もしかして照れてんの?思う存分イチャついて」


ニヤリと笑ってアイラさんが言う。


「何言ってるんですか!アイラさんは私の体調の為に同乗してくれたのでしょ!?」


「そうだけど元々この馬車色んな加護が施されてるから、アタシは保険みたいなモンだよ。それに騎乗の方が好きなんだ」


そう言ってヒラリと馬車から降りてしまった。


 イチャつくって一体何!そもそも私と殿下はそのような関係では…婚約者だったわ。


 でもだからと言って今さら感がお互い隠せない。


「はぁ。やっぱりこの馬車の中は暖かいな」


 そんな事を言いながらベッドと入り口の間の細長い隙間に毛布を敷き、寛ぐ気満々な殿下が言った。


「どの様な魔道具が取り付けられているのですかね?馬車酔いはしましたけど」


「ん〜…まず馬車内の温度を一定に保ち、滋養強壮、食欲増進と気落ちしないよう良い香りがするとかそんなだった気がする」


 食欲増進ですって!?だから私はふっくらとしてしまったのではなくて?やはりこの馬車を降りようかしら?


 そんな事を考えている内に殿下は持ち込んだクッションを置き、寝台横の隙間をカスタマイズし始めた。


「あれから魔力は全然戻らないのですか?」


「あぁ。でもあれ以来ナディアの茶を飲んでいないから劇的にといかないが、小指の先っちょも漲りつつある」


 何故小指…しかも先っちょだけ漲ったらこの間の様に暖炉爆破のような事が起こってしまうのでは?きっとこの馬車は木っ端微塵よね。


 私はそっとベッド下の物入れから綿帽子を取り出し被る事にした。




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